あなたの変化に、そっと寄りそう

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【伊藤美玲のめがねコラム】第101回「より良い音で楽しむ」ための、新しい補聴器提案

【伊藤美玲のめがねコラム】第101回「より良い音で楽しむ」ための、新しい補聴器提案

| 伊藤 美玲

補聴器。めがね屋さんで取り扱っているところも多く、以前から気になる存在ではありました。

思い返せば私の祖父は晩年かなり耳が遠くなり、大きな声を出さないと会話が難しくなっていて。でも、頑なに補聴器には頼りたがらなかったんですよね。その姿が頭に焼き付いているため、補聴器はめがね以上に着用のハードルが高いもの、という印象でした。でも、なぜそんなに嫌がるんだろう……?

そんなことを思いながらも、なかなか取材のきっかけをつかめずにいたのですが、少し前にめがねチェーン大手である『パリミキ』の新店を紹介するインスタライブを見ていたとき、「!」となったんです。

聞けば、店内には貴重なヴィンテージのスピーカーがあり、“音を楽しむこと”を提案しながら補聴器を販売しているとのこと。私のなかで、補聴器が“必要に迫られて買う”ものから、“より良い音で聞く”ための道具と意識が変わった瞬間でした。

補聴器のこと、もっと知りたい……! そこで今回は、まさにそのインスタライブで紹介されていたお店『DIGNA HOUSE Audio studio』に、詳しい話を聞きに行くことにしました。

補聴器の新しい提案のカタチ

店舗が位置するのは、眼鏡店が多いことでも知られる表参道の骨董通り。店名になっている『DIGNA HOUSE』のDIGNAはパリミキのオリジナルフレームのブランド名で、店内では補聴器だけでなくDIGNA Classicをメインにめがねも取り扱っています。

【伊藤美玲のめがねコラム】第101回「より良い音で楽しむ」ための、新しい補聴器提案

「お店のコンセプトは2つあります。めがねに対する感度が高いこの場所で、オリジナルのDIGNA Classicをご紹介すること。そしてもうひとつが、補聴器の新しいご紹介の仕方を提案するということです」

そう話すのは、同店のスタッフで「認定補聴器技能者」(※1)の資格をもつ田村さん。補聴器を使いたい方一人ひとりの状態に合わせて、選定からフィッティング等の調整を行うプロフェッショナルです。同店では、田村さんをはじめパリミキのなかでも補聴器をメインに扱い、補聴器メーカーとのやり取りや社内での情報発信を担うエキスパートがつねに店に立っているのだそうです。

※1 認定補聴器技能者:公益財団法人テクノエイド協会が補聴器の安全で効率的な使用に資するために必要な技能を習得していることを認定し、付与するもの。

【伊藤美玲のめがねコラム】第101回「より良い音で楽しむ」ための、新しい補聴器提案

店内に足を踏み入れると、なかなか眼鏡店では見慣れない光景が。奧の棚にはアンプやターンテーブルが置かれ、さらには流線的なラインを描く重厚感のあるスピーカーが鎮座しているではないですか。

「これは1960年代のJBLのスピーカーで、『メトロゴン』といいます。販売当時は正式に日本に輸入されていなかった稀少なもので、こちらはアメリカの骨董市で見つけたものをメンテナンスして使用しています。アンプはこの『メトロゴン』の良さを引き出せるものを、と選んだ『Mcintosh MC30』で、こちらもヴィンテージです」

【伊藤美玲のめがねコラム】第101回「より良い音で楽しむ」ための、新しい補聴器提案

スピーカーの正面には一人掛けソファが置かれており、ここがちょうどベストな音を楽しめる位置になっているとのこと。音響については完全素人の私ですが、実際にレコードをかけてもらうと、その立体感のある音や心地よく響く重低音にびっくり。まさにここは、音を楽しむための空間……!

「お客様のなかには、毎月補聴器を調整された後に、聞こえの確認も兼ねてお好きなレコードを楽しんでから帰られる方もおられます。やはり我々としても、『補聴器を着けないと聞こえが悪くなりますよ』というよりも、『音をより楽しんでいただけますよ』というポジティブな方向で、補聴器をご提案したいという気持ちがあるんです」

生活をより楽しむための道具として

田村さん曰く、じつは補聴器を使用している人は、聞こえづらさを抱えている人の1割弱程度なのだそうです。きっと、聞こえづらさを多少感じていながらも「まだなんとかなるから必要ない」「難聴だと気が付かれたくない」と放っておく人が少なくないのかもしれません。

そうだとしたら、やっぱりめがねと似ているところがあるなぁと。不便を感じながら抗うのは、本当にもったいない。

とはいえ、そういう人こそ最初のハードルが高く感じられるのも事実。それゆえ、“音楽”をきっかけにして気軽に訪れやすい雰囲気を作っている同店の試みは、とても意義のあることだと感じました。(※2)“趣味をより楽しめるようになる”というモチベーションは、単に必要性を訴えるよりもずっとポジティブであり、強い働きかけとなるはずです。

※2 もちろん、めがねと同様にお店は“気軽に訪れられる”ことだけでなく、技術面が大事であることは言わずもがなです。

デザインも機能も驚くほど進化

【伊藤美玲のめがねコラム】第101回「より良い音で楽しむ」ための、新しい補聴器提案

また、実際に補聴器を見せてもらうと、そのスタイリッシュなデザインにも驚かされました。自分がこれまで持っていたイメージよりもサイズはだいぶ小さくなっていて、カラーも多様に。なかには、まるでワイヤレスイヤホンのようなものも。スマホのアプリで操作できたり、オンライン会議のときはヘッドセット代わりに使えたりなど、機能も時代に合わせて進化しているんですね。もし、さらに自動翻訳などの機能が搭載されたりしたら、補聴器はむしろ積極的に着けたくなるアイテムになるかもしれません(と思って調べてみたら、すでに存在しているよう。すごい!)。

音を大きくして聞こえやすくするだけでなく、環境に応じた音質に自動で切り替える補正機能や雑音抑制機能を備えたものなど、カタログには様々な製品が掲載されていました。とはいえ、やはり上位機種の価格は安いとは言えません。その辺りは、自分の生活環境や必要な機能、そして予算などを踏まえてプロと相談が必要です。

パリミキでは商品の貸出しをしているので、普段の環境で試し、納得してから購入することが可能。貸出しに加え、月額で代金を支払いながら使用するレンタルも行なっているとのことなので、自分に合った方法をぜひ検討したいところです。

「まずは、とにかく一度試してみていただきたいですね。補聴器のことをもっと知ってもらい、生活をより楽しく豊かにするお手伝いができれば嬉しいです」。田村さんは、最後にそう話してくれました。

取材を終えて

このコラムでも何度か触れていますが、私は今耳鳴りを抱えています。幸い聴力には問題ないのですが、この耳鳴りがなんの前触れもなくやってきたように、今後聞こえにも突然問題が生じることがあるかもしれません。そうした不安は、今もつねに抱えています。それだけでなく、加齢とともに聴力が落ちることだってあるでしょう。

そんなとき、若いときと同じようにとまではいかなくても、補聴器で聞こえを取り戻せたら、どんなにありがたいか。人生100年時代といわれる今、補聴器はめがねと同じぐらいもっと身近になっていいアイテムなのでは? 今回の取材でそう感じました。まずはもっと補聴器のことを知るべく、これからもぜひ取材を続けていこうと思います。

DIGNA HOUSE Audio studio

住所:東京都港区南青山5-10-2 第2九曜ビル104号 MAP
電話:03-6805-1350
FAX:03-6419-3070
営業時間:11:00-20:00
定休日:火曜日
オフィシャルサイト:
https://www.paris-miki.co.jp/store/1535.html