【めがねと映画と舞台と】第40回『イエスタデイ』

もしタイムマシンがあったら、あなたは未来を知りたいですか? 過去に戻りたいですか? 私は、1度だけリセットOKという条件ならば過去に行ってみたいです。人生に後悔は少ない方だと思うのですが、「もしもあのときああしていたら、どうなっていただろう?」と思う瞬間がひとつだけあるからです。

「もしもあっちの大学を選んでいれば」「もしもあの日あの映画を観なかったら」「もしもあの夜に彼に出会っていなければ」……誰にだって、そんな風に振り返る過去があるはず。今回ご紹介する『イエスタデイ』は、そんな「もしも」を形にした映画です。

©Universal Pictures

『イエスタデイ』が設定する「もしも」は、なんと「この世に【ザ・ビートルズ】が存在しなかったら」!
主人公のジャックは売れないシンガーソングライター。幼馴染のエリ―がマネージャーとして頑張っているものの、鳴かず飛ばずの日々が続いています。もう音楽を諦めようかと悩んでいたある夜、全世界が一斉に停電する怪現象が起こります。その停電のせいで交通事故に遭ってしまったジャックは昏睡状態に陥りますが、しばらくして意識を取り戻します。そして目覚めた世界からは、ザ・ビートルズの存在が消えているということに、ジャックは徐々に気付いていくのです。

どうやら、ザ・ビートルズの事を知っているのはジャックだけのよう。後ろめたさを覚えつつも、ジャックはザ・ビートルズの楽曲を歌って世間に認められていきます。ついにはあのエド・シーラン(※)にも認められ、一気にスターダムを駆け上がることに。しかし、その陰でエリーは複雑な想いを抱えていて……。

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何十曲も世界中の人々が口ずさめる曲を持つミュージシャンなんて、ザ・ビートルズ以外にいるでしょうか? 快気祝いの席でジャックが「イエスタデイ」を軽く弾き語ると、友人たちはキョトンとして「その曲、あなたが作ったの……?」と驚きます。メロディを少し聴いただけで「これは良い曲だ!」と直感するナンバーを数多く生み出したザ・ビートルズでなければ、成立しなかったシーンでしょう。

このように説明していると、ジャックのサクセスストーリーだと思うかもしれませんが、本作の主軸はラブストーリーです。明るくて優しくて最高に可愛いエリーが一途にジャックを想い続けているのに(バレバレですが)、まるで気持ちに気付かないジャック。ふたりの恋心が近づいたり離れたりする過程を、珠玉のナンバーとともに紡いでいくハートフルムービーです。

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ジャックを演じるヒメーシュ・パテルは、嫌味のない素直な歌声の持ち主。ジャックをスターダムへと引き上げるエド・シーラン(本人役)の個性的なパフォーマンスとも良いコントラストになっていて、まったくノイズなくザ・ビートルズのメロディを響かせます。清々しい音楽と、初々しいラブストーリー。『イエスタデイ』は、驚くほどまっすぐで曇りがない、老若男女が楽しめる作品に仕上がっています。

そういえば、めがねの話はどうしたのかって? もちろん、忘れているわけではありませんよ。本作に登場するめがねはふたつ。ひとり目のめがねキャラは、本人役を演じているエド・シーランです。アーティストがちょっとゲスト出演しているというレベルではなく、主要キャストとして最初から最後まで物語に大きな影響を与えるエド・シーラン。パフォーマンスシーンはもちろん、演技力もなかなかのものです。

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もうひとつのめがねは、非常に大きな意味を持っています。もしかしたら、そのシーンのためにこの映画は作られたのではないのかと思うほど。でも、ここでは詳細に触れたくありません。ご自身の目で確かめてほしいからです。

本作は本格SFではないので、完璧に辻褄が合っているわけではありません。だから、「ザ・ビートルズがいなければ音楽シーンが全然違うものになるはずだから、エド・シーランも存在しないのでは?」なんていう野暮なツッコミがつい頭をもたげます。しかし、この2人目のめがねキャラを見たとき、この映画の「もしも」が与えてくれた世界に私は涙しました。

『イエスタデイ』はとても優しい映画です。優しい気持ちとフィクションの力で作られた、とても優しい世界。めがねをかけたあの人に、ぜひスクリーンで会ってきてください。

※エド・シーラン:イギリスのシンガーソングライター。グラミー賞を4回受賞、2017-2019年に行われたコンサートツアーの総動員数でワールドレコードを樹立するなどの活躍を遂げている。

映画『イエスタデイ』

©Universal Pictures
絶賛公開中!


監督:ダニー・ボイル(『トレインスポッティング』(96)、『スラムドッグ$ミリオネア』(08)、『127時間』(10)、ほか)
脚本:リチャード・カーティス(『フォー・ウェディング』(94)、『ラブ・アクチュアリー』(03)、『ノッティングヒルの恋人』(99)、ほか
製作:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、マット・ウィルキンソン、バーニー・ベルロー、リチャード・カーティス、ダニー・ボイル/製作総指揮:ニック・エンジェル、リー・ブレイザー
出演:ヒメーシュ・パテル(「イーストエンダーズ」)、リリー・ジェームズ(『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』)、ケイト・マッキノン(『ゴーストバスターズ』)、エド・シーラン(本人役)

配給宣伝:東宝東和

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