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【design88 デザイナー】杉本早見さんインタビュー「めがねが解決できる課題は、何だろう?」

【design88 デザイナー】杉本早見さんインタビュー「めがねが解決できる課題は、何だろう?」

| 日本橋たまご

2014年の立ち上げ以来、その高い提案力で注目を浴び続けてきたブランド「design88」。高い機能性とデザイン性を兼ね備えたそのめがねは「軽さをデザインした」「かけ心地をデザインした」とさえ言われるほど。

今回インタビューしたのは、そんなdesign88(デザインハッパ)を立ち上げたデザイナーの杉本早見さん。デザイナーとしての師との出会いから、ブランドの立ち上げ、そしてこれから目指すべきものまで、お話を伺いました。

地獄のような1年間が、僕をデザイナーにしてくれた。

本日は杉本さんのデザイナーとしての足跡を辿りながら、design88の魅力に迫りたいと思います。杉本さんは、学生時代は京都の美大で学ばれていたとお聞きしました。当時はどんなものをつくっていたのですか?

杉本石彫、要するに石を素材にした彫り物です。絵を描くよりも立体的なものをつくるのが好きだったので、ノミやカンナを使ってカンカンカン、と。どちらかというと、抽象的な作品ばかりつくっていました。その一方で、アート作品とは別に、人の役に立つものを手がけたいという気持ちもありました。ぼくは子どもの頃に、足を患っていた時期があったんです。そのときに、足を補助する器具に随分と助けられました。その経験から「いつか自分も人を助ける道具をつくりたい」という想いがあったんです。それで学校を卒業すると同時に、故郷である福井に帰って、めがねデザイナーの道を歩みはじめました。

【design88 デザイナー】杉本早見さんインタビュー「めがねが解決できる課題は何だろう?」
design88デザイナー 杉本早見さん

「美しさ」を追求するアートの世界から、実用性が求められるデザインの世界へ移られた際には、ギャップもあったのではないですか?

杉本確かに大学では、デザインのことなんてほとんど勉強しませんでしたからね。そんな僕にデザインのなんたるかを教えてくれたのは、インダストリアルデザイナーの川崎和男さんです。大学を卒業後、最初に勤めた会社に入社した年に、ちょうどSSID(鯖江インテリジェントデザイン講座)の一期生を募集していたんです。福井を代表するデザイナーである川崎さんが講師を務めると知り「これは面白いな」と。会社もお金を出してくれるというし、最初はちょっとしたカルチャーセンターにでも通うくらいのノリの軽い気持で受講を決めたのですが、通ってみたらとんでもない。「地獄か!」と何度も思いましたよ。

「地獄」ですか! 何がそんなに大変だったのですか!?

杉本毎週課題が出るのですが、とにかくこれが終わらない。例えば、A2版くらいの紙にひたすら2mmピッチで手描きの円を描いていく「デザインストローク」。仕事が終わった後の時間でなんとか終わらせて、1週間後に持って行くと「汚いからやり直し」と言われてしまう。そうすると次の週の課題とも重なって……。もう毎週パニック状態でしたよ。どの課題もひたすら手を動かす、実地訓練。その一方で、週に一回の授業ではデザイナーとしてのあるべき考え方を徹底的に叩き込まれました。

“デザイナーとしてのあるべき考え方”とは、どんなことだったのですか?

杉本当時の僕は「役に立つものをつくりたい」とは言いながらも、どこかで「かっこいいものをつくるのが、デザインだぜ!」と思っていました。それに対して「そうじゃないんだ」と諭してくれたのが川崎さんです。「まずはそこにある問題を見つけ出して、それを解決するのが本当のデザインなんだ」と。同時に、役に立つものには必然的に美しさが宿るとも学びました。川崎さんは「美しくなければ、どんなに優れたものでも誰も使わない」とも仰っていた。川崎さんのもとで学んだ1年間で、「より多くの人の役に立つ、美しいめがねをつくろう」という、今も僕の根底にある考え方を築くことができました。川崎さんのおかげで、僕はデザイナーになれたのです。

サラリーマンとしての成功を捨て、本当につくりたいものを。

そうやってSSIDでデザイナーとしての基礎を磨きつつ、会社では実際にめがねづくりに携わっていたわけですよね。初めてデザイナーとしての仕事を任されたのはいつ頃ですか?

杉本それがけっこう早くて、入社1年もしないうちに、自分のデザインが商品化されたと思います。ただし、その頃の事って、正直あんまり覚えていません(笑)。会社も3社くらいを転々としてしまって……。デザイナーとして一番力を発揮できたのは、一番最後に勤めていた会社かなあ。いろんなことが上手く噛み合って、チーフデザイナーとしていくつかのヒット商品にも携わらせてもらいました。30歳前後の頃です。

30歳でチーフデザイナーというのは、早い昇進だったのではないですか?

杉本そうですね。自分でいうのも何ですが、ぼくはサラリーマンとしてはそれなりに成功した人間だと思います(笑)。実家が酒屋を営んでたせいか、商売人気質でね。デザイナーとしては青臭いことも言うんですけど、ビジネスのことになるとドライな考え方もできる。そのバランスが良かったんでしょうね。

【design88 デザイナー】杉本早見さんインタビュー「めがねが解決できる課題は何だろう?」

サラリーマンとして順風満帆に歩んでいたにも関わらず、独立の道を選ばれたのは、どうしてですか?

杉本自分のゴールが見えちゃったんですよ。「この会社で、俺は企画開発部長くらいで終わるだろう。社長にはなれないな。」と。社長になれないなら、100%自分の思うようなめがねもつくれないと考えたんです。だから社長になれないと気付いた瞬間に独立を決めて、2003年には「スギモトデザインスタジオ」を立ち上げました。ただし、それですぐに自分のめがねをつくりはじめたかと言うと、そうでもないんです。初めの10年間は、主にフリーのめがねデザイナーとして、クライアントの依頼を受けてめがねをデザインしていました。

クライアントは鯖江のめがね屋さん?

杉本そうですね。色んな会社から依頼を受けてめがねをデザインしましたよ。ただ、次第にクライアントの意向を反映したデザインしか描けなくなっている自分に気付いたんです。自分のやりたいことをやるために独立したはずなのに、それができなくなっていた。「この10年間、俺は何をやってたんだ!」と悔しさがこみ上げてきました。そこで“本当に自分のつくりたいめがね”をつくるために、「design88」を2014年に立ち上げました。

前例や習慣に縛られないものづくりを。

design88ではどんなめがねをつくろうと考えていたのですか?

杉本純粋にユーザーに喜ばれるものをつくろうと考えました。めがね業界の慣習や前例を、一度取り払って考えてみたかったんです。例えば僕の友人に「めがねに度入りのレンズを入れるとカッコ悪くなる」という人がいたんです。度入りのレンズは厚みがあるから、めがね屋さんで試着した時とは微妙に印象が変わってしまうんですね。それは僕も気付いていたし、多くのめがね屋さんも気付いていたけれど、しょうがないものだと思っていたんです。

「レンズってそういうものなんだから、しょうがないじゃん」と。

杉本そうです。それが当たり前になってしまっているから、そもそも解決すべき課題だと捉えていなかったんです。けれど僕は、これこそ取り組むべき課題だと考えました。そこで生まれたのが「D88-5」というモデルです。

【design88 デザイナー】杉本早見さんインタビュー「めがねが解決できる課題は何だろう?」
D88-5

「メガネベストコンテスト2016」(※1)でレディース部門グランプリを受賞しためがねですね。レンズと一体化したような透明なフレームが印象的です。

杉本フレームに使ったのは、サングラスレンズにも使われる「フェザーアミド」。要するに、フレームとレンズの境界線をなくしてしまおうという発想です。こうすることで、デザイン的に普通のめがねよりもレンズ自体のサイズを小さくできるんです。レンズというのは幅が小さい方が薄くて済みます。だからレンズを入れたときの違和感も少なくなるんです。

まさに当初の課題をデザインで解決されたのですね。「D88-5」はフレームの部分に好みの色を着色する「カスタムカラー」というサービスも展開していましたよね。

杉本お化粧する際に「アイメイクにはブルーを入れて、チークにはオレンジを」とするように、その人の顔にもっとも合ったカラーを選んでもらいたいと思いました。「あなたの顔をきれいに見せる色遣い」をめがねに、という提案です。

めがねをかけない人たちの目は、あまりにも無防備です。

今年、発売された「24hグラス」も、課題の解決を目指してつくられたのでしょうか?

杉本その通りです。ただ、これまでのものと違うのは「めがねをかけていない人」が抱える課題の解決を目指したサングラスだということです。

【design88 デザイナー】杉本早見さんインタビュー「めがねが解決できる課題は何だろう?」
24hグラス

「めがねをかけていない人の抱える課題」というと……?

杉本人体に有害な光線を直に浴びていることです。日本では人口の約50%にあたる人が、めがねをかけていません。彼らは日々、紫外線はもちろん、スマホやPCから発せられるブルーライトに無防備な状態で晒されているわけです。今はなんの問題もなくても、それが数十年後にどんな被害につながるか分からない。こんな危険な状況をなんとかしたい、と思って開発したのが「24hグラス」です。

「24h」という名前は「一日中でもつけていられる」という意味だと思うのですが、一日中かけられるように、どんな工夫がしてあるのでしょうか?

杉本まずは紫外線の量に応じて濃淡のかわる「チェンジカラー」レンズを使ったことです。これで明るいところでも暗いところでも、ずっとかけていられます。全体が1枚のレンズでつくられていることもポイントです。こうすることで、レンズの歪みが少なくなるので、頭痛やめまいの原因になることもありません。1枚のレンズでありながら、平面ではなく顔を覆うように立体的な形に仕上げるのは大変難しい作業で、レンズ屋さんにはかなり無理をお願いしました。その分コストもかかってしまうので、はっきり言ってウチとしてもあまり儲からない商品なんですよ。

儲からないと分かっていながら、あえてそれをつくり続けるのはどうしてでしょうか?

杉本もちろん危険な状態にある「目」を守らなければという使命感はあります。それと、めがねをかけない人にアプローチするこのサングラスが、めがねユーザーの裾野を広げてくれるんじゃないかという思いもあるんです。だからこそ、このめがねは当初、クラウドファウンディングで資金を集めました。クラウドファウンディングを利用すれば、めがねユーザー以外の人たちにもバーっと情報が拡散できるでしょう?

なるほど! 資金を集めつつ、情報発信もしてしまおうと。まさに杉本さんの商売人気質が生かされた発想ですね。

杉本普段めがねを使わない人をターゲットにしているから、リアルの店舗ではなくネットショップでの販売に力を入れるなど、販売面でも工夫をしています。どんなに優れたものも、それがお客様に届かなければ課題は解決できませんからね。どうやってお客様に届けるのかっていうマーケティング的な部分まで含めて課題解決なんじゃないかな、と最近は考えています。

恐竜というユニークなモチーフにも何か意味があるのでしょうか? それとも杉本さんの「福井愛」の現れですか?

杉本福井愛かあ……。あることにしときましょうか(笑)。それは冗談として「紫外線やブルーライトから目を守る」って、それだけをまじめに伝えてもしかたないと思ったんです。むしろコンセプトがまじめだからこそ、デザインは笑えるものにしたかった。それでやっぱり福井と言えば恐竜かな、と。「ちょっとユニークで豪華な福井土産」くらいで買ってくれる人もいるかもしれませんしね。何よりも、めがねに興味がない人にも「恐竜だって、おもしろい!」と手に取ってもらえるじゃないですか。

恐竜というモチーフも「どう届けるか」を考えた結果なのですね。

ぼくたちは鯖江の「土」になった世代。

いかに課題を解決するか。杉本さんのその一貫した姿勢が、Design88のユニークなめがねを生んできたことが、お話を聞いていてよく分かりました。

杉本そうですね。ただ、ある意味で「デザインとは課題解決だ」って今では当たり前のことなんですよ。ぼくたちはそういう考え方をしはじめた第一世代。ぼくたちの姿を見て育った今の鯖江の若手デザイナーたちは、それを当たり前のものとしてスタートしているから、どんどん良いデザインを生み出しています。そういう光景を見ていると「ああ、自分たちは土だったんだな」と感じます。鯖江のめがね作りを育てるための「土」です。次の世代が種をまいてくれて、その次の世代が水を、そして今、少しずつ花が開きはじめた。もちろんぼくも土だけで終わる気はありません。自分なりの花を咲かせるつもりです。

杉本さんが、これからどんな花を咲かせてくれるのか、本当に楽しみです。最後に、杉本さんにとってめがねとは?

杉本目という臓器をサポートする唯一の道具がめがねです。それをもっと便利に進化させていくのがぼくの仕事。めがねで解決できる課題はまだまだたくさんあるはずです。単に視力を矯正する道具にとどまらないめがねの可能性を、これからも追求していきたいですね。

【design88 デザイナー】杉本早見さんインタビュー「めがねが解決できる課題は何だろう?」

まとめ

デザインとは課題解決。口で言うのは簡単ですが、実行するのは決して簡単なことではないはず……。なのですが、決して苦労を感じさせない杉本さんの飄々とした語り口に思わず引き込まれてしまうインタビューでした。

きっとこの軽やかさが、常識に縛られない柔軟な発想を生むのでしょうね。杉本さんの頭の中には、次はどんなアイデアが控えているのか。今後も楽しみです!

※1 ベストメガネコンテスト :
国内のめがねメーカーからその年に発表される新作モデルの中から、デザインが最も優れている製品に贈られる。

design88(デザインハッパ)

【オフィシャルサイト】
https://www.design88.info
※お問い合わせの際は、「めがね新聞を見た」とお伝えください。