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【伊藤美玲のめがねコラム】 第85回「きれいになれるめがねって?」Vol.5―LILY COULURE 開発秘話―

【伊藤美玲のめがねコラム】 第85回「きれいになれるめがねって?」Vol.5―LILY COULURE 開発秘話―

| 伊藤 美玲

めがねに関わる方たちと「きれいになれるめがね」について考えるこの企画。今回お話を伺ったのは、LILY COULURE(リリクルーレ)の開発に携わった株式会社ニデック コート事業部の高橋 大さんと今西彩香理さんです。

このリリクルーレは、「メガネで、メイクする」がコンセプト。ニデック独自の技術により目元部分のみ色づくよう染色されたカラーレンズを採用することで、“かけるだけでアイメイクが完成する”という、新発想のめがね(レンズ)なのです。

第85回「きれいになれるめがねって?」Vol.5―LILY COULURE 開発秘話―

よく「すっぴん隠しにめがねを」なんて言われますが、じつはどんなに鮮やかなカラーのフレームをかけても、目元の“ノーメイク感”を隠すことはできませんでした。ですがこのリリクルーレは、レンズのカラーによって目元がしっかり色付くので、本当にアイメイクをしたかのような彩りを得られるというわけです。

しかもこのアイテムを開発したのは、眼科医療機器メーカーであるニデックだというのも意外! 念のため説明しておくとニデックは、めがねユーザーにはおなじみの“覗くと気球が見える検査機器”などを作っている会社なのですよ。そんなニデックが、なぜアイメイクめがねを……? これは気になる!

ということで、少々前置きが長くなりましたがリリクルーレが生まれた経緯や、そのこだわりなどについてお二人に話を伺いました。

独自技術が可能にした、アイメイクのような彩り

第85回「きれいになれるめがねって?」Vol.5―LILY COULURE 開発秘話―

まずはリリクルーレについて簡単に教えてください。

高橋リリクルーレは、「めがねをかけた瞬間にメイクアップが完了する」という新しいアイメイクの提案です。プロのメイクアップアーティスト監修のもと、12色のラインナップを展開しています。

この発想は本当に斬新ですよね。リリクルーレの存在を知ったとき、フレームではなくレンズに着目している点に感動しました。そして「一体どこが手掛けているのだろう」と思ったら、眼科医療機器を手掛けるニデックさん、ということでさらに驚きが。

高橋リモートワークという新しい市場の中で、弊社の技術を使い何かできるのではないか、という発想が生まれました。そこで「レンズの中央に帯状の染色をする」という技術で、ノーメイクで過ごしたいけどすっぴんには抵抗があるという方への提案として、メガネメイクというアイディアに至ったのです。

そうだったのですね。レンズ全体ではなく中央のみに色が入った帯状の染色は、リリクルーレで初めて目にしました。

高橋この染色はニデック独自の「気相転写染色」という技術によるものです。通常めがねレンズは、色のついた染色液にレンズを浸して染色します。そのためレンズ全体か、上部もしくは下部からのグラデーションといった色の付き方が一般的です。対して、気相転写染色は専用のインクを特殊な転写紙に印刷し、その紙を専用の装置にレンズと共に入れて、転写紙を加熱することで、インクを昇華させてレンズに転写させて、その後、レンズを加熱することで染色します。

第85回「きれいになれるめがねって?」Vol.5―LILY COULURE 開発秘話―

そんな方法が! 液に浸すわけではないから、中央部分の染色が可能になると。ニデックさんにしかできない染色技術が生かされているのですね。

目元を美しく見せるためのこだわりとは?

とはいえ、技術的に可能でも、この染色をアイメイクのように見せるためには、カラーの濃度や位置の調整などが難しかったのではないでしょうか。

今西おっしゃる通り染色の濃度や位置によってかけた際の印象が大きく変わるので、ここは試行錯誤を繰り返しました。リリクルーレのファーストモデルはボストン型を採用しているのですが、掛けたときに目の位置はレンズの中央よりも若干上側にきます。なので、単純にレンズの中央に色を持ってくると、瞳の位置より下に色がきてしまい、グレー系のカラーだとクマのように見えてしまいました。とはいえ、カラーの位置を上にし過ぎると、従来のグラデーションレンズとの違いがわかりにくい。オリジナリティを出しながらも、掛けたときにアイシャドウのように見える位置を見つけるまで、何度もサンプルを作りながら微調整をしていきました。

第85回「きれいになれるめがねって?」Vol.5―LILY COULURE 開発秘話―

なるほど、色の位置で印象が大きく変わってしまうわけですね。全12色ありますが、カラーによって染色の濃度や位置なども異なるのでしょうか。

今西はい。なかには、上下のまぶたで異なる色がくるように2色のグラデーションにしているものもあります。カラーはパソコンのデータで作るのでCMYKのバランスで調整するのですが、印刷上のデータで美しいグラデーションを作るのが難しくて。2色のグラデーションを表現するために、実際は3~4色使ってバランスを調整しているものもあります。

また、カラーによってはレンズの状態で見るのと、かけた状態で見るのとで印象が大きく異なるものもありました。美しいグラデーションが表現できたと思ったのに、実際にかけてみたら予想以上に地味であったり……。新しいメイク道具として打ち出すからには、“目元が美しく見えるか”が大事ですから、そこを想定しながらの色決めには苦労しましたね。

カラーの監修には、ヘアメイクアップアーティストの輝・ナディアさんが携わっていらっしゃいますね。

今西ナディアさんには、カラーのラインナップを考える段階から入っていただきました。先ほどお話しした、帯のなかで2色使うというアイディアもナディアさんの提案によるものです。色鉛筆で絵コンテを書きながら、「上はこの色で、下はこの色にしたほうがまぶたに色が乗ったときにきれいに見えるから」などと、お話ししてくださって。

徹底して、“見られ方”を重視しているわけですね。

今西はい。必ずかけた際のイメージを前提に考えてくださいました。「外に出ると光に溶けやすい色は、もう少し濃くしたほうが良いですね」などと、室内だけではなく屋外で使ったときにはどう見えるかまで考慮するなど、実際に使うシーンの想定もしたうえで色の出方を吟味して。

高橋光に溶ける”という表現は、本当に印象的でしたね。色へのこだわりもヘアメイクのプロならではで、こちらが濃い、普通、薄いとカラーサンプルを3段階で作ると、「この濃いと普通の間の色を作れますか」と言われ、また調整をして……。と、結構色ごとに細かく作り込んでいきました。

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あの繊細なカラーリングは、そうした試行錯誤の賜物なのですね。そんなこだわりのレンズが主役になるよう、フレームは完全にクリアというのも潔いなと思いました。

今西フレームはリリクルーレのためにデザインされたオリジナルです。やはりクリアにすることでレンズがより引き立ちますし、現在のトレンドにもマッチするなと思ったので。性別年齢問わずかけてもらいやすいようにと、ファーストモデルはオーソドックスなボストン型にしました。

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メイク効果だけでなく、めがねレンズとしても高い機能を備えていますよね。

高橋UVカット機能に加え、スマホやパソコンなどデジタル機器のモニターから出る眩しい光を和らげる「レクアメッシュコーティング」を採用しています。

お洒落なだけでなく、こうした機能が付与されているのは、長年コーティングを手掛けてきたニデックさんならではですね。

レンズによるメイクだからこそ叶うこと

私は以前ラベンダーピンクを試着させてもらったのですが、目元が色付くことに加えて、心なしか目が大きく見えることにも驚きました。グレー系の落ち着いたカラーも、顔色が暗くなるかと思いきや、これが大人っぽくハマるという。

第85回「きれいになれるめがねって?」Vol.5―LILY COULURE 開発秘話―

今西通常アイシャドウは、まぶたの上に塗りますよね。でも、レンズなので瞳の上にも色を乗せられるというのもリリクルーレならではの特長です。とくに、グレー系だと黒目を大きく見せることができるんですよ。

瞳の上にもカラーをのせられる! なるほど、それは実際のアイメイクにはない大きな魅力ですね。発売後の反響はいかがですか?

今西今までにないアイテムということで、女性の方に興味を持ってもらえます。コロナ禍での発売だったので当初はオンライン会議などでの利用を想定していたのですが、「花粉症でアイメイクができないときに使いたい」とか、「子どもの送迎時のすっぴん隠しに使いたい」など、逆にお客様から活用方法を提案してもらっている感じです。

たしかに花粉がひどい時は涙も出るし、肌も敏感になるから、メイクをしなくて済むのは助かります。秋には新型のボスリントンも登場し、iOFTでは日本メガネ大賞 レディース部門のグランプリも受賞され、話題となりました。今後の展望はありますか?

今西やはりメイクアイテムなので、色選びを楽しめるようカラーバリエーションは増やしていきたいですね。あとは、お客様に実際にかけて試してもらえる機会をもっと作っていきたいです。やっぱり人それぞれ似合う色が違いますし、意外な色が予想もしないような魅力を引き出してくれることもあるので。様々な色を試しながら、楽しんで選んでもらえたらと思っています。

取材を終えて

これまで、めがねですっぴん隠しという考え方にはあまり賛同できませんでした。それは冒頭でも触れたように、表情に彩りを加えようと鮮やかなフレームを選ぶほど、目元のくすみなどが目立ってしまう気がしていたからです。顔がめがねに負けてしまうというか……。でも、このリリクルーレなら、すっぴん隠しにもってこいだし、メイクとの相乗効果も得られます。

先日のiOFTで改めてリリクレールのサンプル全色を目の前にしたのですが、百貨店のコスメ売り場に来たときのようなワクワク感がありました。だって、フレームのかけ外しだけで、様々なアイメイクが試せるのですから。色によって目元の印象がガラリと変わるので、きっと全色試着してみたくなるはず!(ちなみに、下の写真はマスクに合わせてカラーを選んでみました)

第85回「きれいになれるめがねって?」Vol.5―LILY COULURE 開発秘話―

レンズだけでの販売もしていくとのことで、フレームカラーとの組み合わせを考えるのも楽しそう。いやぁ、レンズにこんな楽しみ方があったなんて。“きれいになれるレンズ”への注目が、これから高まっていきそうな予感がします。