【FACTORY900 デザイナー】青山嘉道さん×田村洋介さん Wインタビュー「“美しさ”を追い求めるデザイナーたちのリレー」【後編】
目次
この人はめがねのことしか考えてない。そこはまだまだ敵わない。
田村さんの手がけるめがねがよく売れる理由って、どのあたりにあると思いますか?
青山さっきも言ったけれど、やっぱりユーザー目線を理解しているところだと思います。色使いなんかにしても、ユーザーがどんな色を求めているか、しっかり把握しています。ぼくが「絶対に売れない」って断言した、田村考案のカラーリングが一番売れた事もありました(笑)。色使いに限らないけれど、めがねの向こう側にいるユーザーをはっきりと想像できることが、理由じゃないかな。
逆に、田村さんから見て「青山さんのここにはまだまだ敵わないな」と感じる部分はありますか?
田村青山が一番すごいと感じるのは、「この人はめがねのことしか考えてない」と思うくらい、常に真剣にめがねと向き合っていることです。僕は家に帰ると気持ちがオフになってしまうし、めがね以外の好きなことについて考えているときもあります。青山は、多分そういう時間がほとんどないんですよ。だから、そこはまだちょっと勝てないと思います。
青山デザイナーっていうのは、常に自分の理想を追いかける職業ですからね。「飽くなき追求」です。そういう意味で言うと、やっぱり田村はまだまだサボっている部分があるよね。それは自分が一番わかってると思うけど。
田村……そうですね。サボってると思います…。まだまだ、めがねに対しての向き合い方がフワフワしている部分があることは確かです。
田村さんのお話からは、まったくそんな印象はありません! むしろ、めがねへの情熱しか感じないのですが。
田村なんというか、僕はこれまでFACTORY900というブランドに守られてきたんです。新作モデルを手がけるにしても、コレクションの中のひとつのモデルを考えるだけで、あとは青山が全部やってくれていましたから。ぼくは自分のやりたいことだけをやっていれば良かった。そこはやっぱり甘えていた部分だと思いますね。
今までは、ある意味で自由にチャレンジしていれば良かった。でも、そろそろ次のステップに進まないといけない。そういう時期が来ているということでしょうか?
田村今がその境目だと思います。ちょうど今、この秋に発表するコレクションを、僕が丸々任せてもらっています。「これは売り上げを稼ぐモデル」とか「これはチャレンジ枠」とか、様々なことを考えて、全体を調整していかなくてはなりません。自社の工場でつくるから生産性のことも考えないといけない。そういうことも全部考えた上で、めちゃくちゃ売れるコレクションにしたいなと思っています。難しいですけれど、なんとか今年のSILMO(シルモ)展には間に合わせたいですね。
大変楽しみです! 弟子の頼もしい言葉を聞いて、青山さんは今何を感じられますか?
青山うーん……。沈むかもしれない船に一緒に乗ってるって感じかな?
そっ、それはどういう意味なんでしょうか…!?
青山それくらい覚悟してるってことです。そうじゃないとすべてを任せられないですよ。最後まで信じられるか、そう問われている思いです。でも多分、人を育てるってそういうことだと思んですよね。
「美しいめがね」という、遙か高み
青山さん自身も、お祖父様、お父様から青山眼鏡を受け継いで、様々なことをこれまでに学んでこられたと思います。それを今度は、自分がバトンタッチする番が来ていると考えられているということでしょうか?
青山そうですね。少なくとも、「美しいめがねをつくる」というFACTORY900の理念はすでに田村に伝わっているかと思います。もちろん、僕のめがねも、田村のめがねも「美しさ」にはほど遠いですが。
めがねのアカデミー賞と言われる「SILMO D’OR(シルモドール)」を受賞した青山さんから見ても、「美しいめがね」に到達するまでには、まだまだ距離があるのでしょうか?
青山遙か彼方の頂ですね。僕らはまだ何もできていない。その高みには、僕ではもう到れないかもしれない。でも踏み台にはなれると思うんですよ、田村がさらなる高みに行くための。いや、でも本当は逆に僕が田村を踏み台にしようとしてるのかもしれない。そのあたりは単純ではないんです。いずれにしても、「美しさ」の頂に、ひとりでは挑めませんから。僕も田村も、そして製造の現場に携わっている人も含めて、そこはFACTORY900というチーム全体で目指すものだと思っています。
めがねには無限の可能性が秘められている
FACTORY900の皆さんは、常に遥かなる高みを目指しているが故に、多くの人が支持するデザインが生み出されていることが、大変よくわかりました。では、最後の質問です。田村さんにとって、めがねとは?
田村…まだその答えはでていません。けれど、自分がつくりたいめがねのイメージはあります。僕はもっと自由なめがねをつくりたい。「この髪型には」とか「この顔の輪郭には」とか、そういうめがねの選び方がすごく嫌なんですよ。もっと自分のかけたいものや格好いいと素直に思っためがねを選んでほしいんです。だから僕は「似合う/似合わない」とか、そういう先入観を壊せる、もっと自由なめがねをつくりたいんです。
自分に似合うか似合わないかを考える前に、とにかくかけずにはいられない。そんなめがねでしょうか?
田村そうですね。そんなめがねがつくれたら、これからどんどん医学が発達して、例えば視力を簡単に回復できるような時代がきても、めがねが残っていけると思うんです。
どんな時代になっても存在しうるめがねということですね。青山さんにとっては、いかがでしょう?
青山僕も分からないな。だから、それを探し続けているんです。でも、そのヒントはユーザーの方からたくさんもらっていて。例えばFACTORY900のめがねがきっかけで、安定した仕事を捨てて、めがねデザイナーなんていうイバラの道を目指す奴がいる。他にも「FACTORY900のめがねを闘病生活の糧にしている」と言ってくれる人もいる。めがねっていうのは、そういう風に誰かの「スイッチ」を押すものなのかもしれない。そういうものになり得るのかもしれないとは思いますね。
お二人とも、めがねに無限の可能性を感じていて、その可能性を斬り開くためのチャレンジを常に模索されていることがわかりました。この先、お二人がどんな答えを出すのか、どんなめがねをつくっていくのか、本当に楽しみで仕方ありません。本日はありがとうございました。
まとめ
お二人とも、こちらの質問に対し、ひとつずつ確かめるように、けれども淀みなく、めがねに対する考えを語ってくださいました。そのお二人の姿から、これまでにも何度となく「めがねとは?」「美しさとは?」「デザインとは?」と語り合ってきた時間の積み重ねが浮かび上がってきました。お二人が深めあってきた思考の一部を、垣間見せて頂いた贅沢な時間でした。
それにしても、もっと「自由」で、誰かの「スイッチ」になるようなめがねとは、いったいどんなめがねなのでしょうか。これからのFACTORY900にも、ますます目が離せません!
青山嘉道さん×田村洋介さん Wインタビュー 「“美しさ”を追い求めるデザイナーたちのリレー」【前編】はこちらから!
FACTORY900(ファクトリーキュウヒャク)
オフィシャルサイト:
https://www.factory900.jp
福井本社:
青山眼鏡株式会社
住所:〒919-0326 福井県福井市半田町9-8
電話:0776-38-0003
FAX:0776-38-4433
直営店:
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住所:東京都渋谷区神宮前5-21-21 MOON-SITE 1F
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営業時間:12:00-20:00
定休日:水曜日
※お問い合わせの際は、「めがね新聞を見た」とお伝えください。
書店で働きながら文章を書いています。
「たまごを割らずにオムレツは作れない」をモットーに、色々なジャンルの記事に挑戦していきたいです。
好きなめがねはもちろんオーバル型。