【伊藤美玲のめがねコラム】第107回「めがねメンテナンスの駆け込み寺」
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めがねは、定期的なメンテナンスを必要とするもの。購入時にお店で調整してもらっても、使い続けていくうちに歪みは生じてしまうし、経年による劣化も起こります。
そんな時は購入店に相談! となるわけですが、私の場合は家から離れているところも少なくありません。それに仕事柄ブランドの展示会でフレームを直接オーダーすることもあるため、そもそも“購入店がない”フレームもあったりで。
「調整やカスタムの相談だけでも、気兼ねなく足を運べるお店があったら……」。そう、ずっと思っていました。そんな折、2021年に横浜の眼鏡店ハウスカタバタが「メガネ安心サポート」というサービスを開始したことを知ったんです。これは、他店で購入しためがねの調整やクリーニングを“有料”で承るというもの。カスタムや修理も、別途実費を支払えば対応してもらえるとのこと。これはまさに、私が待ち望んでいたもの!
すでにユーザーとして「メガネ安心サポート」利用している私ですが、今回改めてこのサービスについて店長の宮尾秀幸さんにお話を伺ってきました。
めがねの困りごとを解決したい
ハウスカタバタさんが位置しているのは、横浜・山下公園のほど近く。シルクセンタービルという歴史を感じる建物の10階です。同店はこのメガネ安心サポートを含め、めがね選びやレンズの相談などすべてのサービスが予約制となっているのが特徴。その時間はお店を貸し切りにできるわけなので、じっくり相談することができます。心地よい日差しが差し込む店内で、早速本題へ!
まず、メガネ安心サポートを始めたきっかけを教えてください。
宮尾以前は原宿にお店があったんですが、その頃からネットで購入しためがねのレンズや調整をどうしたらいいか困っているお客様が増えてきているなと感じていたんですね。また、引っ越しなどで購入店から離れてしまいアフターサービスを受けられず困っている方の話を聞いたりして、そうした方たちのサポートをできたらと思ったのがきっかけです。コロナ禍で店が横浜に移転し、完全予約制にシフトしたことも契機となり、2021年4月からスタートしました。
アフターフォローを考えるとめがね屋さんの実店舗で購入するのが理想的であるとはいえ、現にそれ以外の販売ルートがある限り、受け皿は必要になってきますよね。
宮尾そうですね。実際、今年度のサービス利用者は、昨年度の2倍にまで増えました。ありがたいことに、実際に利用された方の口コミやSNSの投稿で広まりつつあります。
たしかに、こういうサービスを待っていた人は多いと思います。これまで、めがねの調整は購入者に対してのサービスの一環であり、独立したサービスとして打ち出しているところはほとんどありませんでした。ですが、この「メガネ安心サポート」は、有料となっていることで逆に気兼ねなくお店に行くことができます。
宮尾「無料だと、逆に信用できない」と言われるお客様もいらっしゃるんですよね。ならば、そこは潔くお金をいただきます、と。とはいえ1回1100円とそこまで高い金額ではないので、「まずは体験しに来ました」と気軽に来てくださる方も少なくありません。じつはこの「安心サポート」を入り口として、まずは僕の技術を信用してもらいたいという狙いもあるんです。
なるほど。めがねを購入する前に、まずは技術を体験してもらう、と。
宮尾「この人なら任せても大丈夫そうだ」と思っていただいた結果、お手持ちのめがねのレンズ交換やフレーム購入につながっていくことも多いんです。
お客様との信頼関係作りのきっかけとしても機能しているわけですね。
宮尾はい。当店では顧客体験価値の向上に力を入れていて、まずはお店のこと、そしてめがねの楽しさや快適な視界をもたらすレンズがあることを知ってもらいたいと思っているんです。そのため、めがねの試着や見え方のご相談に関しては無料で行なっています。
メンテナンスを担当者制にする理由
安心サポートを含め、ハウスカタバタのサービスはすべてが予約制ですね。これもユーザーにとってはありがたいです。お店が混みあってるときに調整をお願いするのは、やっぱり気が引けてしまうので……。
宮尾そうおっしゃる方は多いです。僕は以前大手チェーン店に勤務していたんですが、お客様の調整を受けている間に、購入される方の列ができてしまうようなこともあって。そうなるとゆっくり応対できないし、お客様も恐縮してしまうんですよね。
予約制ならほかのお客さんを気にする必要もないし、納得いくまで調整してもらうことができますね。
宮尾それと「担当制」にしているのもこのサービスの特徴です。美容師と同じ感覚というか、たとえば自分の髪の状態や好みなどを把握してくれている美容師さんなら、毎回安心してお任せできるじゃないですか。それと同じで、めがねもお客様の頭の形状や掛け具合の好み、めがねの状態をわかっている人がずっと見てくれたほうが良いですよね。以前の職場では店舗を異動しなくてはいけないこともあり、常連のお客様に申し訳なく感じることもあったので。
たしかに、ユーザー側としても「いつもの掛け心地にしてもらえる」というのは安心です。毎回同じ方に担当してもらうことで信頼関係が築ければ、こちらの要望も遠慮なく伝えやすくなりそうです。
大事なめがねを長く使ってもらうために
安心サポートでは、鼻パッドのカスタムや修理も別途実費で承っていますね。宮尾さんは、自身のTwitterやブログでカスタムや修理の事例も積極的に紹介されています。
宮尾ある程度壊れてしまっても修理で直るんだということを知ってほしいので、可能な限り紹介するようにしています。たとえば、リム切れ(フロントのレンズを囲う部分が切れてしまうこと)なんかは、「これでも直るんだ!」と驚かれる方も多いですね。こちらの写真のモデルは、経年変化で生地が白化、さらにテンプルがかなり型崩れしていたんですが、
宮尾生地の磨き直しと潤い補給、型直しで、美しいツヤと正しい形を取り戻しました。
おぉ、すごいですね。ここまで歪んでしまったら直るとは思わず、お気に入りでも諦めてしまう人もいるでしょうね。
宮尾そうなんです。お客様では判断ができないので、まずは相談してもらえたらと思っています。たとえば、「鼻ハッドが壊れた」と連絡を受け持ち込まれてものを見てみると、単にネジが外れてパッドが取れてしまっただけだったりするんですよ。これなら1分程度ですぐ取り付けできます。
ユーザーからしたら、「これまで通りに使えなくなった=壊れた」となりますからね。なので、修理事例を見ることで「私のめがねも直るかも!」と気が付けるかもしれません。とはいえ、なかにはブランド独自の構造やパーツなどが採用されていて、取扱店でないと対応が難しいものもあるのでは?
宮尾なるべく対応するようにはしていますが、パーツなど純正のものが必要な場合は、正直に事情を告げてお断りすることもあります。その代わり、そのお客様のお住まいの近くの取扱店を探して連絡先をお伝えするなど、可能な限りのサポートはさせていただいています。
対応に困っている方は、それだけでも助かりますね。
宮尾まぁ、お店としては新しいものを買ってもらったほうが利益は出るわけですが(笑)。やっぱり修理をしたいということは、その眼鏡が好きだし愛着があるのだと思うので、そうしたものは長く使ってもらいたいですよね。もともとこのサービスを始めたきっかけも、そこにあるんです。
ちなみに、先日若いお客様に「僕が老眼になるまでめがねの面倒を見てください!」と言われ、「そのとき僕70歳とかだよ!?」って(笑)。これでしばらく引退できそうにないですが(笑)、そう言ってもらえるのは本当に嬉しいことですよね。
取材を終えて
この日は、取材だけでなく自分のめがねの調整を6本ほどお願いしてきました。これらがすべて快適に掛けられるようになることを思えば、1100円という金額はかなりお値打ちに感じられます(今後、価格の見直しを予定しているとのこと)。
めがねは、本来なら通いやすい近所のお店で購入し、メンテナンス含め長いお付き合いをするのが理想の形なのかなと思います。でも、残念ながら近所にそうしたお店を見つけられないこともあるし、めがね好きであるほど目的のフレームを求めて遠方に買いに行くこともあるでしょう。また、最近では自社のサイトでオンライン販売を開始したり、ライフスタイルショップやアパレルショップを中心に展開するめがねブランドも増えてきました。こうなってくると、ますますメンテナンスに困る人は増えてきてしまうことが予想されます。
とはいえ、メンテナンス中に破損が生じたりなどするリスクもあるので、他店購入の持ち込みはお店としても簡単に引き受けられるものでないことも承知しています。本当に難しい問題です。
ハウスカタバタのこの取組みは、こうした現状へのひとつの回答。今めがねで困りごとを抱えている方は、ぜひ相談してみてはいかがでしょう。
HAUSKA TAVATA (ハウスカ タバタ)
〒231-0023
神奈川県横浜市中区山下町1番地 シルクセンタービル1016号室
TEL : 070-1580-0046
OPEN : 11:00 〜19:00
オフィシャルサイト:https://www.hauskatavata.com/
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。