【わたしはめがねのここが好き!】第3回 映画監督 川口潤さんの場合

めがねが大好き! でも、なかなかそんなことを話せる場所もなければ、相手もいない…。
ならば、「めがね新聞」で思う存分語っていただきましょー !! という企画、題して「わたしはめがねのここが好き!」。

栄えある第3回は、「めがねは身体の一部。お風呂に入る時以外はいつも身に着けている、いわばパンツのようなものです!」という、映画監督・川口潤さんにお会いしてきました。確かに、川口さんとめがねの馴染み具合ハンパない!

川口さんは、音楽専門チャンネルSPACE SHOWER TVにて数々の人気音楽番組の制作に関わった後、独立。映像作家として活動し、日本のロックバンドやHIP HOPグループなどの活動に密着したドキュメンタリー作品を多く撮り続けてきた川口さん。2018年11月より公開となる映画『THE COLLECTORS~さらば青春の新宿JAM~』では、かつてスピッツやエレファントカシマシ、氣志團などもステージに立った老舗ライブハウス・新宿JAMと、その地を原点に活動を続けるロックバンド・THE COLLECTORSの姿を軸に、東京のモッズカルチャー(※1)シーンを追っています。

音楽とファッションは切っても切れない関係。インタビューでは、海外のミュージシャンに憧れて、そのサングラスを探したという川口さんの青春時代から日本の音楽とファッションの関係性まで、たっぷりお聞きしてきました!


かっこいいものより、少しひねくれたデザインが好き

本日かけていらっしゃるめがねは、「金子眼鏡」のものですね。べっ甲柄のフレームがとても川口さんにお似合いです! 馴染みっぷりがハンパないのですが、このめがねとのお付き合いはどのくらいですか?

川口前に使っていたのが壊れちゃって、新しく買ったものなので、実はまだ1年経ってないんです。基本的に、めがねは壊れるまで同じものを使うことが多いので、手元にはこのめがねと、度入りのサングラスを1本ずつ置いています。

1本のめがねを長く、大切に使われているんですね。今のめがねも雰囲気にとても合っていらっしゃるので、てっきり、長年を共にしてきためがねなのかと思いました!

川口めがねをかけ始めた高校生の頃から、茶色系のべっ甲柄のフレームを選ぶことが多かったので、そういう意味では顔に馴染んでいるのかもしれないですね。フチなし、銀縁などいろいろ試したんですけど、べっ甲柄のデザインが自分でも一番違和感がなくて。多分、かけた時に主張が強すぎるデザインが好きじゃないんですよね。


かけていて自分でも落ち着く、ということは、めがねのデザインを選ぶ上で大事かもしれませんね。ちなみに、おいくつからめがねをかけているんですか?

川口中学校の最後くらいに買ったのを覚えてますね。最初は慣れないんで、違和感ありました。サッカーもやってたので、かけるのやだなって。高校ではめがねとコンタクトを併用してました。“真面目”な印象に見えるのが嫌だったんですよ。高校生の時は、デザインとか自分で選べるほどお金も種類もなかったので。

最初は、めがねに対して少しネガティブなイメージがあったんですね。当時はきっと、今ほどファッションにめがねが取り入れられてなかったですもんね。

川口コンタクトをしていた時期もあったんですけど、テレビ局で音楽番組の制作をしていた時はとにかく忙しくて。会社に寝泊まりすることもあったので「コンタクトは面倒くさい!」ってなりましたね。それで、だんだんめがねにシフトしていきました。ちょうど、そのタイミングと、色々なデザインのめがねのを扱うお店が増えてきたタイミングが重なっていたというのもあるかもしれません。あとは、自分で自由に使えるお金も増えてきて、めがねに使ってみようかと。それでようやく、自分に馴染むめがねに出会ったという感じです。

めがねって出会いが重要ですよね。

川口今ではもう、身体の一部です。パンツみたいなものですよ。お風呂以外はずっとかけてますからね。あ、でも夜の露天風呂が危ないんです、めがねがないと! 暗くて岩場とかあるから…。めがねがないと本当に何も見えないんで、露天風呂入る前に、1回めがねをかけて入って距離を確認して…って、何の話をしてるんですかね(笑)。


お風呂はめがねユーザーの方に付いてまわる悩みですよね! めがねフレームは熱に弱いので、かけてお風呂に入るのはNGなのですが、今はお風呂用めがねも出ているので、是非(笑)。

「憧れ」と「照れ」の間にある、サングラス

今回、川口さんが撮影された映画『THE COLLECTORS~さらば青春の新宿JAM~』では、モッズカルチャーに憧れて、細身のスーツやFRED PERRYのポロシャツを着る、というバンドの姿が描かれていました。川口さん自身が、青春時代に憧れたファッションやアイテムはありましたか?

川口サングラスに対する憧れはありましたね。音楽が好きだったので、海外のミュージシャンのポスターを見ながら、『こんなかっこいいサングラスって、どこで買えるんだろう?』って不思議でしたね。昔はサングラスっていうと、Ray-Ban(レイバン)か原宿で売っている安いものしか見かけなかったですから、ああいうデザインのサングラスはどこに行けば出会えるのかが、まずわからなかった。

確かに、まずどこで買えるのか、わからなかったですよね。当時は、古着屋で探したりしたのでしょうか?

川口探してましたね。でもサングラスは見つからなくて、代わりにローリング・ストーンズのダサい古着のトレーナー買っちゃったり(笑)。キース・リチャーズ(※2)みたいな格好したいけど売ってないし。でもモッズカルチャーもそうだと思うけど、きっとそうやって、なかなか出会えないものを探してる時間って、楽しいんですよね。

そうですね、その時間って無駄じゃなくて、貴重なんですよね。ちなみに、もう1本の持ってきていただいためがねはサングラスですね。「HANAI YUKIKO」の、これもフレームがべっ甲柄で、ツル(耳にかける部分)などもわりと凝ったデザインになっていますね。


川口ツルが革で茶色の斑になっているところが、妙に故散臭くていいでしょう?(笑)。ストレートにかっこいいいものじゃなくて、こういうちょとひねくれたものが好きななんです。誰か「これ変だね」って突っ込んでくれないかなって。そういえば、これは人前でかけたことはほとんどないですね。サングラスって、海外などの紫外線の強い地域に行く時は、抵抗なくかけられるんですけど、普段は恥ずかしくて。芸能人とかミュージシャンの方は、日常的に使っている人が多いですよね。でも、2、3本前のめがねはレンズに色が入っていて少しサングラスみたいだったんですよ。

カラーレンズを入れてたんですね。お似合いになると思います!

川口でも、それをかけて映像編集もするので、“レンズに色味入ってるのに映像の色彩もこだわるの、変じゃない?”って誰かに言われて、確かに!って(笑)。チカチカまぶしい映像が多い時は、編集する際、目が疲れちゃうのでかけたりしますけど…って、こんなにめがねについて語るの初めてなんで、なんか面白いですね!

「大人の格好良さ」に反動を抱えていた学生時代

憧れのミュージシャンというお話が出ましたが、映画『THE COLLECTORS~さらば青春の新宿JAM~』では、ロックバンド・THE COLLECTORSの姿を通して、1980年代に東京で盛り上がりを見せたモッズカルチャーを追っていますね。川口さん自身は、長年音楽の仕事に関わってこられた中で、モッズという音楽に対しては馴染みがあったのでしょうか?

川口学生の頃から音楽は好きだったので、モッズの存在は知っていました。でも、カルチャーという深い部分までは知らなくて、スーツでビシッと決めて、ライブハウスやクラブに集まっているという大人のイメージでした。

©2018 The Collectors Film Partners

映画を観て、モッズファッションというのは、こんなに知識とお金が必要なんだということを初めて知りました!

川口そこに人それぞれの流儀があって、大人のかっこよさですよね。でも僕ら学生には、そういう高い服を買えない、という反動も当時はあったと思います。“音楽聴くのに、高い服着なくたっていいじゃん”って。だから、90年初頭には、円安で大量に入ってきたアメリカ系のストリートカルチャーの方に、若者が一気に流れたんでしょうね。

ひとつ上の世代に対する、カウンターカルチャーですね。

川口でもきっと、モッズカルチャーも含めて、この世代の人達が日本でのクラブカルチャーを一度つくりあげたからこそ、それに対するカウンターとして、ストリート系の音楽やファッションがブームになったんだと思います。今回の映画を撮りながら、音楽シーンでもファッションでも、いきなり生まれるものなんてなくて、全部地続きなんだなということを実感しました。全部つながってるいんだと思います。撮影して改めて感じましたけど、モッズカルチャーというのは、“これ”という正解の形はない。そのこだわり方はズバ抜けてますが、それぞれに自分の“故郷”のように存在するんでしょうね。僕もストリートカルチャーに対しては、故郷感があって、コンバースとかバンズのスニーカーは今でも好きです。


今回は、「新宿JAMの閉店」というのが映画のひとつの軸でしたが、感傷的にならず、カラッとしているというか、清々しさもありますよね。

川口寂しさとかじゃなくて、“閉店は通過点”という感覚なのかもしれないですね。THE COLLECTORSの加藤ひさしさんたちが最初から言ってたのは、“僕らは苦労してないから、ドキュメンタリーとして面白いのかな”と。でも、本当はいろいろ苦労されてると思うんですよ。でも、それを外に見せないのが、かっこいいんですけどね。場所や時代の記録というだけじゃなくて、そこで青春を過ごしたバンドの生き方も撮りたいという気持ちでつくっていたので、それが伝わっているといいなと思います。

©2018 The Collectors Film Partners

今回の映画を観て、ドキュメンタリーってすごく面白いなと感じました。東京オリンピックが迫っている東京の姿とか、ライブハウスの周辺が次々と変化している様子とかが背景に感じられて、街並みってこうやって変わっていくんだなって。その“移りゆく東京の姿”とともにあるバンドの姿が印象的で。最後に、今後の川口さんの展望を教えてください!

川口僕は、MV撮るのもライブ撮るのも、それを編集するのも好きなので、ドキュメンタリーだけに止まらず音楽関係の映像すべてにこれからも関わっていきたいと思いますね。“世界に誇る日本の音楽の物語”みたいなものを、自分の中では意識的にやってるつもりなんです。今後も、日本のロックカルチャーをMVとは違うかたちで、残していきたいなと思います。ヒップホップも大好きなので、何か映画として形にしてみたいなとも。好きな音楽を自分なりの視点で取り上げていきたいです。

ヒップホップのファッションも、サングラスやめがねが重要アイテムなので、ぜひその際はまた「めがね新聞」で取材させてください!今日は、ありがとうございました。


※1 モッズカルチャー:
ロンドン近辺で1950年代後半から1960年代中頃にかけて流行した音楽やファッションをベースとしたライフスタイル。細身の三つボタンのスーツ、ミリタリーパーカー、多数のミラーで装飾されたスクーターなどがモッズファッションとして代表される。
※2 キース・リチャーズ:
イギリスのロックミュージシャン・ギタリスト。ミック・ジャガー、ブライアン・ジョーンズと共にローリング・ストーンズを結成した。

川口潤(かわぐち じゅん)

<プロフィール>
SPACE SHOWER TV / SEP を経て2000年に独立。SPACE SHOWER TV 時代はブライアン・バートンルイスと共に『SUB STREAM』『MEGALOMANIACS』といった人気音楽番組を制作。独立後はミュージックビデオ、ライブ DVD、音楽番組 の演出等を多数手がける。代表作に「BOREDOMS」のライブドキュメンタリー『77BOADRUM』(2008)、「bloodthirsty butchers」のドキュメンタリー映画『kocorono』(2011)、HIP HOPグループ「THA BLUE HERB」の東北の被災地に立つライブハウスツアーの活動を追ったDVD作品『PRAYERS』(2013)、『山口冨士夫 / 皆殺しのバラード』(2014)、「OLEDICKFOGGY」初のドキュメンタリー作品『オールディックフォギー / 歯車にまどわされて』(2016)など。音楽ファンの間でいま最も信頼の置かれている映像作家である。

映画『THE COLLECTORS~さらば青春の新宿JAM~』

©2018 The Collectors Film Partners

11/23(金・祝)より新宿ピカデリーほかにてロードショー

出演:THE COLLECTORS
出演:會田茂一 岡村詩野 片寄明人 黒田マナブ THE BAWDIES 真城めぐみ 峯田和伸 リリー・フランキー The NUMBERS! 他
声:曽我部恵一
監督・編集:川口潤

撮影:川口潤 後藤倫人 梅田航 大石規湖 山辺真美 SUSIE 渡部フランケン 木本健太
スチール:岩﨑真子 柴田恵理
音楽:THE COLLECTORS(主題歌「明治通りをよこぎって」)
制作:アイランドフィルムズ
製作:THE COLLECTORS 映画製作委員会(フジパシフィックミュージック+日本コロムビア+スペースシャワーネットワーク)
エグゼクティブプロデューサー:朝妻一郎 小池英彦 上阪伸夫 阿部三代松 近藤正司 石田美佐緒
プロデューサー:大塚涼大 斎藤勝栄 杉岡由梨香 高根順次 近藤順也
配給:SPACE SHOWER FILMS

1:1.78/カラー/ステレオ/105分/2018年/日本

『THE COLLECTORS~さらば青春の新宿JAM~』公式サイト
twitter @Collectors_Film