【伊藤美玲のめがねコラム】第64回「100円ショップでの出来事」
この前、買い物ついでに100円ショップへ立ち寄ったときのこと。せっかくだから老眼鏡やサングラスも見てみようと探してみると、そこには様々な種類の老眼鏡が何段にも渡って並べられていました。これだけ置いてあるということは、きっと売れ筋なのでしょう。
しばらくすると、そのコーナーにご婦人が2人やって来ました。なにやら、そのうちの一人が老眼鏡を買い足そうとしている様子。すると、こんな会話が繰り広げられていたのです。
「ここに書いてある+1.0とか+2.0っていう数字は、何を選ぶのが正解なのかしらね」
「そうそう、これってよくわからないわよね」
「いつも、なんとなくで選んでるのだけど……」
「+2.0っていうのは、視力のことかしら?」
(えっ、なんとなく選んでる!?)と、私は内心驚きながらも、まさかそこで2人に声をかけるわけにもいかず、その場を去ってしまいました。
いや、「この数字は度数です。ご自身の度数がわからないのならば、一度眼科やめがね店で検査してもらったほうが良いですよ」と、声をかけるべきだったかな……。いやはや。
私のように子どもの頃から近視だとめがね店は身近な存在だし、めがねは検査をしたうえで自分に相応しい度数のものを掛けるのが当然だと思っています。
でも、めがねを必要としないまま老眼を迎えた場合、とりあえず身近な雑貨店などで既成老眼鏡を買って済ませている人って、案外多いのかもしれません。もしかしたら、老眼鏡=既成と思っている人も少なくないのかもしれない。
それを証拠に、「老眼鏡」をテーマに出版社などから取材の依頼がくる場合、既成老眼鏡を前提としていることが多いんですよね。そのたびに、「見えにくさを自覚したら、まずは眼科かめがね店へ行くこと」を前提に、お話しをさせてもらっています。
なぜなら、老眼鏡も本来は自分に合った度数で作ったほうがいいからです。簡易な度数の目安表などで自己判断せず、ぜひめがね店で検査をしてもらうことをおすすめします。とくにこれまでめがね店や眼科と縁遠かったという人は、まず眼科へ行ったほうが安心でしょう。
見え方の不具合が、目の病気などに起因している可能性もゼロではないですから……。
もちろん、既成老眼鏡の存在を否定するわけではないんです。外出時に老眼鏡を忘れてしまった場合、安価なもので一時的にまかなえるのは便利だし、キッチンや寝室など各部屋に常備しておく老眼鏡のすべてを、それぞれ数万円かけて用意するというのは現実的ではないでしょう。
そんなとき、既成老眼鏡はありがたい存在です。
とはいえ、既成老眼鏡は左右ともに同じ度数で作られていますが、自分の度数が左右同じであるとは限らないですよね?
また、本来めがねはレンズの中心と、掛ける人の瞳孔の中心とを一致させて作るものです。
既成老眼鏡の場合それができないので、たとえ度数が合っていたとしても見え方に不具合が生じるでしょう。それゆえ、メインで使う1本は、きちんと自分に合ったものを使ってほしいのです。
テキトウなもので済ませてしまっていては、いつまでもめがねに慣れないし、めがねのお洒落を楽しむこともできないでしょう。少々値が張っても、お気に入りのフレームで自分に合った1本を作れば、“見え方”も“見た目”もぐぐっと向上するはずです。
あぁ、やっぱり私は、あのご婦人たちにこの話を伝えるべきだったのかな……。
おせっかいかもしれないけれど、少しでもそうしためがね難民の方々に、めがね屋さんへ足を運んでもらうきっかけになれば。そうした思いで、今回のコラムを書いた次第です。
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。