【伊藤美玲のめがねコラム】 第86回「ニーズの変化で振り返る2021年のめがねシーン」
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この秋、気になったもの
早いもので、もう12月も後半。とくに秋はめがね雑誌の執筆に追われ、あっという間に月日が過ぎてしまいました。その執筆にあたり、この秋もたくさんの新作めがねをチェックしたわけですが、なかでも気になったのが「小顔や強度近視の人でも、きれいにかけられるサイズ感」のモデルです。
ざっくり説明するならば、ブリッジ幅やレンズ径(レンズの横幅)がやや狭めに設計されているフレームのこと。それによりPD(瞳孔間距離)が狭くてもバランスよく掛けられ、レンズ径が小さめゆえ近視の度数が強くてもレンズの厚みを抑えられるので、きれいにかけられるというわけですね。
これまでもそうしたモデルはありましたが、とくにこの秋はそうした打ち出しをしていたブランドが多かったように思います。tonysame(トニーセイム)から「trico」という小顔の女性のためのブランドがデビューしたというのも象徴的です。
これは非常に今年らしいトピックだなと思っていまして。というのも、こうした動きはコロナ禍であることと切り離せない気がしているからです。
コロナ禍で起きた、家めがねの“よそ行き化”
めがねユーザーのなかには、“めがねは家にいるときにだけかける”という人も少なくないでしょう。出勤・外出時はコンタクトにする。その気持ち、わかります。私も、これまで外出時にはコンタクト+伊達めがねという組み合わせが多かったですから。それはやはり、強度近視であるがゆえ。度付きできれいに仕上げるためには、フレームのデザインやサイズに制約があるからです。
「自分に似合うめがねが見つけられない」
「気に入って買ったのに、レンズを入れたら印象が変わってしまった」
そうして、めがねは家でだけかけるものに……。なかでも、バランス良く掛けられるフレームが少ない小顔の人、そして、レンズが分厚くなってしまう強度近視の人は、そうなってしまうことが多かったのではないかと思うんですよね。
とはいえ、現在はオンライン会議などで、“家にいながら、他人の目に晒される”という状況が生まれました。だからといって、その時だけコンタクトをするのも、ちょっと面倒。そこで、家でも外でもお洒落に掛けられるフレームが欲しい! というニーズが高まり、各ブランドが、これまで選択肢が少なかった「小顔や強度近視の人でも、きれいにかけられるサイズ感」のモデルを打ち出す。という流れが生まれたのではないかと。
前述の「trico」のように特化したブランドが誕生したり、多くのブランドが打ち出したりすることで、「これって、私のことだ!」と気がつく人も増えるのではないでしょうか。そうして納得のいくめがね選びができるようになれば、これはとても良い流れだなと個人的に感じています。
“見え方”や“見られ方”への意識も向上
この1年を振り返ってみれば、コロナ禍における影響はレンズにも。今年の1月に東海光学から発売された、超低反射コーティング「ノンリフレクションコート(NRC)」も、現在のニーズに応えたアイテムのひとつだと言えるでしょう。
NRCは、レンズの反射を低減してくれるコーティングです。従来のマルチコートも反射を防止するものですが、NRCはさらに反射率を大幅に低減。目元をすっきり見せることができます。これが効果を発揮するのが、オンライン会議や動画配信時です。そう、オンラインでのコミュニケーションが増えたことにより、自分ではこれまで気になっていなかったレンズの反射が“可視化”され、何とかしたいと思っていた人も多かったはず。
コーティングといえば、マスクが欠かせない今、レンズの曇りを抑制する防曇コートも改めて注目されましたね。これまで、めがね専門誌以外ではレンズの企画を出しても敬遠されがちだったのですが、NRCや防曇レンズについては興味を持ってもらえることが多かったことも、今年はとても印象的でした。それだけ、レンズの困りごとに意識・関心が向いたということなのでしょう。
また、今年は「パソコン作業が増え、目が疲れるようになった」という声も多く聞かれましたよね。その対策のひとつとして某ニュースサイトに書いた「めがねを作る際に大事なのは、視力ではなく(見たい)距離」であるという内容の記事も、予想以上の反響がありました。
めがねがより身近な存在になった……?
改めて振り返ると、今年は従来のような「めがねのトレンド」といったファッション的な面よりも、「リモートワークが増えた現在における、めがねの選び方」についてメディアに書いたり、インタビューを受けたりすることが多かった年だったなと思います。めがねをかける時間が増えたことで、「見え方」、そしてめがねをかけている自分の「見られ方」について考える機会が増えたということなのかもしれません。
そうしたニーズの変化からも、めがねは生活に密接したアイテムであることを改めて実感したこの1年。私も、それに応える発信をもっとしていかなくてはと思った次第です。
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。