あなたの変化に、そっと寄りそう

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【めがねと映画と舞台と】第35回『WE ARE LITTLE ZOMBIES』

【めがねと映画と舞台と】第35回『WE ARE LITTLE ZOMBIES』

| 八巻綾(umisodachi)
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少年少女が冒険をする映画というと、何を思い浮かべますか?『スタンド・バイ・ミー』?『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』? 『E.T.』? 青春ホラー『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』(注:R15指定)の再映画化作品がヒットしたのも記憶に新しいところです。

こういったタイプの映画は、思春期の子供たちに大きな影響を与えるものです。子供の頃から映画を観てきた人であれば、心に残っているこの種の作品がひとつはあるのではないでしょうか?(ちなみに、私の場合は『グーニーズ』です)

2019年、日本映画の歴史に新たな少年少女冒険映画の傑作が生まれました。タイトルは『WE ARE LITTLE ZOMBIES』。斬新な映像表現が光る、とても個性的な作品です。

13歳のヒカリは、ある日突然両親をバス事故で失いました。何も感じず、涙も出てこないまま葬儀の日を迎えたヒカリが火葬場で出会ったのは、同じように両親を亡くした同じ年の少年少女3人(イシ・タケムラ・イクコ)。
それぞれの家を巡り、お互いの環境や親の死因を共有していった彼らは、流れ着いたゴミ捨て場でバンド「LITTLE ZOMBIES」を結成。ワンショットでスマホ撮影した動画が話題となり、4人はあれよあれよという間に時代の寵児となりますが……。

【めがねと映画と舞台と】第35回『WE ARE LITTLE ZOMBIES』
©2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS

親が死んでも感情が動かない彼らは、自分たちのことをゾンビと呼び、不自然なほど淡々と会話を重ねていきます。
ヒカリの両親は多忙で、夫婦関係も破綻しかかっていました。1人息子への関心も薄く、学校でもいじめられていたヒカリは基本的に1人でポータブルゲームばかりする日々。両親がいなくなっても、葬儀の日までは表面上生活に変化はありませんでした。
それぞれ状況は違えど、他の3人も幸せに満ちた家庭で育ったとは言い難いのは同じ。彼らは、端から人生に希望など持っていなかったのです。

【めがねと映画と舞台と】第35回『WE ARE LITTLE ZOMBIES』
©2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS

ファミコン時代のRPGゲームのテイストで進められていく4人の冒険。暗くて悲しいエピソードは低ビットのドット絵と電子音で彩られ、どこか遠い国のおとぎ話のようにも感じられます。
その一方で、とても豪華な大人のキャストたちや、一流クリエイターによる美術や衣裳など、きらびやかな要素が次から次へと登場。子どもたちの無に近いテンションと、周囲の異様なハイテンションとのコントラストが、今まで感じたことがないインパクトを与えます。

感情をなくしてしまった4人ですが、全く感情を持たない人間などいません。語り合い、自分たちの言葉を曲として披露し、大人たちに振り回されることによって、彼らはゾンビの世界から生者の世界へと少しずつ歩みを進めていきます。

本作の主人公であるヒカリのめがねは、彼の心の奥底に感情が眠っていることを象徴的に表すアイテムです。両親の死後、塾講師にめがねのテンプルを壊されてしまっても、ヒカリはテープで補修してずっと使い続けます。バンドが売れて衣裳がどんどん豪華になっても、めがねだけは変えません。
そして、タケムラとイクコにレーシック手術を勧められたヒカリは、手術を受けるつもりはないと答えます。なぜなら、両親が自分に与えてくれたゲームによって近視になった自分の目は、両親との繋がりを感じさせてくれるものだから。感情を自覚できないことと、感情を持っていないことはイコールではないのです。

【めがねと映画と舞台と】第35回『WE ARE LITTLE ZOMBIES』
©2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS

「生きてるくせに、死んでんじゃねえよ。」

これが、『WE ARE LITTLE ZOMBIES』のキャッチコピーです。本作を手がけたのは、大手広告会社でCMプランナーとして活躍する長久允監督。いわゆる派手な商業映画を除けば、少ない言葉を使って個人的な出来事を情緒的に描く邦画が多い中で、正反対ともいえる作品を作り上げました。
あらんかぎりの言葉と、あらゆる要素を詰め込んで紡いだ世界の根底にあるのは、子どもへの信頼と絶対的な生の肯定です。私は本作を、かつて子どもだった大人から、今この時代を生きている子どもたちへ向けたプレゼントだと思いました。

友だちがほとんどいなかった小学生の私が本作を観たら、きっとその後の人生を左右するほどの影響を受けただろうと思います。
当時、私は何かツラいことがあると「明日の自分」を想像して耐えていました。苦しい「今」が既に「過去」になった未来を思い浮かべるのです。そうすれば、今感じている苦痛と少しだけ距離を取れるから。妙に突き放した目線で自分たちを見つめるヒカリたちは、かつての私と同じでした。

本作は、子供の気持ちを理解しているとおごっているわけでも、教訓を与えようと上から目線になっているわけでもなく、完全にフラットな視線で主人公たちを見つめています。
「これは自分の映画だ」と思う子どもたち(と、かつての子どもたち)が、きっと日本中…いや世界中に大勢いるはず。ひとりでも多くの人に、この映画が届くことを切に願います。

【めがねと映画と舞台と】第35回『WE ARE LITTLE ZOMBIES』
©2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS

映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』

【めがねと映画と舞台と】第35回『WE ARE LITTLE ZOMBIES』
©2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS
全国公開中!


監督・脚本:長久允
出演:二宮慶多、水野哲志、奥村門土、中島セナ

配給:日活

『WE ARE LITTLE ZOMBIES』公式サイト