【伊藤美玲のめがねコラム】第28回「このレンズはいつ使うもの?」
ここでも何度か触れていますが、私も子をもつ母親。毎日自転車で保育園へ送り迎えをしています。その際、朝の視界が眩しいのはもちろんのことなのですが、日中の執筆で目を酷使したあとだからなのか、お迎えの時間にあたる夕暮れ~夜間も視界がくっきりせずに、少々ストレスを感じていました。
そんなとき、秋の展示会でふと目に入ったのが、ブルーがかったレンズとこのイラストです。
イラストレーターNoritakeさんのシンプルでいて訴えかけてくるイラストで、夜間に運転をしている人が描かれていました。
これ、ひと目で“このレンズは夜間運転に向いている”ってことがわかりますよね。私はすぐさま展示してあったサンプルを試してみました。レンズ越しの視界は、まるで漂白したかのように黄ばみがなくすっきりとしていて心地よく「これは普段使いにも良さそう!」と思い、さっそく使ってみることにしたのでした。
わかりやすいイラストでのアプローチ。これって、一般のユーザーに機能レンズを身近に感じてもらうためにはとても良い取り組みだと思うんです。もちろんNoritakeさんが人気のイラストレーターさんだから目をひいたということもありますが、何よりこのイラストが示しているのは“機能”ではなく使用する“シーン”。だから誰でも“どんなときに使うと良いのか”がひと目でわかり、興味を持つことができるのだと思うんです。
このレンズ、商品名は「ネオコントラスト」というのですが、その名前とサンプルレンズだけが展示されていたら私は手にとっていたかどうか……。いや、仕事だから手には取るだろうけど、実際に使うシーンまではその場で想像できなかったかもしれません。どんなに機能性が高くても、それを使っている自分の姿を想像できなければ、人はなかなか興味を持たないのだなということを改めて実感したのでした。
ひと目でそれとわかるブランド品なら“モノ”の展示だけでも興味はひくのでしょうけど、レンズのような実用品については、シーンの提案が欠かせないのかもしれません。青色光をカットするレンズは先行商品がほかにあったにもかかわらず、JINSさんがそれを「PCレンズ」として売り出しヒットさせたように。
正直、雑誌などでもレンズの良さを伝えるときにはとても苦労します。レンズそのものを写真で見せても機能が伝わるわけではないし、機能の詳細を伝えようとすると専門的な話になってしまう。
それに、レンズは必ずしも“指名買い”が良いというわけではないのも事実。検査の結果や用途、そして見え方の好みなどによっては、必ずしも自分が使ってみたいと思ったレンズが適しているとは限らないんですよね。その選択は、専門家であるお店に委ねるところでもあるわけで。
でも、わかりやすい提案は「レンズでこんなストレスが解消されるのか」「こんな機能があるならめがねをつくってみたい」と興味を持つきっかけとしてはとても重要。私も、非力ながら「こんなシーンでこういうレンズを使っています」という自分なりの使い方を発信していきたいなと思っています。
ところが! 実は先日久々にお店で検査をしてもらったところ、現在使っているレンズに私にはトゥーマッチな機能を自ら付けていたことに気が付いたのです。その詳しい話は、次回することにしましょう。
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。