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巨大めがねオブジェの会社 ハセガワ・ビコー社長インタビュー〜社長について編〜

巨大めがねオブジェの会社 ハセガワ・ビコー社長インタビュー〜社長について編〜

| めがね新聞編集部

小岩駅の近くにある、巨大なピンクのめがねオブジェが目印の株式会社ハセガワ・ビコー。前回はその巨大めがねオブジェについての真相を探りました。

今回は世界初のシリコンパッドを開発したり、巨大なめがねオブジェを作るなど、常に新しいことに挑戦し続けてきた長谷川珪三社長自身について聞いていきます。

巨大めがねオブジェについてのインタビューはこちら

初めてのめがねは老眼鏡

まず、生年月日を教えてください。

長谷川珪三社長昭和17年9月26日です。今年、74歳になりました。

おめでとうございます!視力はいまおいくつなんですか?

長谷川珪三社長めがねをかけて1.2と1.0くらい。めがねをかけないと0.いくつかですね。

普段からめがねをかけているんですが、免許は「眼鏡いらない」って言われたから免許証にその記載がされていないんです。それでね、この前免許センターに行ったら、「なんで眼鏡かけているんですか?」って聞かれて。思わず「眼鏡を掛けなければいけない人がかけてなければ違反ですが、掛けなくても良い人が掛けているのは悪いんですかね?」って言っちゃいましたよ。

言い得て妙ですね(笑)。担当者の方はなんて返事されたんですか?

長谷川珪三社長「そう言われればそうですね…」って(笑)。

そうなりますよね。はじめて眼鏡を掛けたのはいつごろですか?

長谷川珪三社長20いくつですかね。遠視だったので老眼鏡です。何しろ20代から細かい図面書いていたんで、30歳くらいでは+1コンマの老眼鏡。図面を描くときだけかけていましたね。

そのころと今で、めがねの図面を描く環境などは変わりましたか?

長谷川珪三社長僕は未だにドラフター(製図を手描きするための製図台)なんです。社員は僕の図面をもとにコンピューターキャドで描いています。

僕はコンピューターが大っ嫌いで(笑)、コンピューターは人類を破滅に追い込むと思ってます。「千年二千年後には土の中からパソコンがいっぱい出てきて『昔はこんなのを使っていたんだなー』という時代になるよ」ってよく言うんですよ。

面白いですね!なんでそう思われるんですか?

長谷川珪三社長一番簡単な話だと、コンピューターはすぐに画面に出るから、覚えなくなるでしょ。僕は昔、何十社というお客様の電話番号を全部頭のなかに入れていまして。

すごい………

長谷川珪三社長最近は短縮番号でやりますから、流石に忘れるようになりましたけど(笑)。

その忘れているのもコンピューターの影響ですもんね。私も手書きのとき、漢字とかあんまり書けなくなりました。普段パソコンばっかりなので。

文字は伝わればそれでいい

長谷川珪三社長僕にとって良いなって思うのが、僕は字が下手なんです。ある得意先ではビコーの社長からFAXが来るとパっと見た瞬間にわかるって有名で。何でか聞いたら「字が下手だから」ですって(笑)。

(笑)へー!面白い。

長谷川珪三社長だから僕は、僻みなんですけど「字が上手い人にあんまり頭の良い人はいないよ」って言ってるんです(笑)。

私の個人的な感覚なんですけど、昔の人のほうが字が上手いイメージがあります。

長谷川珪三社長そうですね!昔の時代劇なんかに出てくるのはすごくかっこいいですよね。僕は習字を小学校3年生位の時に2回通って辞めました…(笑)。そろばんは小学校5年生で3級取っていましたけどね。

文字は苦手なんですね。

長谷川珪三社長はい。ただ図面に書く字は「かっこよく書くね」って言われます。角ばった活字の字はかっこいいらしいです。さらさらって書くと…それはひどい。

ご自身の中で、文字に重きを置いていないんでしょうか。

長谷川珪三社長ええ、字というのは伝われば良いって思うのです。まぁ、僕が言うと「お前の字は伝わらないじゃないか」って言われてしまいますけどね(笑)。

カミさんと結婚した理由もそれで。カミさんが20歳の頃なんですが、私が設計した物のパテント出願文章(特許を申請する時に書く特許庁向けの書類)を社員に「清書して」って頼んだとき、他の社員は1行ごとに「長谷川さん、これなんていう字?なんて書いてあるの?」って聞かれたんです。でもカミさんだけが黙って僕の字を全部、清書して持ってきた。それで「あなたは私にとって必要な人だから結婚しよう」ということになったんですよ。

昔はめがねを嫌う人が多かった

奥様もめがねをかけているんですか?

長谷川珪三社長近視なんですけども、昔の女性はみんな近視であることを隠してましたから、最初は分からなかったんです。カミさんはそんなにひどい方ではなかったんですがね。女優で目がすごく綺麗な人は大概すごいド近眼ですよ。

聞いたことがあります。目がキラキラするんですよね。

長谷川珪三社長そう。水晶体が膨らみますから、目が飛び出ているみたいになってパッチリするんです。

ちゃんと理由があるんですね。真実を知ったときはショックでしたか?

長谷川珪三社長ショックって言うほどではないですけどね、「あぁやっぱりそうか」と。カミさんは70いくつになったいまでも新聞はめがねなしで読んでいますよ。その代わり遠くはだめですね。めがねをかけなさいって言うんですけど「なんか煩わしい」って。

慣れないんですね。女性がかけたら素敵だと思う眼鏡はありますか?

長谷川珪三社長そうですね。めがねの雑誌に載っている方を素敵だなって思うことはありますけど、特別これ!というのはない…あんまり興味を持たないって言ったほうが早いかなー。「お前めがね屋か!」って言われちゃいますけど。

めがねをかけていて「似合うな」と思う有名人はいるんですか?

長谷川珪三社長役者はだいたい男性の場合は似合います。女性の場合は似合う方は比較的少ないですが、面長の方は絶対めがねが似合います。ただ、僕が芸能界で好きなのは天知茂や高倉健なんですが、役者は役の中でやることがあるくらいで、基本的に舞台に出るときは必ずめがね取るでしょ。

そうですね。今でこそお洒落めがねの流行でめがねをかけた露出が増えていますが、昔はめがねを掛けてテレビに出るような方ってあんまりいなかったんですかね?

長谷川珪三社長いなかったですね。昔は特に女性が「めがねをかけたらキツくなる」と言われていて、めがねを嫌う方がいっぱいいました。最近はめがねを使ってお洒落をする人が多いですよね。

ファッションの一部になっていますよね。

長谷川珪三社長そうですね。その点では、めがね業界にとっては大変良いことですね。

めがねは技術の塊

眼鏡でこだわられているポイントってありますか?

長谷川珪三社長全部下がナイロール。ナイロールができたとき、これを考えた人は頭が良いなーって思いました。というのは、メタルでネジを最後に締めるとプラスティックのレンズはどうしても歪みがでるんですが、ナイロールだと締め付けがそんなに強くないので、歪みが非常に少ないんです。

形が好きというより技術的に好きなんですか?

長谷川珪三社長技術的ですね!めがねは技術の塊ですから。

なるほど、素敵ですね。

長谷川珪三社長技術といえば、昔は図面を描く人間がデザインもしていたのが、今のデザイナーの方々は図面が描けなくて、技術のことは何にも分からないでデザインする人が増えていますよね。

つい最近も困ったことがあって…大きい会社のメーカーさんなんですけど、デザイナーの方に「これを作って下さい」って言われて、フレーム全体のデザインを見たら技術的に作れないものだったんですよ。「このパーツもモダンもこのままの寸法では強度が弱いので、もう0.5ミリ太くしてください」って言いました。図面が描けなくても技術の人に見せて、まず作れるか作れないかの判断をしないと。

現在は、デザイナーさんが自由にアイデアを出して、作る側の人間が「この通りだと作れないけど、こういう工夫をすれば作れるよ」っていうやりとりをしながらめがねにしていくというプロセスが主流ですよね。キモになるのは技術者とのやり取りですが、そこにも問題はあるのでしょうか。

長谷川珪三社長そうかもしれません。僕が会社を作ったきっかけもその“技術”の部分なんです。一番最初にシリコンパッド(ハセガワ・ビコーが世界で初めて開発)を作って、ある会社に持って行ったら馬鹿にされてしまって。話をまともに聞いてもらえなかったんです。持って行った会社が地方だったのもあって「東京の人間が偉そうに言うんじゃないよ」と。しょうがないから、東京で精密機器を作っている会社のめがね事業部のめがねフレームに使ってもらうことになりました。

当時の技術の方はめがね作りに関してはすごいけど、一般の技術を知らない方が多かった。それで僕はこの会社を始めたんです。昔は小売店をやってましたから、現場の声を引き上げて問屋さんとかメーカーさんとかにそういうお話をすると「そんなのわかりませんよ」って言われんですね。じゃあ自分で作るしかないなって思ったのがきっかけだったんです。

ありがとうございました。

自ら図面を描く長谷川珪三社長だけあって、めがねの基礎知識が常人とは一線を画しています。今でこそ画期的な発明であるシリコンパッドも、当初相手にされなかったというのは衝撃ですね。

次回はそんな長谷川珪三社長の波乱万丈の人生についてインタビュー。

ハセガワ・ビコー社長インタビュー