【めがねと映画と舞台と】第3回 映画『スタンド・バイ・ミー』
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映画『スタンド・バイ・ミー』
気づけばもう3回目を数える本コラム。今回取り上げる作品は、青春映画の金字塔『スタンド・バイ・ミー』(1986年)です。本作のめがねが象徴するのは「虚勢」。
『スタンド・バイ・ミー』は、『キャリー』や『ミザリー』など数々のホラー小説を生み出してきた小説家スティーヴン・キングの短編小説『THE BODY』を原作とした作品です。とはいえ、本作はホラーではありません。12歳の少年4人組が死体探しの冒険に出かけるというストーリーで、子ども時代の終わりを迎えつつある少年たちの、ホロ苦く輝く2日間を瑞々しく描いた作品です。
主人公は、将来小説家となるゴーディ。内向的な性格で、大好きだった優秀な兄を事故で亡くしたことに加え、それ以来さらに自分に冷たく当たる父親に傷ついています。そんなゴーディの親友であるクリスは、たぐいまれな賢さと包容力を持つ人物。ですが、アル中の父とチンピラの兄を持ち、恵まれない家庭環境にある自分の将来を悲観しています。3人目の少年はテディ。ノルマンディ上陸作戦で活躍したという父親に強く憧れていますが、父親は精神を病んでいる状態で、父親から虐待を受けた過去も持っています。最後の少年はぽっちゃり体型のバーン。スローペースな性格もあいまってバカにされがちな性格ですが、憎めない少年です。バーンは、不良グループの兄が友人と森の中の死体の話をしているのを聞きつけ、他の3人を死体探しへと駆り立てます。
4人は、たった2日間の冒険をする中で、いろいろな経験をします。激しい喧嘩をしたり、列車にひかれそうになったり。そして、それぞれが胸に抱えた痛みをさらけ出し、最後にはクリスの兄率いる不良グループに打ち勝ち、自信を手に入れ、子ども時代と決別するのです。
4人の中でめがねをかけているのは、テディです。テディは、4人のうちで最も頭に血がのぼりやすく、好戦的な性格。狂犬のような一面を持っています。そんなテディのトレードマークは、「黒縁のめがね」。ややオーバーサイズ気味なめがねの存在感は相当なものですが、本編中では、テディがめがねを外すシーンが2回だけ登場します。1回は森の沼を通った際、全身をヒルに噛まれたとき。これはシーン上外さざるをえない箇所なのですが、もう1回はかなり象徴的なシーンになっています。テディは、冒険の途中で出会った大人から、父親をネタに挑発され侮辱されます。それまでどこか斜に構え、常にからかうような態度を崩さなかったテディが、感情を爆発させる激しい場面。その場から引き剥がされたあとも、「父さんの悪口を言いやがって!」と子どものように泣きじゃくるテディの顔に、めがねはありません。
世界で1番愛している父親からひどい虐待を受けたテディは、4人の中で唯一心だけではなく、身体まで傷ついているキャラクターです。そして、その傷が癒えることはありません。彼には、虐待を受けた耳と視力のために入隊が叶わず、挫折するという未来が待っているのです。今にも壊れてしまいそうな脆さと繊細さを胸に秘め、本当は子犬のようにおびえているテディは、精一杯虚勢を張って生きています。そのことがわかるのが、この「テディがめがねを外して泣きじゃくる」シーンなのです。
テディのめがねは、彼が身にまとっている鎧です。視力を矯正するのと同じように、彼の恐怖心や脆さを矯正し、虚勢を張るためのエネルギーを与えてくれるアイテム。かつての名子役であるコリー・フェルドマンは、めがねをかけているときのテディの精一杯の虚勢と、めがねを外して我を忘れるときの脆さを鮮やかに表現しています。
主人公ゴーディとクリスとの友情や、少年たちの成長が『スタンド・バイ・ミー』の大きなテーマであることはもちろんですが、故リヴァー・フェニックス演じるクリスのまぶしいほどの正しさ・強さと、テディのどこまでも暗い悲しさ・脆さが見事なコントラストとなっているのも、本作のみどころのひとつ。テディのめがねに注目して、もう1度この往年の名作を鑑賞してみませんか?
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発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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