【めがねと映画と舞台と】第37回『ロケットマン』

「ああ、ミュージカルが大好きだ―!!!」

「ロケットマン」を観終わった後、私はこう叫びたいのを我慢しました。ここ数年の間、たくさんのミュージカル映画や音楽映画が作られましたが、ここまで王道かつ自分好みのミュージカル映画は他にありませんでした。煌びやかで、ファンタジックで、繊細で、哀しくて、どこまでも内省的なミュージカル。それが「ロケットマン」です。

©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

「ロケットマン」は、エルトン・ジョンの半生を描いた作品です。エルトン・ジョン本人が製作総指揮を務め、かなりパーソナルな部分に踏み込んだ内容になっています。アルコール依存症の自助グループに参加したエルトンが、子供のころから現在までの人生を振り返るという構成になっているので、いわば映画全体が彼の脳内世界だといえます。

不仲な両親の元に生まれたエルトンがどのように育ち、何を求め、どうやって音楽と出会ったのか。音楽活動をする過程で同性愛を自覚したエルトンが、レコード会社から与えられたチャンスの中でバーニーという友と出会い、何を感じたのか。アメリカで人気が爆発し、あれよあれよという間にスターダムを駆け上がったエルトンを蝕んだ苦しみとは何なのか。彼の人生の過程を、エルトン・ジョンの名曲の数々を織り交ぜながら、幻想的に描いていきます。

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ストーリーが動くきっかけや、エルトンの心情に変化が生まれる場面では必ず歌が流れますし、歌唱者もエルトンとは限りません。登場するナンバーの数も非常に多く、このまま舞台に持っていっても成立するレベルだと思います。「ロケットマン」は、かなりしっかりとしたミュージカル映画として作られています。きっと、舞台化も視野に入れているのでしょう。

全体を貫いている想いは“I Want Love”。華やかな衣裳、キャッチーな楽曲、リッチでゴージャスなセットなどとは裏腹に、愛を求めて傷つき続けるエルトンの姿は悲痛です。酒に溺れ、ドラッグに溺れ、遂にはオーバードーズの2日後にステージに立つほどに追い詰められた悪夢の日々。予告編にあった派手なシーンの裏側に隠されていた辛すぎる心情に、私は何度も胸を締め付けられました。そしていつしか、自分とは似ても似つかないスーパースターの気持ちに、深く共感していったのです。

タロン・エジャトン演じるエルトン・ジョンは、本人同様に常にめがねを着けています。「ロケットマン」に登場するめがねの総数は一体いくつになるでしょうか? シンプルなめがねから、スパンコールでギラギラのめがね、ド派手なサングラス、一風変わったデザインのめがねなど、数えきれないほどのめがねが出てきます。エルトンが身に着けるめがねに注目して観ても、きっと色々な発見があるに違いありません。

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そんなエルトンも、本編中では何度かめがねを外します。基本的に彼がめがねを外すのは、本来の自分に戻るとき。初めて恋人と身体を重ねるとき、ステージに上がる前に鏡を見るとき……特に、何度か登場する鏡ごしに自分自身と向き合うシーンは印象的です。

「ロケットマン」のエルトン・ジョンは、いわゆる“信頼できない語り手”です。すべての出来事は彼の主観で描かれていくので、現実と妄想の境目も曖昧になりますし、彼自身が客観視できずに混乱している状態も、そのままスクリーンに映し出されていきます。いつしか彼は、鏡越しの自分に対してさえ、正直になれなくなっていました。

現在のエルトン・ジョンは、愛するパートナーと2人の子供に恵まれ、幸せに暮らしています。彼がどうやって自分自身を、自分の人生を取り戻したのか。それは「ロケットマン」を観ればわかります。“I Want Love”と心の中で叫び続けたエルトン・ジョンの、誰にも似ていないのに、誰もが共感せずにはいられない人生をファンタジックに炙り出す「ロケットマン」。きっと後年にその名を残すであろう傑作ミュージカル映画の誕生です。

映画『ロケットマン』

©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
全国公開中!


監督:デクスター・フレッチャー『ボヘミアン・ラプソディ』 製作総指揮、監督(ノン・クレジット)
脚本:リー・ホール『リトル・ダンサー』
製作:マシュー・ヴォーン『キングスマン』シリーズ、エルトン・ジョン
キャスト:タロン・エガ-トン『キングスマン』シリーズ、ジェイミー・ベル『リトル・ダンサー』、ブライス・ダラス・ハワード『ジュラシック・ワールド』
リチャード・マッデン『シンデレラ』『ゲーム・オブ・スローンズ』

全米公開:2019年5月31日 原題:ROCKETMAN PG12 配給:東和ピクチャーズ

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