【伊藤美玲のめがねコラム】第81回「誰もがめがねを快適にかけられるように」

めがねは、かける人の生活に寄り添うもの。
快適に、そして正しい位置でかけられるように。さらには、お洒落も同時に楽しめるように、作り手は常に工夫を凝らしています。

特に、めがねの扱いがまだ上手にできない小さな子どもの場合は、“めがねの側がなるべく子どもに寄り添う”ことが大切なわけで。そんな中、先日日本では初めてとなるダウン症のお子さんのために開発されためがねの存在を知りました。

それがこの「アンファンバディ」。こどもメガネの専門店「アンファン」のオリジナルです。アンファンは、これまでダウン症の啓発イベント「バディウォーク」に協賛、メガネの調製を行なうブースを出展するといった形で協力を行なっていました。そうした中で開発担当者は、めがねユーザーであるダウン症の子どもの多くが、めがねがズレている状態でかけていることに気が付いたのだそう。

しかも、親御さんと話をしてみると「めがねはズレて当たり前」と思っている方も多かったのだとか。そういえば、自分の身近にいるダウン症のお子さんは、めがねをバンドのようなもので留めていたのを思い出しました。

そもそもアンファンのめがねは、小児眼科専門医などの意見を踏まえながら、子どもの頭の形や調整のしやすさなどを考慮して開発されています。ですが、それでもまだまだ解決できない課題があった。というわけで、ダウン症当事者の親御さんたちにより立ち上げられたNPO「アクセプションズ」の協力のもと、新たに開発に取り組んだのだといいます。

では、この「アンファンバディ」は従来の子どものめがねと何が違うのか。アンファンを運営するオグラ眼鏡店のこどもメガネの担当者の方に伺ってみました。

「そもそも、ダウン症のお子さんは頭や耳、鼻の形状に特徴があります。側頭部(こめかみよりやや後ろ側)が張っていて、耳の位置も少し手前気味です。さらに鼻筋はあまり高くないため、基本的に鼻と耳で支えることを前提として作られためがねでは重心が前にきてしまい、めがねが下がりやすくなってしまうんですね。めがねがズレると、弱視などの場合は“適切な治療ができない”という大きな問題を生み出します。見た目だけの問題ではないんです」

また、乱視や斜視をかかえている子の場合、ちょっとしたズレが大きな違和感となり、めがねをかけることが嫌になってしまう場合も。アンファンバディには、そうした点を踏まえた工夫が施されているというわけです。

「まず、クリングス(鼻パッドを支えるアーム)の溶接部分が従来のこどもメガネアンファン製品より下方についているので、メガネを持ち上げやすくなっています。さらにクリングスの調整範囲もより広くし、鼻パッドは優しくフィットするシリコンパッドにしています。顔の形好みに合わせ、セパレートタイプのパッドも用意していますし、耳にかける部分は柔軟に耳を支えることができるケーブルタイプにも交換が可能です」

ダウン症のお子さんにフィットしやすい設計・デザインをベースにしつつ、さらにかけるお子さん個々人に合わせた細やかな調整もできるので、ぴたりとフィットするのだそうです。

なるほど……。今や子どものめがねのデザインは、とても多様になっています。ですが「従来のめがねでは、きちんとかけられない子もいる」という事実を、このめがねを通して改めて知る機会となりました。

めがねは医療機器。めがねを必要とする人にとって、かけ具合は本当に重要な要素です。今回の事例はまだまだ一部であり、専用に開発されためがねというのは決して多くはありません。きっとめがね屋さんはお客さまが抱える困りごとに対して、最大限の工夫を凝らして対応されているのでしょう。

これまで社会的に見落とされてきた困りごとを解決できるアイテムが開発されることで、まず当事者の利便性が高まる。そしてさらに、アイテムを通じて「こうした社会的な問題があるのだ」ということが周知されるという点でも、大変意義のあることだと思います。

めがねは、かける人の生活に寄り添うもの。
これからも、そんなめがねの情報を伝えて行けたらと思います。