【伊藤美玲のめがねコラム】 第96回「光がまぶしいと感じるなら… 知っておきたい『遮光眼鏡』のこと」
目次
「光が、つらい。」
私がそう感じるようになったのは、耳鳴りを発症した2年前のこと。以来、私は場面に応じて色付きのめがねを使っています。そうしたなかで、「遮光眼鏡」についてもっと知りたいと思うようになりました。
遮光眼鏡の存在は知っていたけれど、めがね雑誌でもあまり扱われることはなく。その一方で、自分の回りには「まぶしいのが苦手」という人が増えてきている。というわけで、今回このコラムで遮光眼鏡について取り上げることにしました。
取材にご協力いただいたのは、レンズメーカー東海光学のマーケティング部 藤井英樹さんと、ロービジョンの営業を担当されている菊地浩志さんです。東海光学は遮光眼鏡を開発・製造しているのに加え、「EyeLife」という遮光眼鏡専用のサイトやSNSなどで積極的に情報発信もされています。まずは遮光眼鏡について知るべく、基本的なことから教えていただきました。
遮光眼鏡とサングラスの違いとは?
はじめに、遮光眼鏡とサングラスの違いについて教えてください。
藤井遮光眼鏡(遮光レンズ)とは、まぶしさを効果的にカットできる特殊カラーフィルターレンズです。紫外線に加え、まぶしさの原因となる500nm以下の短波長(ブルーライト)を効果的にカットし、それ以外の光はできるだけ多く通すように作られています。そのため、まぶしさにより白く靄がかかって見える状態を短波長を取り除くことでくっきりさせながら、明るさはできる限り確保することができます。
まぶしさを抑えながらも、特定の波長だけをカットするので暗くなり過ぎないんですね。
菊地はい。通常のサングラスだと好みや服装に合わせてカラーを選んだりなど、ファッション的な要素が強いですよね。ですが遮光眼鏡は“短波長のなかでもどの部分の波長をどれくらいカットすればよく見えるか、ラクに見えるか”といった点に主眼を置き、カラーを選定していきます。まぶしさの感じ方は人それぞれなので、多くのカラーバリエーションがあり、染料や製法も通常のカラーレンズとは異なっているんです。
遮光眼鏡は誰でも使うことができる?
では、実際にどのような方が遮光眼鏡を使用されているのでしょうか。
藤井基本的に、東海光学では「まぶしさを感じるすべての方へ」をコンセプトとしています。
ということは、誰でも使うことができるんですね。
藤井そうです。とはいえ、もともと遮光眼鏡は網膜色素変性症をはじめとした羞明のある方向けのレンズとして誕生したもので、かつては「医療眼鏡」や「医療用フィルターレンズ」と呼ばれていたこともありました。そのため現在も医療用のイメージが強いのですが、実際のところ羞明を感じる方は特定の疾患に限らずいらっしゃいますので、まぶしさを感じるすべての方へ対応できるようラインナップの幅も広げています。
遮光眼鏡は、医師の処方箋などがないと購入できないというイメージがありますが……。
藤井処方箋や意見書が必要となるのは、国から補助を受ける時のみです。
菊地特定の眼疾患に関わらず、たとえば白内障や緑内障、黄斑変性といったものでも目に何か疾患や障がいが起こればまぶしさを感じることは多くあり、そうした方にも遮光眼鏡をお使いいただいています。もちろん、日頃なんとなく感じているまぶしさを改善したいという場合でも大丈夫です。青色光をカットすることで視界のコントラストが上がるため、スポーツや運転(運転の場合は濃度やカラーの選択が必要)にも使っていただけます。
では実際に羞明をきたしている方は、日頃どんな苦労を感じられているのでしょうか。
菊地一番は、まぶしさにより“見る機能”が損なわれてしまうことですね。たとえば私は視力が2.0あるのですが、強い太陽光の下では短波長光の影響で遠くが白がかって見えたりするため、実際には2.0の視力を使えてはいないでしょう。これが視覚障がいなどで、もともと視力の低い方の場合、まぶしさによってさらに見る機能に阻害を受けてしまうわけです。
もともと見えづらい状態が、まぶしさによりさらに見えづらくなってしまうと。
菊地はい。視機能が発揮できないために、コントラストが低下して道路の凹凸が見えづらかったり、階段の段差がわかりにくくなってしまったり……。それが理由で外出が困難になるなど、行動に制限がかかってしまう方もいます。そうした我慢を減らして生活の質の向上を目指すというのが、遮光眼鏡の意義になってくるのかなと思います。
赤やオレンジのレンズカラーにはワケがある
遮光眼鏡には一般的なサングラスレンズではあまり見かけない赤やオレンジ系のカラーが多いのですが、それはなぜでしょうか。
藤井まぶしさの原因となる青色光の吸収をメインに考えているため、青の補色であるオレンジや赤系の色が多くなっています。また黄色系の染料を多く使ったカラーが青色光を吸収しやすいので、たとえばグリーン系でもブラウン系でも黄色みがかったカラーになっているのが特徴です。
菊地基本的にレンズカラーがもたらす効果は遮光眼鏡でも一般的なカラーレンズでも似たような傾向はあるため、普通のサングラスでも多少コントラストアップ効果や防眩効果を感じることはあります。ですが遮光眼鏡の特徴的な部分としては、選択的に、そして効果的に短波長をカットしているという点です。
選択的に、といいますと?。
菊地遮光眼鏡のパンフレットには、全26色について分光透過率曲線(各波長の透過率を示したもの)が掲載されていますが、赤やオレンジのレンズの分光透過率曲線を見ると、500nmまではグラフの曲線が下側を這うようになっていて、途中からぐっと立ち上がっていますよね。
はい。500nmまではグラフの曲線がほぼ0%に近いところにありますね。
菊地それが、選択的にそして効果的にカットしているということです。500nm以下の青色光と呼ばれる波長はほぼカットすることでまぶしさを抑え、それ以上の波長は通すことで明るさを確保しています。通常のカラーレンズだと、同じような色目でもここまではっきりとした曲線を描かず、400nmのところからある程度透過が始まっていたりするわけです。
自分に合うカラーはどう選んだらいい?
なるほど。カラーによって分光透過率には違いがありますが、全26色からどうやって自分に合うカラーを探せばよいのでしょうか。
藤井カラーはトライアルのレンズを実際に試していただきながら、選んでいきます。人が感じるまぶしさには個人差があり、見やすいと感じる色にも違いがあるので、疾患別にお勧めのカラーがあるわけではありません。もちろん眼科医療機関や眼鏡店では、色選びをサポートしてもらえます。
では、選ぶ側としては何を基準にしたらよいですか。
藤井カラーを選定する際には、「何をどう見たいか」ということが重要になってきます。トライアルのときは、まず見る目標物を決めること。たとえばトライアルのレンズで横断歩道を見たときに、白線がよりくっきりするか、白っぽく見えていないかなど、カラーによってどのように変化していくかをみていきます。
必ず同じ目標物を見た状態で、カラーによる違いを見ていくわけですね。
藤井カラーを順次切り替えていきながら、まぶしくないか、何がどのように見えやすくなったかを確認していきます。暗くなり過ぎないか、疲れないかといった点も大切です。その際サポートする側は、装用者が目標物を見ているときに目が開けていられているか、瞬きが増えていないか、顔に力が入っていないかなどを客観的に判断したりしています。そうしてカラーが決まったら、今度はカラーの濃淡による違いを確認していきます。
菊地まぶしさを取り除き、「今まで見づらかったものが見やすくなっているか」というのが選びのポイントですね。視覚障がいなどで視力が低い場合は、その方が認識できる近くのものを目標に。日常のまぶしさを抑えたいという目的で選ばれる場合は、遠くの看板などを見て、どのレンズカラーが一番くっきり見えるか、輪郭がはっきりするかなどをチェックするといいでしょう。
その感じ方は人それぞれということですね。
菊地ご自身の持っている視力を最大限生かせるカラーを選んでいただければと思います。一方で、かける方に寄り添った色合わせも大切です。たとえば黄色が見やすかったとしますよね。ですが、見た目の面で「黄色は掛けたくない」という方も、なかにはいらっしゃいます。その場合は、なるべく黄色に近い分光透過率の他のカラーを試してみることもあります。
まぶしさを我慢せず、ぜひ一度体験を
今日お話を伺ってみて、私もぜひ遮光眼鏡を試してみたくなりました。
藤井ぜひ使ってみてください。お好きなフレームに遮光レンズを入れられますし、度付きにも対応しています。また、クリップオンタイプやオーバーグラスタイプの展開もあります。我々も、遮光眼鏡を機能的なサングラスとして広く知っていただきたいと思っているんですが、思った以上に医療用というイメージが消えていないのが現状でして……。
遮光眼鏡がこれまであまりメディアに取り上げられてこなかった原因も、そこにあるのかなと思います。
菊地多くの人は、ある程度カラー濃度の濃いサングラスを使うことでまぶしさを解決できますが、それは“解決策”ではなくて“妥当策”である可能性もあるわけです。まぶしさに対してより有効に解決するならばやはり遮光眼鏡だと思うので、もう少し広く認知されたら嬉しいですね。
藤井現在サングラスのレンズ濃度のトレンドが薄いものにシフトしていますが、その点で遮光眼鏡はカラーが薄くてもまぶしさを効果的に抑えられるので、使っていただきやすいと思います。ただ、それを体感できる機会がまだまだ少ないのが難点で、そこをなんとかクリアしたいところです。
では、遮光眼鏡はどこで購入することができますか?
藤井実際に見え方の体験をしてから購入いただきたいので、トライアルのレンズを用意している店舗に足を運んでいただければと思います。弊社が運営している遮光眼鏡のサイト『EyeLife』では、地域別に取扱店を検索することができます。また、お客様相談室にお電話いただければ、お近くの店舗をご案内することも可能です。
どの眼鏡店でも取り扱っているわけではないので、確認が必要ですね。では、最後に改めて読者に伝えたいことがあればお願いします。
藤井とにかく一度遮光眼鏡を試してみてほしいと思っています。普通のサングラスとは違う見え方を知ってほしいですし、普段見ているものが遮光眼鏡によりどう変わるかを実際に体感していただきたいですね。
菊地やっぱり、“見える”って非常に素晴らしいことですよね。ですから、普段からその力をふんだんに発揮して生活していただきたいと思っています。遮光眼鏡で生活の質が向上したという方にたくさんお会いしてきましたが、一方でまだ見えづらさの原因がまぶしさであることに気が付いていない方も少なくないでしょう。眼疾患による羞明を抱えている方も、光に過敏だという方も、それを解決するためにカラーレンズを活用するという意識が広まってくれたらいいなと思っています。
・・・・・・・・・・
今回お話を聞いて、遮光眼鏡はそれを必要とする人にとって生活に欠かせないものであること、そして、生活の質を上げてくれるアイテムだということがよくわかりました。
もし現在まぶしさを感じている方がいれば、ぜひ近くの取扱店で遮光眼鏡を体感してみてください。また、「自分の見えづらさの原因がまぶしさにあることに気が付いていない方も少なくない」とのことだったので、もし見えづらさを抱えているのであれば、ぜひ眼科や眼鏡店で相談してみることをおすすめします。
下記のリンク先にて東海光学の遮光眼鏡を取り扱っているお店が検索できるので、ぜひ活用してみてくださいね。
◎問い合わせ先
EyeLife
https://www.eyelifemegane.jp
遮光眼鏡取扱店検索ページ(EyeLife内)
https://www.tokaiopt.co.jp/shop/index.asp?mode=eyelife
東海光学:お客様相談室 0564-27-3050
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。