第10回『グリース』【めがねと映画と舞台と】
映画好きならば、小さい頃や若い頃に繰り返し観た、自分にとっての特別な映画というものがあると思います。
私にとってそれは『グーニーズ』(1985年)だったり、『いまを生きる』(1989年)だったりするのですが、もう少し早く生まれていたら、きっと『グリース』(1978年)が特別な1本になっていたのではないかと、ときどき想像します。この作品を初めて観たのが青春時代を過ぎてからだったということを、とても残念に思うのです。
今回は、そんな学園ミュージカル映画『グリース』をご紹介します。
『グリース』は、1971年に初演されたロックミュージカルの映画化作品です。
『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年)で一気にスターとなったジョン・トラボルタと、歌手として人気急上昇中だったオリビア・ニュートン=ジョンが主演をつとめ大ヒット。サウンドトラックもチャートの1位を獲得するなど、大成功を収めました。
ストーリーは、明るく楽しい学園コメディ。夏休みの避暑地で知り合い、淡い恋をした高校生のダニーとサンディが主人公です。サンディは清く正しいお嬢様。一方、避暑地では好青年だったダニーは、実は不良グループのリーダーでした。
サンディが父親の転勤をきっかけにダニーがいる高校に転校したことで、2人は最悪の再会を果たします。
不良仲間の手前、真面目ちゃんのイメージしかないサンディに冷たくするダニー。しかし、本当は気になって仕方がありません。かたやサンディは、不良の女子グループに小馬鹿にされたり、ダニーに冷たくされたりと、転校当初は散々な目にあって傷つきましたが、次第に不良女子たちとの間に友情を育み、ダニーとの距離も近づいていきます。
明るく元気なロックナンバーと、印象的なダンス。70年代テイスト満載のファッション。そして、リーゼントに革ジャンという典型的な不良ルック。
ダニーとサンディが繰り広げるプラトニックな恋を中心にしつつも、予期せぬ妊娠疑惑に悩む不良少女のリーダーや、進路に悩む同級生など、それとなくディープなテーマも盛り込んだ『グリース』。
「相手のことを思いやる」「相手のために自分を変える勇気を持つ」といった直球のテーマを、キャンディボックスのようなにぎわいの中にそっと潜ませつつ、ティーンエイジャーが子供の世界から旅立つ瞬間を鮮やかに切り取った、ポジティブでキラキラした傑作ミュージカルです。
そんな『グリース』では、とても分かりやすくめがねが登場します。いわゆるガリ勉タイプは度の強そうなめがねを、不良はサングラスを。
特に、まだあどけなさが残る高校生がツッパってサングラスをかけている姿は、すっかり大人になっている私の目にはかわいらしくうつります。サングラスだけではありません。ジョン・トラボルタ演じるダニーの自意識過剰でユニークな歩き方も、不良たちのタバコも、他校のグループとの小競り合いも、今の私にとっては微笑ましさや幼さを強く感じる要素です。
しかし、もしティーンエイジャーの時代に『グリース』を映画館で観ていたら、きっと私は背伸びする彼らの一挙手一投足に共感し、ダニーやサンディの仲間になりたいと妄想しただろうと思います。
もちろん、不朽の名作はいつ観ても名作です。
ただ、自分と同じ時代に公開され、自分と同じ世代が描かれている作品に親密さを感じるのもまた、確かではないでしょうか? 『グリース』を観るたびに、この作品にこそ、そんな親密さを感じたかったと思わずにはいられません。
サングラスをかけて周囲を牽制する不良少女たちの登場シーンに思わず微笑みながら、10代の自分の目に彼女たちがどう映ったのかを想像せずにはいられないのです。
『グリース』が放つ青春の輝きは、私が青春時代を過ごした少し前の時代のもの。
できれば、あと20年早く生まれたかった。全員で歌い踊る最高にハッピーなラストナンバー「We Go Together」を仲間と一緒に踊りたかった。
『グリース』には、私が理想とする”青春”のすべてが詰まっています。
映画『グリース』
【Blu-ray】¥2,381+税
【DVD】¥1,429+税
【発売元】NBCユニバーサル・エンターテイメント