【伊藤美玲のめがねコラム】 第89回「その目の疲れ、本当にブルーライトだけが原因?」
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リモートワークが常態化した現在。パソコンやスマホを使う時間が増えて、目が疲れるようになったと感じている人も多いのでは? なかには、ブルーライトカット効果のある「PC用めがね」の購入を考えている人もいるかもしれません。でも、ちょっと待ってください。その疲れ、本当にブルーライトだけが原因でしょうか。
目の疲れの原因は、ブルーライトとは限らない
たしかに、パソコンやスマホなどの液晶画面からは、ブルーライトが発せられています。そのため、目が疲れたらまず「ブルーライトをカットしよう」と思うのが、現在の常識かもしれません。ですが、そうしたデジタルデバイスには、もうひとつの共通点があります。それは、使用時に近くを見続けているということです。
そう。そもそも近くを見続けること自体、目に負担がかかる作業なんです。というのも、近くを見るときはピント調節の筋肉である「毛様体筋」がつねに収縮している状態。近くにピントを合わせるために、筋肉はつねに頑張り続けてしまっているわけですね。
じつは、いわゆる「目が良い」とされる人ほど、このピント調節の筋肉を使って近くを見ています。そのため目が疲れやすいわけですが、遠くを見る視力検査では何も指摘は受けないため、近くの見えにくさや目の疲れを放ってしまいがちです。それに、めがねに度を入れる必要がないと思っているから、とりあえず既成のブルーライトカットめがねを買って対処しているという人も少なくないでしょう。
レンズの度数を決める上で大切なこと
一方、眼鏡店でめがねを作っている近視の人も「遠くまでよく見えるめがね」を使っている場合は要注意。遠くがよく見える度数はパソコンやスマホを見るときには必要がなく、そのめがねがむしろ目の疲れの原因になってしまうことも。というのも、レンズの度数を決めるときには、「遠くが見える」ことよりも、「自分が見たいもの」との距離を考慮することが大切だからです。
どうです? 思い当たる人いませんか? それに、疲れ目や見えづらさの原因は、眼病からきている可能性もあるかもしれません。とにかく、パソコン作業などで目の疲れを感じたら「ブルーライトのせい」などと自己判断をせず、まずは眼科に相談することをおすすめします。
では、ブルーライトはカットしなくていいの?
とはいえ、私はブルーライトをカットすること自体を否定するわけではありません。ブルーライトは波長が短く、可視光線のなかでもっとも紫外線に近いため、エネルギーが強いのが特徴です。目の奥の網膜まで到達し、眼病の原因となったり睡眠障害を引き起こす可能性があるとも言われています。さらに眩しさやチラつき、ボヤケの原因になることも。
そのため、眩しさの抑制やコントラスト向上のためにブルーライトカットレンズ(めがね)を使用するという選択は大いにアリでしょう。ただし、ひと言でブルーライトカットといっても種類によってカットする波長もカット率も異なりますし、レンズにカラーがついているものもあれば、ほぼクリアに近いものもあります。度付きの場合も度無しの場合も、一度眼鏡店で相談し、ご自身の使う環境や見えやすさなども含めて吟味して決めることをおすすめします。
「PC用めがね」の定義=「ブルーライトカット」+「〇〇」
ともあれ、「PC用めがね」という言葉が浸透したのは、それだけスマホやパソコンで目の疲れを感じている人が多いということの表れでしょう。一般的に「PC用めがね」の定義は、「ブルーライトがカットされていること」かもしれません。ですが、私としてはそこに「パソコンの距離に合わせた度数にすること」も、ぜひ加えてもらえたらと思っています。そうすれば、もっと快適にデジタルデバイスを使えるようになるはずです。
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。