【伊藤美玲のめがねコラム】第109回「さよならBOZ -私の人生を変えためがね-」
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10月の展示会取材でのこと。アイウェアブランド「BOZ」のコレクションが発表されるのは、今季で最後であることを知らされました。
BOZはフランスのアイウェアブランド「J.F.Rey」のデザイナー、ジャン・フランソワ・レイ氏の夫人・ジョエル氏がデザインを手掛けるセカンドラインとしてスタート。繊細で美しく、それでいて遊び心のあるデザインが人気を博していました。じつはこのBOZ、私が眼鏡ライターになるきっかけを与えてくれたブランドでもあるのです。
めがねは人前でかけるものではない……?
もうこのコラムでは何度も書いていますが、私の両親はめがねを嫌う人でした。小学生にしてめがねが必要になった娘を不憫に思ったのでしょう。子どもの頃は、「写真を撮るときはめがねを外すように」と口酸っぱく言われたものでした。当時は、まだ小学校高学年でもクラスにめがねを掛けている子が1~2人しかいなかった時代。それでも私自身はめがねを掛けることは全然嫌ではなく、むしろ他の子とは違うという優越感みたいなものを感じていたし、視力が落ちたことも勉強を頑張った証のように思っていました。
でも一方で、「やっぱり、めがねを掛けていないほうがいいのかな」という思いも消えず……。高校生になるとコンタクトを使うようになり、大学生で一度めがねに戻るも、就職活動のときには周囲の空気に忖度し、コンタクトで面接なども受けていました。
「めがねを掛けていないほうが可愛いよ」と、良かれと思って言ってくれる人も少なくなかったけれど、私は全然嬉しくなかった。だって、めがねを掛けなきゃ何も見えないんだから。コンタクトは決してラクではなかったし、生きるために必要な道具をなんでそんなに否定されなければいけないのかと、ずっとモヤモヤしていたのです。
ポジティブなデザインとの出会い
社会人になると買い物の行動範囲も広がり、めがねのセレクトショップへ足を運ぶように。そして、その当時まだ同潤会アパートの1室にあった「リュネット・ジュラ」の扉を開き、私は運命の出会いを果たすのです。
そう。これが、“薔薇めがね”の異名をもつBOZの「FLEUR」です。ご覧の通り、左眉の部分に薔薇がかたどられていて、そこにはさりげないストーンのあしらいも。
私はこのフレームを目にした瞬間、目が釘付けになりました。
だってこのデザイン、“掛けないほうがいいもの”であるはずがない。こんなにも可愛いのだから。写真を撮るときに外す? いやいや、これはお洒落をするために作られているし、むしろ人に見せたくなるデザインじゃないか……!と。
「めがねって、素敵でしょ? 堂々と楽しんで掛けたらいいんだよ」
この「FLEUR」は、私にそう語りかけてくれているような気がしました。そしてその存在を前に、救われたような気持ちになったんです。
と同時に、めがねにこんなにもポジティブに捉えている素敵なブランドがあることを、もっと多くの人に知ってほしい。昔の私のような思いをしている人に、めがねの楽しさを伝えたい! そうも思うようになりました。このBOZとの出会いにより、眼鏡ライターになろうと思ったと言っても過言ではないのです。
BOZには、薔薇めがね以外にも見た瞬間笑顔になってしまうような可愛くてユニークな名作がたくさんあります。きっと、私と同世代の人は、当時のBOZのデザインに魅せられてめがね好きになったという人も少なくないはず。
ちなみに、ブランド終了の理由としては、メンズ・ウィメンズとコレクションを分けることが今の時代にそぐわないことから、J.F.Reyに一本化することになったのだと聞きました。だからきっと、BOZらしいデザインはJ.F.Reyのなかでこれからも残り続けるのだと思います(たしかに最近は、この2ブランドにはっきりとしたジェンダーの線引きもなくなっていたしね)。
ただ、ブランドの名前がなくなってしまうのはやっぱり寂しい。だからこうして、最後にBOZへの感謝を綴らせてもらいました。本当に、BOZのおかげで今の私があります。私を眼鏡ライターにしてくれてありがとう。
【画像提供】
J.F.REY BOUTIQUE TOKYO
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。