あなたの変化に、そっと寄りそう

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【めがねと映画と舞台と】第45回『デッド・ドント・ダイ』

【めがねと映画と舞台と】第45回『デッド・ドント・ダイ』

| 八巻綾(umisodachi)

あらゆる映画ジャンルの中でも、ゾンビ映画は特に人気があります。多くの人が思い描くゾンビのイメージといえば、(大体の場合)ゆっくりと動き回る死体で、知性がないために意思疎通が図れず、なぜか人間を見ると襲ってくる……そんな感じでしょうか。

【めがねと映画と舞台と】第45回『デッド・ドント・ダイ』
Frederick Elmes / Focus Features © 2019 Image Eleven Productions, Inc.

宇宙人や異形の化け物と違って、ゾンビは我々人間と繋がっている存在だからリアルで恐ろしいのかもしれません。今日一緒に笑い合っていた友達が、数時間後にはゾンビになってしまうかもしれない。自分はそのゾンビを撃ち殺せるのだろうか? ゾンビは、そんな究極の選択をつきつけてくる存在でもあります。ゾンビ映画は人間や社会における本質的なテーマをはらんでいることが多いから、より魅力的なのかもしれません。

今回取り上げる作品もゾンビ映画です。本作を監督したジム・ジャームッシュは音楽的で淡々としたオフビートな作風で知られていますが、新作ゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』もまた、一風変わったゾンビ映画に仕上がっています。

物語の舞台は、アメリカの田舎町センターヴィル。とても小さい町なので、保安官もロバートソン署長、ピーターソン巡査、モリソン巡査の3人しかいません。日々の事件も住人同士の他愛のないものばかり。差別主義者や世捨て人、風変わりな外国人葬儀屋などアクの強い住人はいるものの、保安官たちはそれぞれの不満を適当にたしなめながら、町の平穏を維持していました。

【めがねと映画と舞台と】第45回『デッド・ドント・ダイ』
Abbot Genser / Focus Features © 2019 Image Eleven Productions Inc.

そんなある夜、ダイナーのスタッフ2名が惨(むご)たらしく殺害されるという大事件が発生します。報せを受け、朝一番に現場にかけつけた保安官たちは絶句。町中が恐怖におののく……かと思いきや、そうでもありません。ちょっと調べて回っただけで「これはゾンビの仕業に違いない」という推論が何の疑問もなく浸透し、なぜか「頭を狙えば退治できる」という撃退法を皆がスムーズに察知。妙にのんびりとしたゾンビ対策が始まります。

ここまで読んでいただいておわかりのように、『デッド・ドント・ダイ』はジム・ジャームッシュらしいオフビートな作品であり、ホラーというよりはコメディです。登場するめがねキャラは保安官の3人とサブキャラ1人の計4人。これがもう、これ以上ないほどナイスなめがねたちなんです! 早速、1人1人について説明していきたいと思います。

まずはビル・マーレイ演じるロバートソン署長。ちょっとやそっとのことには動じないベテランで、めがねのスタイルはウェリントンです。丸くて親しみやすい顔の輪郭に、少し丸みのある逆台形型の形状がマッチして、なんともいえない安心感を与えてくれます。無残な死体を目にしても、死体が目の前で動き出しても、まったく焦らずに冷静に対処してくれるロバートソン所長は抜群の安定感。思わず「パパ!」と駆け寄りたくなってしまうのは、私だけではないでしょう。

【めがねと映画と舞台と】第45回『デッド・ドント・ダイ』
© 2019 Image Eleven Productions Inc. All Rights Reserved.

そんな穏やかなロバートソン署長をイラつかせるほどの変わり者が、アダム・ドライバー演じるピーターソン巡査(写真右)。めがねのスタイルは、フロント上部に眉毛のような形状のプラスチックを組み合わせたサーモントで、アダム・ドライバーの面長の輪郭によく映えて、その個性を強調しています。ピーターソン巡査はかなり風変わりな男で、事件発生当初から「犯人はゾンビだ」と決めつけます。しかも、ことある毎に妙なことを口走るため、ロバートソン所長は気になって仕方がありません。あなたもきっと「なんなんだよピーターソン!?」とモヤモヤしつつ、そのヘンテコなキャラクターから目が離せなくなってしまうでしょう。

【めがねと映画と舞台と】第45回『デッド・ドント・ダイ』
© 2019 Image Eleven Productions Inc. All Rights Reserved.

そんな2人と一緒に働く唯一の女性保安官が、クロエ・セヴィニー演じるモリソン巡査。めがねのスタイルは、フレームの目尻がつり上がった形状のフォックスです。シャープでキリッとした印象で、鋭いイメージを与えるめがねをかけてはいますが、モリソン巡査はすぐにパニックになってしまう繊細な女性。やたらと落ち着いているロバートソン所長やピーターソン巡査とは対照的に、ゾンビ発生という異常事態に直面して、普通に怖がります。登場するあらゆるキャラクターがユニークすぎて、ごくごくノーマルなはずのモリソン巡査の反応がむしろ浮いて見えるのに注目です。

【めがねと映画と舞台と】第45回『デッド・ドント・ダイ』
© 2019 Image Eleven Productions Inc. All Rights Reserved.

この《めがね保安官3人組》も十分すぎるほど濃いのですが、町にいる人々はそれに輪をかけた個性派ぞろい。先述した外国人の葬儀屋(ティルダ・スウィントン)は、インド風の仏像が飾られた部屋で日本刀を振り回すのが趣味という、(この説明だけでお腹いっぱいになりそうな)超濃厚キャラ。最悪のタイミングで町のモーテルにやってきた若者3人組のひとりはセレーナ・ゴメスですし、牧場主フランク(スティーブ・ブシェミ)は反吐がでるほどの白人至上主義者です。ジム・ジャームッシュ監督の過去作品に出演してきたスターたちを中心に、豪華キャストたちがどうにも掴みどころのないのんびりしたゾンビパニックに巻き込まれて行くのです。

【めがねと映画と舞台と】第45回『デッド・ドント・ダイ』
Frederick Elmes / Focus Features © 2019 Image Eleven Productions, Inc.

そんな個性的な町の人々の中にいるのが、4人目のめがねキャラであるガソリンスタンド兼雑貨屋の店員ボビー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)。ホラー映画やB級映画のオタクで、めがねのスタイルはラウンドです。どこからどう見ても立派なギークですが、ゾンビ映画の知識は人一倍あるので対策はバッチリ。彼はゾンビから生き延びることができるのでしょうか!?

【めがねと映画と舞台と】第45回『デッド・ドント・ダイ』
© 2019 Image Eleven Productions Inc. All Rights Reserved.

『デッド・ドント・ダイ』に登場するゾンビたちは、生前と同じ行動を繰り返します。Wi-Fiを探したりスマホをずっといじっていたり……スクリーンの中で私たちと同じ行動を取るゾンビたちの姿に、誰もが思わずギクっとしてしまうでしょう。ジム・ジャームッシュ監督は、「スマホ中毒やコンピューター中毒といったゾンビ人間が増えている」と感じているのだそう。トボけたコメディ映画の衣をまとった本作の中にあるのは、現代社会に対する強烈な風刺であり、過剰な消費社会・情報社会に支配された私たちに対する辛辣な問題提起なのです。

日が沈むと町中に現れて生者の肉を食らおうとするゾンビたち。彼らに食われるのはどんな人たちで、彼らから逃れられるのはどんな人たちなのか? ジム・ジャームッシュ監督が本作に込めたメッセージを、あなたも映画館まで受け取りに行きませんか?

映画『デッド・ドント・ダイ』

【めがねと映画と舞台と】第45回『デッド・ドント・ダイ』
6/5(金)公開
© 2019 Image Eleven Productions Inc. All Rights Reserved.


監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:ビル・マーレイ アダム・ドライバー ティルダ・スウィントン クロエ・セヴィニー
スティーヴ・ブシェミ ダニー・グローヴァー ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ ロージー・ペレス イギー・ポップ サラ・ドライバー RZA キャロル・ケイン セレーナ・ゴメス トム・ウェイツ 

提供:バップ、ロングライド 配給:ロングライド
2019年/スウェーデン・アメリカ/英語/104分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/原題:THE DEAD DON’T DIE/ 日本語字幕:石田泰子

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