第20回「ママのためのめがね選び④ ―妊娠・出産後の視力変化 どう対応すればいい!?―」
目次
自分の経験も踏まえ、ママのためのめがね選びについての情報をお伝えするこのシリーズ。
今回のテーマは産後の眼についてです。
「産後しばらくは視力が変化する」という話を妊娠中に先輩ママから聞いていたのですが、たしかに私も見え方に若干の変化がありました。産後1ヶ月ほどスマホやパソコンの画面がまぶしく感じ、とにかく目が疲れやすかったんです。当時はこの状態がいつまで続くのだろうと、不安に感じたものでした。
同様に変化を感じる人も少なくないようで「産後の眼」で検索すると、たくさんの記事が出てきます。でも、きちんと眼科医や産婦人科医の先生がお話ししている記事はみつけにくかったんですよね……。というわけで、今回は産後の眼について、眼科医の先生にお話しを訊いてきました。
取材に応じて頂いたのは、たまがわ眼科クリニックの院長で、昭和大学医学部眼科学講座客員教授でもいらっしゃる関 保先生です。
見え方に変化が起こるのはなぜ?
「産後、見え方に違和感が生じる」という話をよく聞きます。実際私自身もそうだったのですが、今回はその原因と対策についてお伺いしたいと思っています。
関先生実は妊娠と眼の疾患との関連性は、これまでほとんど研究されていないのが実情です。というのも、ほとんどの場合は産後しばらくすると、そのような見え方の違和感がなくなることから、病気として取り上げられなかったんですね。
そうだったんですね。
関先生ですから結論から言えば、見え方の変化についてあまり心配することはないでしょう。とはいえ、私の同級生である昭和大学横浜市北部病院産婦人科教授の長塚正晃先生に確認したところ、やはり目の症状を訴える方が稀にいらっしゃるとのことでした。
それはどんな症状ですか?
関先生妊娠中あるいは産後まもなく、ぼやける、まぶしい、視力が低下した、近くが見づらくなり老眼になったかと心配したとか、さらには疲れ目が続くことでストレスになりイライラするなどの症状がでることがあるようです。しばらくするとなくなるとはいえ、これらの症状がどのような仕組みで起こるのか知っておけば安心できますね。
そうですね。理由がわかれば、不安もだいぶやわらぎますね。
妊娠中・産後、眼に起こること
関先生まず見え方の違和感の原因として考えられるのが、ホルモンバランスの変化です。眼には女性ホルモン(エストロゲン、アンドロゲン、プロゲステロン等)を感受する受容体という組織があり、それらは眼球内の様々な組織に存在しています。そのため視力や調節力などに影響が出る可能性は否定できません。眼で見た情報がうまく脳に届きにくくなったり、ものを見る際にピントが合いにくくなったりすることから、見えにくいと感じることがあります。
なるほど。
関先生また女性ホルモンは、自律神経と密接に関連しています。それゆえ妊娠によるホルモンバランスの変化によって、この自律神経に乱れが出ることが往々にしてあるんですね。自律神経は、体が活動しているときや日中に活発になる“交感神経”と、安静時や夜間に活発になる“副交感神経”のふたつからなるのですが、このバランスが乱れると普段自律神経がコントロールしている様々な器官に異常が現れるんです。
その自律神経の乱れが、眼にも関係すると。
関先生はい。例えば、ストレスは自律神経を乱すひとつの原因となります。この場合のストレスとは、ズバリ妊娠・出産です。これらがストレスとなり自律神経が乱れ、眼の機能低下を引き起こす可能性があります。交感神経が働いているとき、眼の状態は“瞳は開き、視力は遠視傾向”。いわゆる老眼状態になります。副交感神経が優位のとき、“瞳は縮み、見え方はやや近視傾向”になります。つまり、どちらにしても見えづらくなるわけです。
なるほど、そのため近くが見づらくなり老眼になったかと思う人もいれば、視力が落ちたと感じる人がいたりするわけですね。
関先生はい。また、妊娠中には角膜(黒目)にも以下の4点の変化が起こります。
1.角膜知覚の低下(出産後約2カ月で回復)
2.角膜厚の増加(黒目がむくんでいる状態)
3.角膜の形状変化(むくむために厚みが増す状態)
4.近視化(軽度)
角膜までむくむんですね。それは驚きです。
関先生そのメカニズムは不明なところが多いのですが、これらの変化によってコンタクトレンズやめがねの度数が妊娠中、とくに妊娠後期に合わなくなることが多いようです。そのため妊娠中はレーシックなどの矯正手術は避けたほうがいいでしょう。コンタクトレンズは使い捨てならその都度変えても問題ないですが、ハードコンタクトレンズの場合、処方度数を変えるのは少し様子を見てからがいいですね。
出産後だけではなく、妊娠中から変化は始まっているんですね。
関先生はい。また、コンタクトレンズのカーブが角膜のカーブに一時的に合わなくなる現象も起こります。新しいコンタクトレンズやめがねの処方は妊娠中ではなく、出産後1~2カ月してからの方がいいと言われています。
度数が合わなくなったからといって、あわててめがねをつくらない方がいいということですね。
関先生そうですね。また、見え方の違和感だけでなく、眼の病的変化(眼の病気:眼病)には、もともとあった眼病の症状が妊娠をきっかけに悪くなるものや、あらたに発症する眼病があります。もし産科医師から眼病がありそうだと指摘されたら、必ず眼科を受診することをおすすめします。病気の例としては高血圧、糖尿病などの網膜症、中心性漿液性網脈絡膜症などです。
持病がある人は要注意ですね。
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。