【伊藤美玲のめがねコラム】第93回「サングラスを気軽にかけられる世の中に」
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夏といえば、サングラスの話題が多くなる季節。私もこれまでサングラスの記事をたくさん書いてきました。それは、サングラスの機能について理解してもらい、少しでも多くの人に偏見をなくしてほしいと思っているからです。
サングラスはお洒落のためだけにあらず
最近は、私が書くまでもなくサングラスを推奨する記事も増えてきました。とくにそこで語られるのは、紫外線が目に与える影響についてです。
ここでも簡単に触れておくと、長時間にわたり過度な紫外線にさらされると、急性もしくは慢性の紫外線障害が生じることがあります。たとえば、急性のものとして挙げられるのが角膜(黒目)の日焼けである「紫外線角膜炎」。晴れた日にスキーをしたあと、目の痛みや充血などがおこる「雪目」と言われるものもこのひとつです。
また、紫外線を慢性的に浴びることで引き起こされる病気もあり、これらについては子どもの頃から浴びてきた紫外線の蓄積量が相関してきます。さらに最近では“目から入る紫外線が日焼けの原因になる”という話もよく聞かれるようになりましたが、こうしたリスクを回避するために、サングラスはとても有効な“道具”となります。
実は別物「眩しさ」と「紫外線」
サングラスを語る際よく混同されがちなのですが、眩しさの原因は紫外線ではありません。紫外線は目に見えない波長の光。眩しさの原因となるのは、可視光線(目に見える光)です。よく「日本人は瞳の色が濃いため、眩しさに強い」と言われますが、それは紫外線に強いわけではないということ。たとえ眩しさを感じていなくても、目が剥き出しのままでは紫外線のダメージは蓄積されてしまいます。
もし、眩しさは問題ないので紫外線だけ防ぎたいという人は、紫外線カット効果のあるクリアレンズでもOK。最近では、「クリアサングラス」という名で紫外線カット効果のあるクリアレンズを入れた伊達めがねも販売されていたりするので、こうしたものならサングラスよりもシーンを問わずに使うことができます。また、眼鏡店で作った度付きのめがねであれば、ほぼすべてUVカットされていると言っていいでしょう。
サングラスを積極的に活用しよう
紫外線だけでなく、眩しさからも目を守りたい。そうなると、サングラスの出番です。とはいえ、まだまだ日本においてはサングラスを掛けていると「カッコつけている」「気取って見える」「見た目が怖い」などと言われてしまうことも少なくありません。そもそも「カッコつけたっていいじゃないか」と思ったりもするわけですが、サングラスへの偏見をなくすためには、道具としても有用であることをもっと周知する必要があるのではないかと。
その一つの例として、先日、広島電鉄の運転士が「保護めがね(サングラス)」を着用しての運転を実験中だという記事が出ていました。
広島電鉄、運転士の「保護メガネ着用」実験中 「乗客がマイナスイメージ抱く」懸念も…「かっこいい」「使うべき」
記事によれば、広島電鉄が保護めがねの導入を検討する目的は、運転士が運転中に感じる眩しさや目の疲労の低減。実験に参加した担当の運転士からは、「視界が良好になった」など好意的な意見が上がっているといいます。実際に、JR西日本でも「運転操作時における視認性の向上や疲労軽減によるさらなる安全の向上を図るため」という理由から、2020年3月には同社内全エリアの在来運転士、および21年3月からは新幹線運転士のうち希望者にはサングラスへの貸与を始めているとのこと。
こうなると、もはやサングラスは運転に欠かせない道具の一つだといってもいいでしょう。そのほかスポーツにおいても、掛けることでパフォーマンスが上がったり、目の保護にもつながるという話も耳にします。それなのに「チャラチャラ見える」などという理由で、掛けにくい風潮を作ってしまうなんて……。むしろ、積極的に活用すべきだと私は思います。
サングラスが生活に欠かせない人も
なかには、目の疾患などによる羞明(まぶしく感じること)で、サングラスが欠かせないという人もいます。そうした方たちにとってサングラスは、なくてはならない道具です。
ちなみに羞明とは違うのですが、私は2年前から慢性的な耳鳴りと頭鳴(頭のなかで不快な音が響く症状)を抱えていて、これがひどいときには真っ暗な部屋に籠りたくなるほど光の刺激がつらく感じるようになってしまいました。そのため、普段はカラーレンズの度付きめがねを常用しています。
私の場合、サングラスがないと見えづらいとか、生活に支障があるというほどマストではないのですが、“眩しさによる疲れを軽減したい”、‟頭痛を予防したい”、‟頭痛・頭鳴のときはあったほうがラク”という感じです。
とくにLED照明などの眩しさが苦手なので、室内でも薄色のサングラスが必須。今や紫外線対策としてのサングラスはその有用性が少しずつ周知され始めてきたけれど、室内で掛けている姿はやはりカッコつけているように見られてしまうのかもしれません。
実際、私自身シチュエーションによっては室内でサングラスを掛けることを躊躇してしまうことが無いわけではないんです(授業参観とかね)。“眼鏡ライター”という仕事をしている私でもそうなのですから、サングラスという選択肢を選べず、眩しさを我慢している人も少なくないのではないかと思います。あぁ、もっとサングラスを気軽に掛けられる世の中になってくれたら…。
サングラスもめがねも、私にとっては欠かすことのできない道具。だからこそ、それらに対する偏見を見聞きするたびにとても悲しくなります。そんな状況に対し自分ができることといったら、やはり「道具としてのサングラスの役割」をより多くの人に知ってもらうことなのではないか。今回のコラムも、そうした思いで書かせてもらった次第です。
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東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。