【伊藤美玲のめがねコラム】第59回「女性のためのスポーツサングラスショップ」
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ここ最近、ジョギングや山登りなどアクティブな趣味を楽しむ女性が自分の回りにも増えてきました。そうした場面で使うサングラスについてアドバイスを求められることもしばしばです。
じつは、そんな人にぜひ行ってみてほしいお店がこのたび誕生しました。今年4月26日にオープンした銀座LOFTの3階にある「オードビー銀座」です。
オードビーといえば、台東区上野にある日本初のスポーツサングラス専門店。スポーツのジャンルに合ったフレーム・レンズ選びに加え、利用目的に応じたカスタムを得意としていて、プロアスリートのサポートも行なっています。
この銀座店は、そんなプロショップである同店が“女性向け”を意識した品揃えやサービスを打ち出しているんです。
女性向けのフレームが豊富なのはもちろん、たとえば毎週月曜日には女性専用の相談日を設けているのも特徴(要予約)。シーンに応じたサングラスやレンズのカラーの選び方など、基本的なことから専門性の高い内容まで、なんでも答えてもらえます。また、長年化粧品メーカーにいたというスタッフからUVケアのアドバイスを受けられるイベントなども予定しているのだとか。
これは紫外線にさらされる環境下でスポーツを楽しむ女性なら、誰もが気になるところですよね。
“プロ御用達の店”と聞くと敷居が高い感じがするかもしれませんが、ロフトのなかだからフラっと立ち寄れますし、タウンユース向けのサングラスやめがねもあるから、スポーツに限らずサングラスを探している人にはオススメです。使っているめがねを度付きのカラーレンズに変える、といった相談にも乗ってもらえますしね。あ、もちろん男性向けのアイテムだって充実してますよ!
「では、プロが頼る専門店は他と何が違うの?」。ということで、今回はオードビーの代表である佐藤吉男さんにじっくり話を訊いてきました。
自分が使えるスポーツサングラスがなかったんです
競技中にサングラスを着用しているアスリートの姿。今では当たり前の光景ですが、佐藤さんが学生だった頃はサングラスの種類が少ないどころか、UVカットという概念もなかったのだそうです。
佐藤僕がめがね業界に入ったのは今から40数年前なんですが、その時代のツールドフランスの写真を見てみると、めがねをかけている人もサングラスかけている人もいないんです。スポーツサングラスの需要が世界的にもなかったことがわかります。
私はといえば今から50年近く前、小学生の頃から近視が強くめがねを使っていたんですが、最初に苦労したのがスキーですね。めがねをかけていたからゴーグルができなくて。高校のときは山岳部だったんですけど、雪山を登るにもめがねの上からクリップを付けるしかないし、おまけに安物を使っていたから、夜になると目がしばしばしてしまうんです。
クリップをしていても、周りから光が入ってくるということですか?
佐藤いや、昔はUVカット性能なんてあまり考えていないから。まぶしさを防ぐだけであって、紫外線をカットするという考え方自体がないんですよ。日本でスポーツサングラスといえば1970年代半ばに山本光学からスポルディングが発売されて。
僕はコンタクトをしながらアビエーター(※)タイプのものを使っていたんだけど、スキーでもバイクでも風を巻き込んでしまうからコンタクトが痛くて大変な状況でした。その後1985年にオークリーやルディ・プロジェクトが立ち上がるまで、本格的なスポーツサングラスはなかったに等しいですね。
まだ30数年ぐらい前の話なんですね
佐藤はい。とはいえ、それらのブランドも最初は度付きに対応していなかったし、そもそもスポーツサングラスはスポーツ用品店でしか販売されていなかったから、度付き対応はできないんです。そうした状況がしばらく続き、なかなか変わりそうにもない。それならばと、自分でお店を始めました。1996年のことです。
オードビーがオープンしたころ、日本でオークリー・ジャパンが立ち上がったりなどして、スポーツサングラスの需要も高まってきました。それまで流通経路や仕入れの掛け率などの問題で、スポーツサングラスはスポーツ用品店、度付きのサングラスはめがね店でという垣根があったんですが、うちはそうした垣根を取り外し、スポーツサングラスもめがねも取り扱いました。当時人気のあったアルマーニのフレームに偏光レンズを入れたら、釣り好きのお洒落な人にウケたりしてね。
自転車や登山の専門誌などからの取材も多く、これまでサングラスで困っていたお客さんが口コミで来てくれるようになりました。
今ではめがね店で当たり前のようにオークリーなどのスポーツサングラスを見かけますけど、めがね店で扱うというのは画期的だったんですね。でも、業界初の試みとなると、いろいろご苦労もあったんじゃないですか。
佐藤そうですね。まずひとつに、レンズがないんですよ。スポーツ用のフレームに適応するカーブ付きの度付きレンズがなかったんです。でも、プラスのレンズって凸レンズで盛り上がっているでしょ? 「それを削ればカーブ付きになるのでは?」ってことで作ってもらったりして。でも業界からは「そんなカーブ付きのレンズをつけたら危ないじゃないか」と非難されたりもしましたよ。でも、お客さんは本当に困っているから、それでも必要としているんですよね。
そうしたお客さんが集まるほど、どんなことで困っているのかを伝えてくれます。それをひとつずつ解決して……、と繰り返すことで少しずつ商品も、対応できることも増えていきました。
近所のジョギングからエベレスト登頂まで
オードビーさんはプロのアスリートからも高い信頼を得ていますが、では他店とは一体どんなことが違うのでしょうか。
佐藤一番の違いは、情報量ですね。各スポーツの特性に合っためがね・サングラスを使うことで最良のパフォーマンスが発揮できるわけですが、20数年間スポーツサングラスを扱い続けてきたことで、情報の蓄積量が圧倒的に違うわけです。
長年様々なジャンルのプロをサポートしてきましたから、これからジョギングを始めたいという初心者の人にはもちろん、「エベレストに登頂したい」「ル・マン24時間レースに出たい」といった人にも、的確なアドバイスができます。
商品についての知識だけでなく、そうした極限状態でどんなサングラスが必要になるかという知見まであるということですね。それは確かに、どこでもできるわけじゃないですね。
佐藤もちろん我々スタッフもそれぞれスポーツが好きで、様々な商品を自分でテストしたりしているんですけど、自分で体験できないことに関してはプロの方々のフィードバックから情報を得ています。ダカール・ラリーに出ている方やラジコンの世界チャンピオンなどジャンルも様々なんですが、世界でトップを競っている方たちが、見え方のことやシーンに応じたレンズのカラーだとかを実際のフィールドで使用したうえで教えてくれるわけです。我々はそれを踏まえてアドバイスできるというのが、他とは大きく違うところですね。
なるほど。スポーツ選手には特定のメーカーからサポートを受けている人もいますが、お店としてのサポートというのは、何が違うんでしょうか。
佐藤お店だとメーカーの垣根を越えてサポートができるので、レンズもフレームもパーツも一番良いものを使うことができます。選手の要望にとことん応えられるというのが強みです。
そうした方たちのめがねやサングラスを作る場合、検査の段階から違いがあるのでしょうか。
佐藤基本の検査は、ほぼ同じです。ただし、作成時はその検査結果を踏まえながら、各スポーツのフィールドに応じてチューンナップさせていく必要があります。現在はカーブ付きのレンズでも、そり角やあおり角などのデータを入力すると機械が自動的に計算して度数を決定してくれますが、実際のフィールドで使うとなると、必ずしもその設計が適しているとは限らないんですよ。ですから、うちではメーカー任せにせず、その人がサングラスを使う状況を踏まえて自分たちで計算して発注しています。
たとえば、レンズの色が濃いと度数補正が弱まるんです。パラグライダーで飛ぶときは、まぶしさを防ぐためにレンズの色はかなり濃くするわけだけど、同時に遠くを見るためにフルに視力がでるようにしなければいけないでしょう。そこを加味するのは、経験則でないとできないんです。
スポーツのジャンルによって、使用する環境などはかなり異なるわけですよね。パラグライダーのような極限状態だと、場合によっては仕上がりが命を左右することになりかねないですもんね……。オードビーさんでは、そこを踏まえて作成してくれると。なるほど、プロが頼るのもわかります。
紫外線対策、してますか?
佐藤おっしゃる通り、スポーツには遊びでするものと、命に関わるものとがあります。後者の場合、もっとも優先されるべきは機能で、山登りなら紫外線カットやブルーライトカットは必須です。
僕はトレッキングが趣味でヨーロッパの山に行ったりもするんですが、そこではほぼ100%の人がサングラスをかけているんですね。でも日本の山だと、半分ぐらいしかかけていない。よく「日本人は瞳の色彩が濃いから目が強い」と言われていますが、それは大きな間違い。まぶしさに強かったとしても、紫外線に強いわけではないんですよ。まだまだ紫外線に対しての意識が低いんですよね。
たしかに、「まぶしくなければ大丈夫」と思っている人は少なくなさそうです。
佐藤ラインホルト・メスナーという登山界のカリスマがいるんですが、彼は「山に登るときは命に関わる装備を2つ持っていく」と言っていて。その1つがサングラスなんですよ。見えなくなってしまったら、それ以上登れなくなってしまいますから。それぐらい登山をする人にとって、サングラスは命に関わるものなんです。
登山のような過酷な状況だけでなく、たとえば日中に長時間屋外で運動をしている小学生や中学生などの目も心配です。紫外線から目を守るために、本当はアイガードをかけたらいいと思うんですよ。カラーレンズだとカッコつけて見えるというのであれば、クリアレンズだっていいわけですから。
なるほど、クリアレンズだって紫外線はカットできますもんね。私ももう少し紫外線対策に関して、情報を発信していかないと……。
佐藤山ガールのブームとか、自転車やジョギングといったスポーツの人気が女性の間で高まってきたのは、ここ10数年でしょう? これまで、女性が機能性の高いサングラスを探そうとしても、どこに相談していいかわからず困っていたという人も多かったと思うんです。銀座店は、そうした女性にUVケアなども含めてきちんと提案ができるお店にしていきたいですね。サングラスを通して、女性の活躍を応援できたらと思っています。
取材を終えて
今回佐藤さんのお話を伺い、改めてスポーツにおけるサングラス選びの重要性を強く感じました。サングラスって、専門店だけでなくアパレルのショップや雑貨店などにも置かれているため、めがね以上にテキトウに済ませている人が多い印象。とくに女性は「デザインが好みならなんでもいい」となりがち。だからこそ、こうした“敷居の低い専門店”の重要性を強く感じてならないのです。
まだまだ日本だとサングラス=カッコつけているというイメージが先行しているけれど、“目を守る道具”としての認識がもっと広まっていけば……、いや広めていかなければなりません。
運動が苦手でスポーツの知識に乏しい私にも、いろいろ丁寧に教えてくれた佐藤さん。「せっかくなので、この取材を運動するきっかけにしよう!」と、じつはジョギング用の度付きサングラスを作ってもらいました。強度近視だからとあきらめていたけれど、私でも作れるものがあったことに感動! その感動については、また改めてお伝えします。まずはしっかりレビューできるよう、頑張って走ります!!
※ アビエーター:
アメリカ空軍のパイロット用として1930年代に誕生したモデル。パイロット用として開発された為、人間の目の動きと同じ範囲の広い視野を確保できる。ティアドロップ型とも言われるレトロなデザインは定番人気となっている。
オードビー銀座店
【住所】東京都中央区銀座2-4-6
銀座ベルビア館3階(LOFT内部)
【TEL】03-6862-6655
【営業時間】11:00~21:00
【定休日】年中無休
https://www.eaudevie.co.jp
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。