【めがねと映画と舞台と】 第4回 『ロッキー・ホラー・ショー』
こんにちは! 第4回目となる今回は、カルト・ミュージカルの代名詞である『ロッキー・ホラー・ショー』を取りあげたいと思います。
『ロッキー・ホラー・ショー』は、1973年にイギリスで誕生したミュージカルです。イギリス・アメリカ公演を経て1975年には映画化が実現。あまりにも特殊な内容に公開当初はまったくヒットしなかったそうですが、約1年後に深夜上映がはじまると状況が一変! 一部の熱狂的なファンがリピーターとなり、まるでイベントかパーティのように映画を楽しむようになったのです。コスプレしたり、一緒に踊ったり、お約束のジェスチャーや小道具で盛りあがったりと、観客参加型の映画として愛されるようになった『ロッキー・ホラー・ショー』はカルト映画と呼ばれ、今なお世界中のマニアたちを楽しませています。
『ロッキー・ホラー・ショー』は、B級コメディ映画やSF映画のパロディ、際どいセクシャルジョークなどが散りばめられた、官能的かつ退廃的な倒錯した世界観を持つミュージカルです。内容は、はっきりいって支離滅裂。物語は、ブラッドとジャネットというウブなカップルが婚約し、恩師であるスコット博士に報告しに行くところからスタートします。途中で雨に降られ、電話を借りるために近くの城を訪れた二人は、そこでバイセクシャルで女装愛好家のマッドサイエンティスト、フランク・フルター博士と出会い、人造人間ロッキーのお披露目パーティに巻き込まれ……というストーリー。セックス描写や殺人描写をはじめ、斜め上をいく超展開のオンパレード。ツッコミどころ満載のストーリーも含めて、丸ごと楽しむのが正解です。
『ロッキー・ホラー・ショー』のキャラクターのうち、めがねをかけているのはカップルの片割れであるブラッドです。真面目を絵にかいたような堅物で、口先だけで頼りにならないため、マニアの間では愛されつつも、「嫌なヤツ」(a**hole)と呼ばれます。ブラッドのめがねは、お固く保守的な彼のパーソナリティを象徴するアイテム。ブラッドの中にある「本来の自分」を覆い隠しているものであり、「心の壁」と言い換えてもいいでしょう。
ブラッドは、『ロッキー・ホラー・ショー』の中で最も変化の大きいキャラクターです。真面目で形式的な生き方をしてきたブラッドは、フランク・フルタ―博士に出会いメチャクチャな経験をすることで、自身の欲望と本能に目覚めます。舞台で上演されるときは最初から最後までめがねをかけていることが多いブラッドですが、映画版ではブラッドが本能に目覚めるクライマックス以降、完全にめがねを外した状態となります。
クライマックスに至る詳しい経緯は割愛しますが(ハチャメチャです)、ハイヒールに網タイツというボンテージルックに身を包み、皆と踊り狂うブラッドの顔には、めがねがありません。序盤や中盤でも、怒る瞬間やセックスのあとなどでは(ごく短時間ではありますが)めがねを外しているので、ブラッドが心の内側を表しているシーンでは意図的にめがねを取るようにしているフシが見られます。いわゆるステレオタイプの「めがねくん」といった雰囲気を持つブラッドが、一体どのように変化していくのか。めがねの着脱に少し注目してみると、新たな発見があるかもしれません。
『ロッキー・ホラー・ショー』は、良くも悪くも強烈なミュージカルです。気にいる人はとことん気に入り、受け付けない人は面白さが全く理解できない。こんな風に、観る人によって極端に反応が分かれる作品です。しかし、この作品が唯一無二の圧倒的な個性を持つミュージカルであるという点は、誰しも異論はないでしょう。現在でも映画版は度々スクリーンで上映されますし、2017年11月からは、Zeppブルーシアター六本木他にて日本語版の舞台上演が予定されています。この機会に、『ロッキー・ホラー・ショー』のディープな世界に参加してみてはいかがでしょうか?
映画『ロッキー・ホラー・ショー』
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テレビ局で営業・イベントプロデューサーとして勤務した後、退社し関西に移住。一児を育てながら、映画・演劇のレビューを中心にライター活動を開始。ライター名「umisodachi」としてoriver.cinemaなどで執筆中。サングラスが大好き。