【メガネガコンプレックスデイ】第4回「杖とリボンと」
網膜色素変性症
網膜色素変性は、眼の中で光を感じる組織である網膜に異常がみられる遺伝性の病気で、日本では人口10万人に対し18.7人の患者がいると推定されています。夜盲(やもう)、視野狭窄、視力低下が特徴的な症状です。
(日本眼科学会ホームページより引用)
日本眼科学会ホームページ>目の病気>網膜色素変性症
遺伝子変異が原因となるこの病気。
徐々に視界を失い、
最終的には失明する場合もある難病だ。
今から数年前、
父親がこの病気を患っていることが
発覚した。
もともと老眼気味だった父は
いよいよ細かい文字が読みにくくなり、
老眼鏡をつくるために受けた眼科検診で
このことが判明した。
いまだ根本的な治療法の存在しない病気だが、
病状の進行はかなり緩やかで
必ずしも失明に至るわけではない。
しかし光を失うことへの恐怖から、
一時はかなり気弱になっていた父。
しかし、それを母親の
男前なひと言が
持ち直させてくれた。
「大丈夫、失明しても私があなたの杖になるから」
ヤダ照れちゃう!
いやん、
…キュン死!
視界が狭まり
鼻から下の領域がほとんど見えていない父は
食事中よく食べこぼすし、手元の料理や飲み物に気づかないことも多い。
それに対し母は
「ほら、こぼしてるよ」「そこに落ちた」
「左手の近くに飲み物にがあるよ」
などと言って手をさしのべる。
そして病気により
車の運転を控えなくてはならなくなった父は
母が運転する車に便乗して外出するようになった。
まさに「杖」のように
どこへ行くにも行動を共にする二人。
そんな杖夫婦の生活も、はや5年。
先日、久しぶりに帰省すると、
食事中あんなに甲斐甲斐しく
父の世話を焼いていた
母に変化が。
いちいち父を注意せず、
食べこぼしも気にしない。
しかしさりげなく
フォローしている。
なるほど。
一度は絶望へと陥れた
父のハンデを
これまでと同等のレベルまで
「補佐」するのではなく、
「共有」するようになったのか。
そして共有することで
「通常」という概念を取り払った
二人だけのオリジナルなスタイルを
手に入れたようだった。
それは、数年前の「杖」とは違い、
しなやかな「赤いリボン」のように見えた。
心なしか以前よりも
いきいきと食事をしている父。
そしてその横で
何食わぬ顔で食事をしている母を見ながら、
南国特有の
たいして味のしない刺身とともに
優しい気持ちがじんわりと体内に
広がっていくのを感じた。
2人の「杖」は
オリジナルのかたちを求め
日々進化し続けているようだ。
いやぁ、なんにせよ
…キュン死。
大学卒業後、出版社勤務を経てフリーランスエディターとして活動。その後アパレル会社のウェブメディア編集に。現在はファッション系Eコマースサイトの運営に携わりつつ細々とエディター、ライター業をこなす。ファッションと酒を愛するアラサー独女。