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第15回『ミセス・ダウト』【めがねと映画と舞台と 】

第15回『ミセス・ダウト』【めがねと映画と舞台と 】

| 八巻綾(umisodachi)
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気がつけば12月に入り、街はクリスマスムード。日本では恋人同士で過ごす日というイメージのあるクリスマスですが、欧米では家族で過ごすのが一般的。ツリーを眺めながら家族みんなで食卓を囲み、子どもたちはサンタの到来を楽しみにしながら眠りにつきます。今回取り上げる作品は、クリスマス時期に強く意識する“家族”のあり方を描いたコメディ映画『ミセス・ダウト』(1993年)です。

映画やドラマなどに登場するめがねの大きな役割のひとつに、変装があります。『ミセス・ダウト』は、変装という仕掛けを最大限に生かし切った作品。故ロビン・ウィリアムズの真価がいかんなく発揮された傑作です。

めがねと映画と舞台と 第15回『ミセス・ダウト』
(c)2014 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

俳優のダニエルは、デザイナーの妻と3人の子どもと共にサンフランシスコで暮らしています。すぐに失業してしまうダニエルは経済的に頼りにならないため、妻のミランダはバリバリ働いていました。子どもたちと派手に遊ぶばかりで、家事にも協力しないダニエルへの愛情は失われつつあったある日、遂にミランダの堪忍袋の緒が切れます。ダニエルが息子の誕生日パーティを勝手に開いて騒動を起こしたからです。2人は離婚することになり、生活能力のないダニエルは、限られた時間しか子供と会うことができなくなってしまいます。

子供たちこそが生きがいだったダニエルはミランダが家政婦を募集することを知り、メイクアップアーティストの兄の力を借りて、イギリス生まれの架空の老家政婦“ミセス・ダウトファイア”に変装。ミランダに雇われ、家に入り込むことに成功します。

離婚前は掃除も料理もてんでダメ、子供たちを甘やかしてばかりだったダニエルでしたが、ミセス・ダウトファイアとして信頼を得るために必死で家事をマスターし、子どもたちを厳しく教育するようになります。ミセス・ダウトファイアのおかげで家庭は明るくなり、子どもたちとミランダにも笑顔が戻ります。しかし、そんなミセス・ダウトファイアとダニエルとの二重生活がいつまでも上手くいくはずはなく……。

めがねと映画と舞台と 第15回『ミセス・ダウト』
(c)2014 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『ミセス・ダウト』の見どころは、何といってもロビン・ウィリアムズが繰り出す変幻自在の名演技です。ダニエルはありとあらゆる声色を使い分け、常に冗談を言い続けているような男。その能力をフルに生かし、外見も内面も(声や発音まで)、完璧な老婦人に変貌します。

そして、多くの変装アイテムの中でも特に大きな存在感を放っているのが、めがねです。少年のような幼さと頼りなさを湛えていたダニエルの瞳が、めがねをかけた途端、実に知的で慈悲深く見えるから不思議。ミランダも、ミセス・ダウトファイアには自然と悩みを打ち明けてしまいます。14年間の結婚生活の中では、真っすぐに本心を打ち明け合うことなど一度もできなかったのに。

家事の失敗を取り繕ったり、ミランダの新しい恋人に嫌がらせをしたりといったドタバタを織り交ぜながら、子どもたちとの時間を死守するために必死に成長するダニエル。その頑張りを見ると、誰もが応援したくなってしまうでしょう。しかし、『ミセス・ダウト』が用意した結末は、ダニエルの努力が認められ、晴れて家族に戻るというハッピーエンドではありません。

公開時に『ミセス・ダウト』を観た私は、なぜミランダとダニエルが再婚しないのだろうと不思議でした。しかし、そんな結末はあり得ない。大人になり家庭を持った今の私はそう思います。ミセス・ダウトファイアとしてできた努力を、なぜ離婚前にしなかったのか。ミセス・ダウトファイアとして聞いてあげたミランダの悩みを、なぜ離婚前に聞こうとしなかったのか。子どもにとっては最高の父親でも、ミランダにとって良いパートナーではなかった。その事実は、ダニエルがいくら必死になったところで変わらないのです。家事や教育の大変さを知るにつれ、ダニエルは結婚生活における自分の過ちを理解していきます。

ミランダもまた、ダニエルの子どもたちへの愛情は確かなもので、そこに強い覚悟があることを悟り、夫としてのダニエルと、子どもたちの父親としてのダニエルを切り離して考えることができるようになります。そして、初めてダニエルに正面から向き合うのです。最終的なミランダの選択について、それでも甘いと感じる人もいるでしょう。しかし、私はミランダの決断を肯定したいと思います。

子ども向け番組の人気キャラクターとなったミセス・ダウトは、両親が離婚しそうだと悩む幼い視聴者の相談に対して、「どのような形であれ、愛があれば家族である」という答えを与えます。例え一緒に暮らしていなくても、愛があれば家族。その愛とは、依存ではなく、互いを尊重する愛です。ミランダとダニエルが最終的に下した結論こそ、相手を尊重し認め合う愛の証。私はそんな風に感じました。

少々下ネタもある『ミセス・ダウト』ではありますが、子供から大人まで誰もが楽しめる名作です。今年のクリスマスは、家族でロビン・ウィリアムズの名演技を堪能しつつ、“家族”と“愛”について考えてみませんか?

映画『ミセス・ダウト<特別編>』

めがねと映画と舞台と 第15回『ミセス・ダウト』

DVD発売中
価格:¥1,419+税
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
(C)2014 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

八巻綾(umisodachi)
テレビ局で営業・イベントプロデューサーとして勤務した後、退社し関西に移住。一児を育てながら、映画・演劇のレビューを中心にライター活動を開始。ライター名「umisodachi」としてoriver.cinemaなどで執筆中。サングラスが大好き。