【伊藤美玲のめがねコラム】第110回「めがねの価値を考える」

12月に入り、この1年を総括するような話題が増えてきましたね。というわけで、今回のトップ画像は私が今年購入しためがねにしてみました。思えば、今年はシックな色ばかり掛けていたなぁと。

さて、世間に目を向ければ、今年の漢字に選ばれたのは「税」でした。私は自営業者なので、今年は否が応にもインボイスで「税」を意識せざるを得なかったわけですが、「税」といえばもうひとつ。首相のあだ名に関連して、新聞や週刊誌などから首相のめがねについて聞かれる機会があったのも、私にとって今年を象徴する出来事でした。

10万円のめがねは高い?

「めがね」が揶揄の対象となったことについては、もちろん残念に思っています。ですが、もうひとつ気になったことがあります。それは、首相のめがねが10万円(レンズ込み)と週刊誌に書かれた際、それが“高い”という論調になっていたことです。

格安店でない限り、上質なフレームに遠近両用レンズを入れたら10万円近くになることもあるでしょう。実際のところ、首相が着用しているブランドの価格帯や購入店から推測すれば、実際はもう少し値が張っているはずで。もちろん私にとってもポンと出せる金額ではありませんが、「めがねはそこまでの金額を払って作るべきものではない」という感覚が浸透していることを、改めて思い知らされました。

一方で、めがねの展示会を取材しているなかでは、フレーム価格の高騰に加え、ラグジュアリー志向も相まって、フレームだけで10万近いものが増えてきている印象です。そうした現状のなかで、今年は「めがねの価値」について考える時間が多かったように思います。

そもそも、「めがねの価値」とは……?

現在は、既存のめがね雑誌のほか、大手めがねチェーンのオウンドメディア、セレクトショップのSNSなど、以前に比べたらめがねに関するたくさんの情報が簡単に手に入るようになりました。YouTubeでは新作紹介のほか、ひとつのブランドについて掘り下げるものや、実際にデザイナーさんの肉声が聞けるような番組もあります。正直、もう文字で伝える眼鏡ライターの出番は無いんじゃないかと思うほどです(苦笑)。

めがねの価値のひとつである“プロダクトとしての魅力”は以前より多くの人に広く伝わっているのは事実で。ファッション誌でのスタイリングにめがねが使われることがこの10年ほどで格段に増え、もうすっかりファッションアイテムの一つとして捉えられるようになりました。

一方で、圧倒的に情報が足りていないのがレンズでしょう。そう、めがねの価値としてまだまだ伝えられていないと思うのは、むしろ根源的な「快適に見える喜び」なのではないかと思うのです。

正直なところ、レンズの情報を伝えることには難しさを感じています。調光レンズや偏光レンズなど、機能がはっきりしているものは比較画像とともにその魅力を伝えることができますが、普通の単焦点レンズや遠近両用レンズに関しては、見た目はただの透明なレンズです。その機能を説明したくても、イラストや図説がメインとなってしまう。言葉も難しかったりで、注釈も多くなってしまう。これでは、なかなか“よりよく見える感動”が伝わらないでしょう。

また、私がレビューした製品の性能が、私にとって良かったとしても、必ずしもその記事を読んでくれた方にとって相応しいものとは限りません。それに、快適な視界を得るためにはレンズの性能だけでなく、測定や加工、調整といった要素も加わってくるわけで……。パっと見て「素敵!」と思えるフレームとは訳が違います。それゆえ、正直メディアでもあまり触れることができていませんでした。

そうしたなかで、レンズは0円というお店も出てきて、ますますレンズはオマケみたいな存在になってしまい……。

やっぱり、まだまだレンズについては伝えなければいけないことがたくさんあると感じています。だって、「めがねのレンズはガラスだから重いでしょ?」とか、「遠近両用ってレンズに小窓があるやつだよね?」と聞かれることもまだ少なくないのですから。それでめがねが敬遠されているのだとしたら、こんなにもったいないことはないわけで。

レンズの情報を届ける方法については私も考えていくつもりですが、やっぱり「見える!」という感動は、お店でこそ伝えられるものだと思っています。これまでぼんやりしていたものが、クリアかつ立体感を増して目に入ってくる喜び、カラーレンズでつらかった眩しさが和らぐようになって救われるような気持ち……、などなど。

お店で得られるそうした喜びがあってこそ、「めがねの価値」は向上するのだと私は考えます。そのお手伝いができるよう、2024年も眼鏡ライターとしてできることをしていきたい。と、来年の抱負を語りつつ今年最後のコラムを締めようと思います。読者の皆さま、今年もありがとうございました。