
【伊藤美玲のめがねコラム】第75回「ノーズパッドの新しいカタチ」
さて、世の中には普段あまり注目を浴びることはなくても、なくてはならない存在であるものがいろいろあります。
めがねでいえば、まさにノーズパッド(鼻パッド・鼻当て)がそれ。めがねを選ぶとき、ノーズパッドに注目して選ぶという人は、なかなかいないはず。
そう、ノーズパッドはまさに空気のような存在。快適に使えているときはその存在感を感じないけれど、不具合を起こすと、とたんに気になって仕方がない。折れてしまったりした日には、きちんとめがねをかけることすらできなくなります。
目立たない存在ではあるけれど、顔に合わせたフィッティング(調整)のかなめとなる大切なパーツなのです。それゆえ、パッド部分の素材や形状、クリングス(※)の素材や線の太さに至るまで、各社は工夫を凝らすわけです。
そんな中、これまでにない画期的なノーズパッドを搭載したフレームが、デュアルから登場しました。なんと、取り外しが可能なんです。

これまでも、スポーツサングラスなどでパッドの部分を着脱&交換可能なものはありましたが、こちらはメタル素材かつ、クリングス付き。パッド単体の佇まいも、なんだか可愛らしいですよね。
ではなぜ、この新機構を開発したのか? デュアルのデザイナー・柳 根宇さんに話を聞いてみたところ、じつはめがね店に持ち込まれるめがねの不具合で一番多いのが、クリングス折れなんだそうです。
なんとかその不具合を解決できないか。そう考えた末、「そもそも固定されている箇所があるからこそ、折れてしまうのだ」という逆説的な答えに行きつき、2年の開発期間を経て、この新機構に行きついたのだとか。

こちらはクリングス部分に採用したβチタン合金の弾性を巧みに利用し、ブリッジ裏にあるふたつの丸い突起の間に挟み込んで装着するという構造になっています。固定されず遊びがあることで弾力性が生まれ、当たりが柔らかくなり、かつ壊れにくいという寸法。クリングスの太さや素材など、適度な弾力と強度のバランスを取るのに試行錯誤したといいます。

いやはや、出来上がったものを見ると、「なるほど」と思うだけですが、この機構をゼロから考えるというのは、やはりすごいことです。そしてもちろん、実際に形にすることも。
そもそもデュアルは、これまでも世界初のヒンジレスセルロイド製サングラスなど、革新的なフレームを生み出してきたブランドです。デュアルのめがねは一見シンプルですが、ディテールには並々ならぬこだわりが。柳さんは「めがねとしての機能を向上するために、意味のあるディテールにこだわりたい」と話してくれました。

話をフレームに戻します。このノーズパッドは“壊れにくさ”を追求し生まれたものですが、実は取り外し可能になったことで、さらなる副次的な機能も生まれました。それは、「かける人に合わせてサイズを展開できる」という点。実際にこのフレームのクリングスには2種類のサイズが用意され、理想的なかけ位置、鼻への当たり方を得られるほうを選ぶことができるんです。

一般的なフレームであれば調整でなんとかするわけですが、長さに選択肢があれば無理な調整をしなくて済みますよね。いや~、これは試着だけでなく、しばらくかけ続けることでいろいろな発見がありそうです。
今回は、デュアルのフレームにフィーチャーしましたが、このブランドに限らず、めがねのデザイナーさんは、皆それぞれプロダクトとしての美しさや、機能性の向上のために常に新しいデザインを考え、生み出しています。そして、それらは豊富な知見と高い技術をもった工場の方たちの手によってカタチとなっているわけです。
取材をすると、「ひとつのパーツに、そんなにもこだわりが!」と驚かされることもしばしば。雑誌では文字数に限りがあり伝えきれないことも多いので、ここで紹介させてもらった次第です。
めがねフレームには、パーツのひとつひとつに様々な作り手の方たちの思いが詰まっています。めがねをかけるときは、ときどきそんなことにも思いを馳せてもらえたら嬉しいです。
※ クリングス:リムと鼻パッドをつなぐ部分。
DJUAL(デュアル)
電話:03-6455-4690
オフィシャルサイト:https://www.djual.jp/
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東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。