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小学生・高校生の視力が過去最低に!?どのくらい下がっているの?

小学生・高校生の視力が過去最低に!?どのくらい下がっているの?

| 八巻綾(umisodachi)

昨年12月に発表された「平成30年度学校保健統計調査」(文部科学省)によると、小学生~高校生の裸眼視力における1.0未満の割合が、過去最低となりました。小学生の約34.1%、高校生の約67.1%が裸眼視力1.0未満で過去最低、中学生は2017年度の数値より若干改善したものの、約56%が裸眼視力1.0未満となっています。

この数字を見ると確かにショッキングですが、私はふと疑問を持ったのです。昔の子どもたちと比べて、実際のところ今の子どもたちはどのくらい視力が低下しているのだろう?また、文科省は「スマートフォンや携帯型ゲーム機の画面を眺めて過ごす時間が増えたこと」を視力低下の原因として挙げています。スマホや携帯ゲームが普及する前の数値と、そんなにも乖離しているのでしょうか?改めて、「平成30年度学校保健統計調査」を見ていきたいと思います。

平成30年度学校保健統計調査結果の詳細は?

文部科学省が行っている「学校保健統計調査」は、「学校における幼児,児童及び生徒の発育及び健康の状態を明らかにすることを目的とする」もので、視力だけではなく様々な項目に対して行われています。調査対象となったのは、全国の幼稚園・小学校・中学校・高校の計7,755校の生徒たち。裸眼視力や栄養状態などの健康状態の調査対象となったのは、対象校在学者全員(3,423,771名)です。(発育状態の調査対象となったのは、対象校在学者のうち年齢別・男女別に抽出された5.1%の生徒たちのみ)

小学生・高校生の視力が過去最低に!?どのくらい下がっているの?
◇幼稚園…計26.69% (1.0未満0.7以上19.04% / 0.7未満0.3以上6.78% / 0.3未満0.87%)
◇小学校…計34.10% (1.0未満0.7以上12.01% / 0.7未満0.3以上12.81% / 0.3未満9.28%)☆過去最高
◇中学校…計56.04% (1.0未満0.7以上11.27% / 0.7未満0.3以上19.22% / 0.3未満25.54%)
◇高 校…計67.09% (1.0未満0.7以上11.40% / 0.7未満0.3以上16.57% / 0.3未満39.13%)☆過去最高
※両眼とも 1.0 以上及び両眼又は片眼の 視力が 1.0 未満と判定された者について、左右のうち低い方の視力。

視力1.0未満の高校生が、実に全体の7割弱にも及ぶと聞くと、少し驚いてしまいますよね。しかも、そのうち約4割は視力0.3未満。なかなかショッキングな数字に見えます。では、この調査が始まった昭和54年以降、子どもたちの視力はどのように推移してきたのでしょうか?

実際のところ、子どもたちの視力はどのくらい下がっている?

子どもたちの視力の推移を、およそ10年毎の数値で見ていきましょう。

小学生・高校生の視力が過去最低に!?どのくらい下がっているの?
<1979年>計16.47% (1.0未満0.7以上12.21% / 0.7未満0.3以上3.91% / 0.3未満0.35%)
<1988年>計23.21% (1.0未満0.7以上16.65% / 0.7未満0.3以上6.09% / 0.3未満0.48%)
<1998年>計25.84% (1.0未満0.7以上16.15% / 0.7未満0.3以上7.18% / 0.3未満0.51%)
<2008年>計28.93% (1.0未満0.7以上22.03% / 0.7未満0.3以上6.11% / 0.3未満0.78%)
<2018年>計26.69% (1.0未満0.7以上19.04% / 0.7未満0.3以上6.78% / 0.3未満0.87%)
小学生・高校生の視力が過去最低に!?どのくらい下がっているの?
<1979年>計17.91% (1.0未満0.7以上9.47% / 0.7未満0.3以上5.77% / 0.3未満2.67%)
<1988年>計19.59% (1.0未満0.7以上8.34% / 0.7未満0.3以上7.12% / 0.3未満4.13%)
<1998年>計26.34% (1.0未満0.7以上10.49% / 0.7未満0.3以上9.91% / 0.3未満5.94%)
<2008年>計29.87% (1.0未満0.7以上11.23% / 0.7未満0.3以上11.60% / 0.3未満7.05%)
<2018年>計34.10% (1.0未満0.7以上12.01% / 0.7未満0.3以上12.81% / 0.3未満9.28%)
小学生・高校生の視力が過去最低に!?どのくらい下がっているの?
<1979年>計35.19% (1.0未満0.7以上9.65% / 0.7未満0.3以上12.47% / 0.3未満13.06%)
<1988年>計39.39% (1.0未満0.7以上10.17% / 0.7未満0.3以上13.37% / 0.3未満15.85%)
<1998年>計50.31% (1.0未満0.7以上11.58% / 0.7未満0.3以上16.66% / 0.3未満22.07%)
<2008年>計52.60% (1.0未満0.7以上12.38% / 0.7未満0.3以上17.80% / 0.3未満22.42%)
<2018年>計56.04% (1.0未満0.7以上11.27% / 0.7未満0.3以上19.22% / 0.3未満25.54%)
小学生・高校生の視力が過去最低に!?どのくらい下がっているの?
<1979年>計53.02% (1.0未満0.7以上11.12% / 0.7未満0.3以上15.61% / 0.3未満26.29%)
<1988年>計54.54% (1.0未満0.7以上10.49% / 0.7未満0.3以上15.84% / 0.3未満28.22%)
<1998年>計62.51% (1.0未満0.7以上11.71% / 0.7未満0.3以上17.03% / 0.3未満33.77%)
<2008年>計57.98% (1.0未満0.7以上12.55% / 0.7未満0.3以上17.07% / 0.3未満28.36%)
<2018年>計67.09% (1.0未満0.7以上11.40% / 0.7未満0.3以上16.57% / 0.3未満39.13%)

こうしてみると、確かに子どもたちの裸眼視力が年々下がっているのがわかります。幼稚園以外については、裸眼視力1.0未満の割合は平成30年度が最も高く、中でも裸眼視力0.3未満の割合は、幼・小・中・高のすべてで最高値を記録しています。

子どもたちの視力低下の原因はスマホやゲーム?

では、平成30年度の裸眼視力1.0未満の割合が高い理由=「スマートフォンや携帯型ゲーム機の画面を眺めて過ごす時間が増えたこと」と本当に言えるのでしょうか?およそ10年毎の数値の変化を見ていて私が気になったのは、2008年から2018年の数値差よりも、むしろ1988年から1998年の数値差でした。特に小学校と中学校では、1988年から1998年の変化の大きさが顕著です。なお、高校は2008年に大きく割合が下がっているものの、翌年は62.89%となりその後緩やかに上昇しているため、やはり高校も1988年から1998年の変化が目立つことに変わりありません。

ファミコンが発売されたのは1983年。爆発的にヒットした携帯型ゲーム機ゲームボーイが発売されたのが、1989年のことでした。小中学生内でのゲームボーイ普及の最大の起爆剤となったと思われるソフト「ポケットモンスター赤・緑」が発売されたのが1996年。こうしてみると、1988年から1998年の視力低下の原因のひとつとして、携帯型ゲーム機の普及を挙げるのは、一見すると自然なことに思えます。

しかし、1979年に生まれ、ちょうどこの時期に小中学校時代を過ごした私の感覚からすると、少し違和感があります。いま電車の中でほとんどの人がスマホを見ているのと同じように、終始ゲームボーイで遊んでいる子どもばかりだったいう記憶がないのです。私もゲームボーイを持っていましたが、兄弟で共有していたので使用時間が限定されていました。いま電車に乗るとほとんどの人がスマホを見ていますが、当時の子どもたちが同じように四六時中ゲームボーイで遊んでいたわけでは決してなかったと思うのです。

これは私個人の考えですが、この時代の子どもたちのライフスタイルで最も大きく変化したのは、「外遊びの減少」ではないでしょうか。1993年に「児童公園」という名称が「街区公園」となり、公園は子どもだけのものではないという認識に変わりました。少しずつ事故の危険性のある遊具が撤去されたり、「ボール遊び禁止」「大声禁止」などの規則が現れ始めます。また、1980年頃から段階的に進んだ「ゆとり教育」への不安による学習塾の発展や、家庭用ゲーム機や携帯ゲーム機の普及なども絡み合い、1999年までに子どもの外遊びの機会が急速に減ったのではないかと思われます。

小学生・高校生の視力が過去最低に!?どのくらい下がっているの?

外で遊ばないと、必然的に遠くを眺める機会がなくなり、近くばかりを見ることになります。結果、目の調整機能が弱まり視力が落ちる。このことは、多くの専門家が指摘しています。少なくともこの時代に関しては、視力低下の原因として1番に携帯型ゲーム機を槍玉に挙げるのは無理がある気がします。なお、携帯電話が一般に広く普及し始めたのは1995年以降のこと。小学生や中学生にまで普及したのは、2000年代以降になってからでした。

ただ、ここ10年あまりの視力低下については、スマートフォンや携帯型ゲーム機の影響を無視できないのも確かです。いまの子どもたちの多くが、スマートフォン・携帯型ゲーム機を所有しています。MMD研究所が株式会社レコチョクと共同で行った「音楽とゲーム機に関する調査」では、以下の調査結果が出ました。

◯スマートフォン、フィーチャーフォンを合算した携帯電話所有率
小学生:35.5%
中学生:57.0%
10代後半:94.3%

◯ゲーム機(据え置き型、ポータブル型、以下ゲーム機)の所有率
小学生:60.7%
中学:73.8%
10代後半:68.4%

(2018年8月24日~8月26日の期間/15歳~59歳の男女2,000人を対象に実施)

小学生・高校生の視力が過去最低に!?どのくらい下がっているの?
※ただし、この調査は個人/家族での所有を判断するものではなく、使用時間について質問するものでもありません。
この調査に基づいて『小中高生の携帯型ゲーム機の使用時間が長時間化した』と一概に判断できるものではありません。

所有しているゲーム機で最も多かったのはNINTENDO 3DSでした。iPhone 3Gが発売されたのは2008年、NINTENDO 3DSが発売されたのは2011年。2008年から2018年の10年間で、小学生の約6割が携帯型ゲーム機を、高校生の約9.5割がスマートフォンを所有するようになったとは驚きです。

子どもたちの視力低下の原因は、ひとつに定められるものではないはずです。都市の在り方や、教育環境、携帯型ゲーム機や携帯電話の爆発的普及といったライフスタイルの変化により、子どもたちの外遊びの機会が急速に減少たこと。そして、スマートフォンやNINTENDO 3DSなどの携帯型ゲーム機が、ここ10年程度でさらに爆発的普及したこと。どちらも視力低下の原因なのでしょう。この状況を改善させるには、スマホやゲームの使い方も含めたライフスタイルそのもの、子どもが自由に外遊びできるための社会のあり方そのものを考えていかなければいけないのではないでしょうか。