【伊藤美玲のめがねコラム】第83回「レンズの厚みとの戦い」
目次
レンズの厚みに絶望した過去
強度近視の人が避けて通れないのが、レンズの厚み。
皆さまは、どのように向き合ってますでしょうか。
このコラムでも何度か触れているように、私も強度近視です。
ご多分に漏れず厚みには悩まされてきたわけですが、今は「めがねレンズ 薄くする」などと検索すると、そのコツを丁寧に図や写真入りで説明しているサイトがたくさん出てきます。なんて良い時代なのでしょう。私が学生の頃は、レンズが厚くなってしまう理由もわからず、お店の人に言われるがまま「超薄型レンズ」を選んでいましたから。
それなのに、期待を裏切りフレームからはみ出るレンズの厚みが、どれだけ憎かったことか。気に入って購入したフレームの佇まいを、自分の度数のせいで台無しにしてしまっているような気がして。新調するたびに、絶望にも近い悲しみを覚えたものです。
レンズが厚くなるのには理由がある
まぁ、今振り返ると横長スクエアがトレンドだったこともあり、だいぶレンズの横幅があるものを選んでいたのも原因でしょう。それに、「超薄型」とされていたレンズの屈折率は1.67だったのかなとも思います。
そう、レンズを薄く仕上げるためには、このレンズの横幅(フレーム径)と屈折率がポイントになってきます。
まずはフレーム選び。近視のレンズは中心がもっとも薄く、周縁に向かい中心から外側に離れていくほど厚みを増していきます。そのため、レンズのサイズが小さく、なるべく黒目がレンズの中心にくるフレームを選ぶほど、薄く仕上げることができるというわけです。
もうひとつは、レンズの屈折率。1.50、1.60、1.74といった数字で表されるものですね。この屈折率が高い(数字が大きい)ほど、厚みを抑えることが可能です(ただし、あまり度数が強くない場合、効果が出ないことがあります)。
とはいえ、やはりレンズ径が小さいものを選ぶことがもっとも効果的。そうすれば、高屈折率のレンズでなくてもきれいな仕上がりが期待できますから。
うん。セオリーはわかった。でもね、私としては「よし、これで解決!」ってわけにもいかないんですよ。だって、本当は自分の好きなサイズ&デザインを楽しみたいんだから。強度近視でも、ある程度サイズのあるものを掛けたいんです。
だったら、厚みを気にせず好きなフレームを選べばいい? いや、それも違って。なるべくならレンズは薄くしたい。繊細なデザインのフレームは、できる限りその繊細な佇まいを生かして掛けたい……!
満足できるレンズの仕上がりを目指して
自分の要望がワガママであることは承知しています。ですが私にとって、この厚みとの攻防は「好みのフレームで、どこまで美しく作れるか」への挑戦。
そう、私が頑なまでに高屈折率のレンズでめがねを作る理由は、ここにあります。「強度近視の私だって、こんなに薄く作れるんだ」という達成感を得ることは、過去の絶望から抜け出すためのリバビリみたいなものなのです。
フレームは大きく&レンズは薄くとなると、やはり高屈折率のレンズを選択することが必須。なので私は、各メーカー・製品のなかでもっとも屈折率の高いものを選択しています。そして、設計は両面非球面に。インディビジュアルレンズ(※1)にすることも多いです。ゆえにレンズの価格は張りますが、ここは妥協できません。(※2)
でも、こうして仕上がりにとことんこだわり始めたら、私は自信をもって度付きのめがねを掛けられるようになりました。お恥ずかしいことに、眼鏡ライターでありながら、そう思えるまでに30年という時間を要してしまったのでした……。
今は、強度近視の女性に向けて有益な情報をSNSなどで提供しているお店なども増えていますよね。めがねの仕上がりに悩んでいる人は、ぜひそうしたお店で相談して、堂々と掛けられる1本に出会ってほしい。過去の私のように、自分のめがねに絶望する人が少しでも少なくなれば……。そう願ってやみません。
※1 インディビジュアルレンズ:
フレームを装用した状態での前傾角や頂点間距離など、ひとりひとりの装用条件に合わせて設計を最適化した高品質レンズ。
※2 高屈折率のレンズは、人によっては滲みなど違和感が生じる場合があります。また、両面非球面設計を選んでも、フレームによっては仕上がりにさほど違いが出ないこともあるので、お店の方とよく相談をしてから決めるようにしてください。
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。