【伊藤美玲のめがねコラム】第102回「今季のトレンドと、悩める強度近視の現実と」
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4月といえば、春の展示会シーズンです。今年は展示会の日程が分散したこともあり、例年以上に多くの展示会へ足を運ぶことができました。ざっと数えてみたところ、約25会場を回り、80ブランド以上の新作を見たことに。
今季はとにかくビッグシェイプが豊富!
毎回展示会終了後に、現場で撮影した写真を見返しながらシーズンの特徴を探るのですが、今年はとにかくサイズの大きなフレームがたくさん発表されていました。昨年春の展示会レポートにも、「細くて大きいフレーム」が多かったと書いていますが、今季はその傾向がますます加速。細身のプラスチックに限らず、太めのものもあったし、メタルもとにかく大きい。とくに海外のブランドはそうしたものが多かった印象です。
日本のブランドも、やはりこれまでに比べるとサイズは大きめ。肉厚なものも多く、存在感のあるデザインが増えていたように思います。最近だと屋外でマスクを外す機会なども増えてきたので、存在感のある大きめなフレームはこれから人気が高まりそうな予感。マスクを外したときに気になるようになってしまった、中顔面(目の上から鼻の下までの部分)の長さもごまかせますしね。
ですが一方で、近視の度数が強めな私としては複雑な思いを抱いてしまうのです。
サイズが大きくなればレンズは厚みを増していく…
そう、このコラムでも何度か触れていますが、近視用のレンズは中心が一番薄く、縁に向かうほど厚みを増していきます。つまりレンズのサイズが大きいほど、厚みが出てしまうのです。もちろん、その性質を承知でビッグシェイプにトライするのはアリだと思いますが、レンズに厚みが出ればその分重くなりますし、レンズ越しに輪郭が凹んで見える“近視特有の見た目の変化”は如実に出てきます。これが苦手な人に、ビッグシェイプは正直厳しい。
極端に大きいものには手を出さないまでも、度数が強ければレンズサイズが少し違うだけでも仕上がりに影響は出てきてしまうでしょう。まぁ、必ずしもトレンドのサイズにこだわる必要はないのですが、やっぱり流行りのものというのは気になってしまうわけで……。
私の場合、こうした大きめのサイズを掛けるときはダテめがねと割り切り度無しで作っています。それはやはり、仕上がりに満足できなかった苦い経験を何度も重ねてきたからです。
私がめがねを好きになり始めた20数年前、トレンドといえば横長気味のデザインでした。若かりし頃の私はまだレンズの性質を知らなかったため、顔幅からはみ出すぐらいの横長フレームで、度付きを作ることもしばしば。「今回は薄型レンズにしたから、何とかなるだろう」と祈るような気持ちで受け取りにいくも、フレームからはみ出した分厚いレンズと対面するたび、己の度数を恨んだものでした。
ビッグシェイプのトレンドのなかで、昔の私のように仕上がりにがっかりする人が生まれてしまうのでは……。おせっかいながら、そんな心配をせずにはいられないのです。
まずは現実を受け入れるところから
では、解決策を授けましょう! ……と続けたいところですが、正直なところレンズの厚みや輪郭の凹みの問題は凹レンズの性質によるものなので、ビッグシェイプを選択する限りは必ずついて回るもの。劇的な変化が生まれる解決策を私はここで披露することはできません。
ですが、その事実を知っていると知らないとでは、大きく違うのです。
レンズの厚みを抑えるにはレンズの屈折率のみならず、フレームのサイズが重要であるというアドバイスをもらえたら、作る前に諦めがつくし、フレーム選びの方向性も変わるかもしれない。だから、お店の方はきちんとその事実をユーザーに伝えてもらえたら……。と、失敗を重ねてきた私は節に願います。
その抗いがたい現実を突きつけられても、希望のサイズでトライしてみるのか。それともレンズの仕上がりを優先し、自分に合ったサイズの小さなフレームで作るのか。どちらが正解というわけではありませんが、きちんと事前にコミュニケーションが取れていれば「仕上がりを見てがっかり……」という経験を減らせるのではないかと思うのです。
今回、目立ったトレンドはビッグシェイプではありましたが、度数が強くてもきれいに仕上がりそうなサイズの新作も、もちろん発表されていました。むしろ、そうしたユーザーを意識してくれているブランドは増えている印象です。
悩める強度近視ユーザーがめがねを好きになれるかは、お店の提案にかかっているといっても過言ではありません。私も、良きアドバイスをしてくれたお店に救われたひとりです。
トレンドと、現実と。私もじっくり考えて、今季の1本を決めたいと思います。
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。