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【伊藤美玲のめがねコラム】第27回「その先を知ろうとすること」

【伊藤美玲のめがねコラム】第27回「その先を知ろうとすること」

| 伊藤 美玲

もう1月も半ばですが、私のコラムはこれが新年1発目。というわけで、皆さま今年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、昨年12月に発売されたモード・オプティークVol.45では高級素材を使っためがねの特集があったのですが、その中で光栄にもフランスの人間国宝であるべっ甲めがね職人のクリスティアン・ボネさんにインタビューをする機会を得ました。

お話を聞く中で驚いたのが、フランス国内でべっ甲のめがねをコンスタントにつくっている職人は、ボネさんとそのお弟子さんの2人しかいないという事実。べっ甲は材料自体が乏しいので職人さんも少ないだろうと予想はしていたけれど、まさかそこまで少ないとは……。

そんな現状を聞くも、日々締め切りに追われていた私は、インタビュー原稿を仕上げた後にはすっかり頭を切り替えて、次の原稿へと取りかかっていたのでした。

でも、仕事が落ち着き気持ちに余裕ができた年末年始に、またふとそのことが頭をよぎったんです。後継者がいなければ技術は残らない。それってやっぱり寂しいことだ……、と。

職人の後継者不足というのは、日本のめがね業界でもよく耳にする話です。
たとえばクラシックスタイルが人気の昨今は、“メタルのリムに薄くセルを巻く「セル巻き」ができる職人はわずかしかいない”という話を、雑誌やショップのブログなどでも見かけるようになりました。これはトレンドとなることでセル巻きに注目が集まったからこそ言われ始めたことであり、きっとそれ以外にも私の知らないところでひっそりと途絶えてしまいそうになっている技術があるのでしょう。その他にも、ライターになってからの約10年の間、工場がなくなったという話を何度聞いたことか。

あぁ、なんだか私はそうした話に対して鈍感になってしまってはいないか……。
「稀少な職人の手仕事」という言葉を、単なる売り文句として消費してしまってはいないか……。

第27回「その先を知ろうとすること」

もちろん、そうした後継者不足の問題に対して私自身が解答を出せるわけではありません。当事者の都合もあるだろうし、こちらが勝手にセンチメンタルになっているだけなのかもしれない。メディアの人間が何を言ってるんだって思われるかもしれない。

でも、まずはこうした事実について単に耳にして終わるだけでなく、“その先を知ろうとすること”で変わることがあるはず。ましてや私はライターなのだから、現場の話をもっと聞き、現状を知り、発信することで、なにか考えてもらえるきっかけになるんじゃないか。そこまでの影響力がなかったとしても、知らないよりは知っている方がずっといい。

「眼鏡ライター」としての仕事は、新作の紹介をはじめどちらかというと“モノ”について書くことが多いし、工場取材といってもつくる工程を紹介することがメインでなかなか現場の方にじっくりお話を聞けることは少ないのだけど、これからはもう少し踏み込んで取材をしたい。この新年に、そんな目標を掲げたのでした。

なんだか真面目な話になってしまいましたが、今年も硬軟織り交ぜめがねにまつわる話を綴っていきますので、お付き合い頂けたら幸いです。