【伊藤美玲のめがねコラム】第112回「自動でピントが合う…!? オートフォーカスアイウェア「ViXion01」を試してみた」
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近年続々と登場する、“めがね型”のウェアラブルデバイス。ただ、それらを目にするたびに、「これは“めがね型”ではあるけれど、“見る”ことに重きを置いたものではないよね」と、眼鏡ライターとしてはどこか他人事に思えてしまうことも少なくありませんでした。
ですが、今回紹介する「ViXion01」は、まさに“見る”ことに主眼を置いたアイテム。なんと、近くから遠くまでレンズが自動でピント調節を行なってくれる画期的なアイウェアなんです!
テクノロジーで、見え方の課題を解決
「ViXion01」を開発したViXion株式会社は2021年にHOYA株式会社からスピンアウトし独立したスタートアップ企業。過去には夜盲症の方向けの暗所視支援眼鏡「HOYA MW10 HiKARI」を開発するなど、“人生の選択肢の拡大に向けて、テクノロジーで見え方の能力拡張に挑む”ことをパーパスとして掲げています。
この「ViXion01」が従来のめがねと違うのは、見る距離に応じてレンズの厚みが自動的に、そして瞬時に変化し、スムーズにピントが合うという点。そう、レンズが水晶体のような役割をしてくれるため、遠くでも近くでも自分が見ているところにピントが合うというというわけです。実際に体験すると、そのスムーズな動作に誰もが驚かされるはず。まさに、百聞は一見にしかず。
ちなみに私は、右目S-8.00 C-2.00、左目S-6.00 C-2.00と、近視も乱視もやや強く、加えて老眼もあるのですが、この「ViXion01」を裸眼の状態で掛けても、建物の外の景色から手元の文庫本まで、ばっちり見ることができました。しかも、そのピント調節の動作がとても速くてスムーズ。自分用にあつらえたものでないのに、1本で遠くも近くも見えるという状況に一瞬頭が混乱したほど(笑)。
まだ、これを掛けて日常生活が送れるという製品にはなっていませんが、“自動でピントが合う”という技術にワクワクせずにはいられません。というわけで、もう少し詳しく紹介していくことにしましょう。
実際に家で使ってみました
こちらが、「ViXion01」のケースです。とてもスマートなデザインで、普通のめがねケースの大きさとほとんど変わりません。
フレームのデザインはnendoの佐藤オオキさんが手掛けており、重量は55gと軽量。装用感はフロントが大ぶりなプラスチックフレームに近く、無理なく掛けられる重さです。
掛けた姿は、やや近未来的な姿に。このデザインには、“普通のめがねのように常用するものではない”ことを示す意図もあるのだとか。眉間の部分にある楕円形の窓のような部分が、対象物との距離を測定するセンサーです。
フロントに、左右それぞれのレンズを搭載。レンズ径は技術上の制約もあり直径約6㎜と、かなり小さいことは否めません。そのため、視界は双眼鏡を覗いたような感じになります。
操作はシンプルで、まず右側の太いテンプルを開くと電源が入ります。次に鼻パッドと左側のテンプルを調整して掛け位置を合わせたら、次に2つのレンズをそれぞれスライドさせて自分のPD(瞳孔間距離)に合わせていきます。じつはこれ、慣れるまで結構難しいかもしれません(詳しくは後述)。
ベストなポジションが見つかったら、レンズの初期設定へ。まず右目のみで約2m以上離れた目標物を見ながら、視度調節ダイヤル(右テンプル下側の合口付近)を回して焦点を合わせます。次に左目の調整。左上部に付いたボタンを押すと右目の視界が隠れるので、ボタンを押しながら今度は左目で先ほどと同じ目標物を見て視度調節ダイヤルを回し、焦点を合わせます。これで設定は終了。あらゆるところにピントが合うようになります。こうした至ってシンプルな操作性も、大きな魅力でしょう。
現段階で乱視の補正はないのですが、レンズの小ささゆえのピンホール効果が発揮されているのか、-2.00Cの乱視がある私でもとくに見えづらさは感じませんでした。手元はかなり対象物を近づけてもピントが合います。これを掛けたことにより、「今まで自分は鮮明に見えていなかったのだな」と気が付く人も多いかもしれません。夜間に玄関の外に出てみましたが、街灯の光もシュっとシャープに見えました。
レンズが自動で形状を変え、近くも遠くも見える。そんな高度な機能が、これだけスマートなデザインと簡易な操作性に落とし込まれているとあり、現段階でも製品としての完成度の高さを感じました。レンズ径の課題を克服できれば、かなり汎用性の高いものになるのではないかと思います。
販売価格は9万9000円。この機能で10万円を切っていることに驚きます。専用アプリを使えば、3パターンの視度データが保存できるので、家族と共用することも可能です。
メーカーの方曰く、「ViXion01」はまだ開発途上の製品。ですが見ることに困りごとを感じている人にとっては、現段階でも問題を解決する可能性が高いと判断して、まずはリリースをしたとのこと。実際、喜びの声も多く集まっているそうです。
操作は簡単。ただし調整が難しい……?
とにかく私はこの新しい技術に感動しているのですが、最後に個人的に気になった点も記しておきます。
一番感じたのは、調整の難しさでした。というのも、遠くを見るときとうつむき気味に近くを見るときでは、レンズのベストポジションが異なります。そのため、遠くを見ながら設定したレンズ位置では、近くを見るときにレンズの枠が入り込んでしまうのです。
また、レンズ径が小さいので目とレンズの距離をなるべく近づけて広い視界を確保したくなってしまうのですが、それだとまつ毛が当たってしまいます。私は、レンズとの適正な距離を保ち、なおかつ目とレンズの高さが合う位置に鼻パッドを調整するのに、だいぶ時間を要してしまいました。これに関しては、私が不器用であることと、私の鼻梁が細いことが要因かもしれません。しばらく使ってみて感じたのですが、私のような近視の強い人間は、小さなレンズ越しの視界以外は日常生活もままならないほどボヤける状態になってしまいます。そのため、現段階ではある程度一定の距離の範囲で集中する作業に向くのかなと感じました。
たとえば、普段の生活では必ずしも眼鏡を必要としないけど、既成老眼鏡などで手元の見えづらさに対処している人にとっては、かなり便利に使えるのではないかと。これなら左右それぞれピントを合わせられますしね。度が進んでも、買い替える必要がないというのも魅力でしょう。
以上は私個人の感想ですが、現在すでにこの製品を購入した方の反応をX(旧Twitter)などで見ることができます。こうした様々なフィードバッグを次の開発に生かすことができるという点でも、現段階でリリースしたことに大きな意味があるのだなと感じました。
困っている人が、ひとつでも多くの選択肢を得られるようになるのは、とても素晴らしいことだと思います。次にリリースされるときには、どんな進化を遂げているのか。これからの動向が楽しみです。
ViXion
オフィシャルサイト:https://vixion.jp/
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。