【めがねと映画と舞台と】第22回『さよなら、僕のマンハッタン』

先日、旅行でNYへ行ってきました。
NYの街にはもう4~5回は滞在していますが、何度行っても飽きません。世界中から人々が集まって進化し続けているスピード感と、変わらないものを大切にしているニューヨーカーのアイデンティティ。凄まじいエネルギーが渦巻くNYの街には、いつも新しい発見があります。

そんなNYは、数多くの名作映画の舞台になってきました。『ティファニーで朝食を』、『ウェスト・サイド物語』、『恋人たちの予感』、『タクシードライバー』……ありとあらゆるタイプの映画がNYの街並みと共に思い浮かびます。

そして、また新たな傑作がNY映画の1本に加わりました。それが、『さよなら、僕のマンハッタン』です。

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主人公は、大学を卒業したばかりの青年トーマス。アッパー・ウエストサイドに暮らす裕福な両親の元を離れ、ロウワー・イーストサイドでひとり暮らしをしています。

本屋で知り合った女子大生にアプロ―チしているものの、バンドマンの彼氏と遠距離恋愛中の彼女の反応はイマイチ。モヤモヤしていると、アパートの1階でW.F.と名乗る風変わりな中年男に話しかけられ、悩みを相談するうちに親しくなります。

そんなある日、トーマスは父親が見知らぬ美女と密会しているのを目撃し、激しく動揺します。身勝手な父親に対して憤りつつ、W.F.の助言を受けて浮気相手に近づくトーマスでしたが……。

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マンハッタンで生まれ育った世間知らずの若者が、父親の浮気をきっかけに大きく人生を動かしていく。よくあるセンチメンタルな成長物語かと思いきや、物語は意外な方向に着地していきます。

観客は、トーマスの視点を通して全てを目撃していくわけですが、彼はいわゆる”めがね男子”。少し懐かしさを感じる文科系インテリファッションに、少し大ぶりのめがね。素朴な雰囲気の中にも都会育ちらしい余裕を感じさせる、ちょっと素敵な青年です。

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そして、彼はとても幼いのです。
皮肉な目で世間を眺め、何もかも分かった気でいますが、自分探しを続けていられるのも彼が”ボンボン”だからなわけで、いうなれば甘ちゃんです。しかし、父親の愛人が出現したことで、彼は悩み、新しい感情を知り、深く傷つき、自分の幼さをこれでもかと自覚させられます。

そして、いかに自分が世界の一部しか見ていなかったのかを思い知るのです。

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常にめがねをかけて、知った風な口ばかり利いていたトーマスですが、段々とめがねを外すシーンが増えていきます。

父親の愛人と密会するとき、父親にあることを突き付けるとき、大切な話をするためにW.F.に会うとき。心の鎧を脱ぎ捨てて、本心から誰かとぶつかるとき、必ずめがねを外しているトーマス。めがねを外している時間が増えれば増えるほど、彼は人間的に成長していきます。

道を拓くためには、ありのままの気持ちで飛び込んでいかなければいけない。大切な人たちとの関わりの中でそう悟ったトーマスは、ようやく自分が本当にやりたいことにも向き合えるようになります。

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何も見えていなかった彼が知った世界については、ネタバレになるので触れませんが、私は本作を現代の寓話だと感じました。若者特有の視野の狭さと、色々な形の愛についての寓話です。

NYの今の風景を切り取りながら、普遍的なテーマを綴る現代の寓話『さよなら、僕のマンハッタン』は、人生のベストになりうる傑作。若い方も、かつて若者だった方も、きっと楽しんでいただけるに違いありません。

映画『さよなら、僕のマンハッタン』

提供:バップ、ロングライド
配給:ロングライド
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『さよなら、僕のマンハッタン』公式サイト