【伊藤美玲のめがねコラム】第44回「リアルなラグジュアリー」
先日、9月25日に開業した日本橋髙島屋S.C.の内覧会へ行ってきました。ここの5階に恵比寿の人気アイウェアショップ「コンティニュエ」が入るとのことで、オープンに先駆けお店を見せていただいたというわけです。
重厚感のあるウッドの什器でまとめられた店内は、オーセンティックでいて洗練された雰囲気。しっとりと上品な空気が流れていて、日本橋という街に相応しい大人がゆっくりと買い物を楽しめそうな空間となっていました。
そんななかでひと際存在感を放っていたのが、以前このコラムでも紹介したGERNOT LINDNERやMr.Leight、そして10eyevanといった、上品で質感の高いクラシックデザインを打ち出しているブランドです。
いや、存在感を放っているように見えたのは、私が今こうした“エレガントなデザインや巧みな作りで魅せるブランド”に個人的に惹かれているからかもしれません。
これらのブランドをはじめ、ここ数年フレームだけで5万円をゆうに超えるちょっと贅沢なモデルを打ち出すブランドが増えてきたように思います。しかも、誰もが知るメゾンブランドではなく、めがね専業のブランドでそうしたところが出てきているのが大きな特徴だと言えるでしょう。
上質な素材を使っていたり、圧倒的に手間暇のかかる工程を経ていたり、凝りに凝ったオリジナルの技巧が採用されていたり……。これらのブランドは、その価格を払うだけの価値を感じさせる佇まいの美しさ、作り手の美意識が宿ったオーラのようなものを湛えています。
40代に突入し、今より少しだけ背伸びをして“いいもの”を身に着けたいと思うようになった私にとって、こうしたブランドはとてもリアルに感じられるラグジュアリーな存在なのです。
じつは今まで、こうしたブランドって少なかったように思います。セレクトショップで扱われているめがねブランドだと3~5万円ぐらいの価格が中心で、それより高いものとなると、ウッドやレザーなど少し素材に特徴があるものに。さらにその上となるとバファローホーンやべっ甲、金などの高級素材を使ったものなど、もはや工芸品の域となり、価格も50~100万円ぐらいに跳ね上がってしまう。近頃は高級素材を使っためがねにも洗練されたデザインのものが増えてきたけれど、自分にとってはまだリアリティがなかったんですね。
先にあげたブランドたちは、“ちょっと背伸びした感じ”というのがポイントです。
つい先日、春に注文していたGERNOT LINDNERのスターリングシルバー製のフレームも届きまして。その佇まいの美しさもさることながら、かけるときに程よい緊張感があるのがとても心地がいいんです。たとえるなら普段よりちょっと上質な靴を履いて気持ちがピリっと引き締まる感じというか。加えて、お気に入りのアクセサリーを身に着けているときのような高揚感も得られます。
何でも高ければいいってものではないし、自分にとって何が“背伸び”かは、年齢や収入、その人の価値観などによっても変わってくるでしょう。でも今の自分よりちょっと背伸びをした“いいもの”を身に着けることは、とても刺激になるし「これを身に着けるのに相応しい大人にならなくちゃ」と気持ちが引き締まる。そう、自分を引き上げてくれる感じがするのです。
とはいえ、めがねの力に頼ってばかりでは情けないというもの。こうした“いいもの”が自然にフィットするよう、内面・外見ともにつねに自分を磨いていかなくてはと思うのであります。