【伊藤美玲のめがねコラム】第108回「展示会取材の反省」
10月はめがねの展示会シーズン。とくに第2週目は毎年東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されるiOFTをメインに、都内各所で新作発表の展示会が行なわれていました。
今回私がこの1週間に回ったのは18か所。それ以外にも私が足を運べなかった会場も含めれば、30か所位は同時期に開催されていたのではないでしょうか。ちなみに会場数で数えていますが、なかにはiOFTのようにレンズや関連用品も含めた大規模のものや、たくさんのブランドが集まった合同展示会もありますからね。ブランド数でいったら、本当に数えきれないほど。全部回るなんていうのは、到底無理な話です。
それゆえ、展示会でチェックできるのは、新作が楽しみな既知のブランドと、「この機会にご挨拶をしておきたい!」と事前に狙いをつけたところだけ(それでも全部見きれていないけど)。でも、本当にそれでいいのだろうか……。そう、ここ数年、展示会ならではの思わぬ出会いみたいなものが減ってしまったように思うのです。
思わぬ出会いこそ展示会の醍醐味
私がめがねの取材をするようになった17年前は、今より多くのブランドがiOFTに出展していました。そのため、iOFTの期間中は3日間ほぼずっと会場にいたものです。とにかくずっと会場内をウロウロしていたので、それまでまったく聞いたことのなかったブランドに出会うことも多くありました。この頃はまだSNSも普及していなかったので事前情報もほとんどなく、海外の新ブランドは会場でその存在を初めて知ることがほとんど。取材をしてみたらものすごく素敵で、急遽撮影させてもらう、なんてことも少なくなかったなと。そう、展示会は新たな出会いの場としてしっかり機能していたわけです。
それが今では、会場が多くなって移動に時間が取られるようになり、事前に組んだスケジュールをこなすだけで精一杯に。最初のうちは、そのことを残念に思っていたけれど、いつしかそれが常態化したことで、日本の展示会シーズンにおける新たな出会いへの期待感みたいなものが、いつの間にか薄れてきてしまっていたことに気が付きました。
もちろん、人気ブランドの新作をチェックするのも大事な仕事だし、自分自身楽しみではあるけれど、これでは世界が広がっていかない。ましてや、現在は家庭の事情で海外の展示会へも行かれない状況ですから、眼鏡ライターとしてこのままではいかんのです。
そう、今の状況をたとえるなら、X(旧ツイッター)でフォローしているアカウントのタイムラインだけを追っているイメージ。それは自分に近しい意見が流れてくるから心地がいいし、交流も楽しい。だけど、ときどき「おすすめ」のほうのタイムラインを見ると、知らなかったけど案外自分好みなコスメや洋服の情報が入ってくることもあるし、自分とはまったく異なる意見に驚いたり、なるほどと思ったり……。そのすべてを受け入れなくとも、幅広い情報に触れることは大事だってことを、改めて思い知らされるわけです。展示会だって、本来はそうした場所であったはずですよね。
現在、展示会場がこれだけ増えてしまったのには、理由があるのでしょう。この現状を変えることが難しいこともわかっています。
ただ現状が変わらないのであれば、こちらが取材方法を変えるしかない。メディアの役割として「多くの読者が求めている情報」を掲載するのは大事なこと。でも私はフリーのライターだからこそ、もっと自由に取材をして、新しいものを見つけ出し、その情報を広めるという役割があったはず。
ご案内をいただいている展示会すらすべて伺えておらず申し訳ない状況にはあるのですが、次回はもう少し初めましてのブランドを訪ねるのにも時間を割きたい。そう思った次第です。
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。