あなたの変化に、そっと寄りそう

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第14回『ブレードランナー』【めがねと映画と舞台と 】

第14回『ブレードランナー』【めがねと映画と舞台と 】

| 八巻綾(umisodachi)

私には5歳になる息子がいますが、彼が目下のところ夢中になっているのが『ドラえもん』。何を隠そう、私も小さい頃は『ドラえもん』ばかり見ている子供でした。その中でも最も魅力的だったのは、夢に溢れた未来の描写です。これから自分を待っているかもしれない未来の姿に、無性にワクワクした感覚を今でも鮮明に思い出せます。

浮かびながら走る車、タイムマシン、その場にいながら旅行気分が味わえる立体映像……。

まだまだ実現していないものもありますが、SFが描く未来の世界に魅了されたことがない人は少ないのではないでしょうか。未来に想いを馳せた人々の想像力が爆発することによって創り出されたSF作品たち。名作といわれるSF作品は数え切れないほど存在していますが、その中でも特に後の作品に大きな影響を与えた作品のひとつが、1982年に公開されたSF映画の傑作『ブレードランナー』です。現在、35年の歳月を経て続編『ブレードランナー 2049』が公開中ということでも話題の1本です。

めがねと映画と舞台と 第14回『ブレードランナー』
TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

2019年、環境破壊が著しいロサンゼルス。人類の大半は開拓された宇宙の別の場所に移住し、宇宙開拓の最前線ではタイレル社が開発した人造人間(レプリカント)が労働に従事させられていました。製造からしばらくすると感情が芽生えてしまうレプリカントたちには4年という寿命が与えられていましたが、一部が反乱を起こし地球に帰還。人間界に潜入します。

裏切ったレプリカントたちを解任(事実上の抹殺)するのは、ブレードランナーと呼ばれる捜査官。他のブレードランナーを殺害して潜伏している4人のレプリカントを解任するため、退役ブレードランナーであるデッカードが呼び戻されるところから物語はスタートします。

めがねと映画と舞台と 第14回『ブレードランナー』
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『ブレードランナー』は、究極的には【人間とは何か】を問う哲学的な作品です。
レプリカントは遺伝子工学によって誕生した人造人間。『ターミネーター』のように皮膚の下が機械になっているわけではありません。つまり、身体の構造としては人間と変わらないわけです。感情的な反応の差異や、虹彩の筋肉の収縮など微細な違いしかないため、普通に行動している分には誰がレプリカントなのかを判別することはできません。

めがねと映画と舞台と 第14回『ブレードランナー』
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人間とほとんど変わらず、やがては感情をも持つようになるレプリカント。

反乱者4名とは別に登場するレプリカントの女性レイチェルに至っては、違う人間の記憶を移植されているために、自身がレプリカントだということにすら気付いていませんでした。人間となんら変わらないのに、人間とはみなされず人権がない。 それならば、人間を人間たらしめているものとは一体なんなのか?

『ブレードランナー』を観る者は、そんな疑問を抱かずにはいられません。レプリカントたちを追うデッカードもまた、自分の存在にすら確信が持てなくなっていきます。

めがねと映画と舞台と 第14回『ブレードランナー』
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めがねと映画と舞台と 第14回『ブレードランナー』
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『ブレードランナー』が多くのファンの心を捉えて離さないのは、この作品が独特な世界観を持っていることに加えて、このような哲学的かつ難解なテーマ性を含んでいるからです。

そんな『ブレードランナー』において、めがねをかけている人物はタイレル社の社長。レプリカントをこの世に誕生させた張本人です。

『ブレードランナー』に登場する人間たちは、レプリカントたちとは対照的です。そもそも、経済面や健康面で問題がある人間以外は地球外に移住しているという設定。異様に人口密度の高い街には、明らかに貧しそうな人々や裏社会の匂いがする人々が蠢いています。

めがねと映画と舞台と 第14回『ブレードランナー』
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そして、レプリカント開発のキーマンである天才遺伝子工学技術者は早老症を患っており、タイレル社の社長は大きくて分厚いめがねを着用しています。

対して、追われるレプリカントたちは容姿端麗で身体能力が非常に高く、一見すると【完璧な】存在のように見えます。

早老症と近眼(もしくは遠視)という身体的なハンディキャップをおう人間が、何の弱点もない存在を生み出し(短い寿命以外)、完全に支配している。極端に大きく印象的なタイレル社長のめがねは、この構図を鮮明に浮かび上がらせます。

めがねと映画と舞台と 第14回『ブレードランナー』
TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.
めがねと映画と舞台と 第14回『ブレードランナー』
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反逆したレプリカントの運命は、実際に『ブレードランナー』を観て確認してください。また、続編である『ブレードランナー 2049』でも、<身体的なハンディキャップをおう人間が支配者となる>という構図は継承されています。そして、『ブレードランナー』が持つ哲学性は『ブレードランナー 2049』でさらに深められ、驚きの展開を見せるのです。

人間とは? 生命とは? 愛とは?
『ブレードランナー』でレプリカントたちの「長く生きたい」という願望は、『ブレードランナー 2049』ではどう発展していくのでしょうか。

『ブレードランナー』も『ブレードランナー 2049』も、映画史に残る大傑作であることは間違いありません。壮大なテーマに挑んだ『ブレードランナー』の世界に、あなたも飛び込んでみてください。

めがねと映画と舞台と 第14回『ブレードランナー』
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映画『ブレードランナー ファイナル・カット』

映画『ブレードランナー ファイナル・カット』

日本語吹替音声追加収録版 ブルーレイ(3枚組) ¥5,990(税抜)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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