【伊藤美玲のめがねコラム】第37回「めがねメーカーに泊まる…!?」
ここ、どこだと思いますか?
海外のリゾートホテル? いえいえ、実はめがねメーカーさんの社屋なんです。
今年4月、久々に出張へ行ってきました。行先は、鯖江。今月発売になっためがね雑誌『モード・オプティーク』で「眼鏡のニューウェーブ」という特集があり、鯖江の新しい動きについて1泊2日で取材をしてきたんです。(詳しくは、ぜひモード・オプティークVol.46をご覧くださいませ!)
その取材先のひとつが、写真の場所。
じつはここ、BJ CLASSIC COLLECTIONを手がけるめがねメーカー、ブロスジャパンさんの昨年秋に完成した新社屋。なんと2階がゲストハウスになっているんです。
大きなテーブルやソファが置かれた広い部屋は、奥に間仕切りができる小上がりの寝室があり宿泊も可能。開放感のあるガラス張りのバスルームまで備え、これはもう「オフィスに泊まることができる」というレベルを遥かに超え、「わざわざ泊まりに行きたい」と思うほどの寛ぎの空間。まるでホテルのスイートルームのようです。
では一体なぜ、社屋にゲストハウスをつくったのか……?
それは、遠方から鯖江まで工場見学に足を伸ばしてくれたBJ CLASSIC COLLECTIONの取扱店や、海外の代理店の方たちにおもてなしをしたい、という気持ちからだったそうです。
たしかに、鯖江にはビジネスホテルはあるけれど、ゆったり過ごせるような宿泊施設があるわけではありません。そこで、「無いならつくってしまおう」というわけですね。とはいえ、これだけの広さをオフィスとして使わず、ゲストハウスにするなんて。維持管理だって大変だろうし、簡単にできることではありません。
取材は、実際にこのゲストハウスで行ないました。ブロスジャパン代表の浜田謙さんと、ビジネスパートナーでもある奥様の浜田優子さん、そしてBJの生産を手がける職人さんとともに、ウェルカムドリンクのシャンパンを頂きながら、ソファにゆったりと腰をかけて話をする。今思えば、ここから既に“おもてなし”が始まっていたわけですね。
こんなゆったりとした取材、なかなかありません。オフィスの会議室で話をするよりリラックスでき、なおかつカフェなどオープンな場所とも違って静かなので落ち着いて話すことができる。おかげさまで、とてもスムーズで濃い内容の取材になりました。たしかに、ここでじっくりと話をしたら、取扱店の人たちとの距離もぐっと縮まりそう。
その夜は、実体験も記事に生かすべく、このゲストハウスへ宿泊させてもらいました。それだけでも恐れ多いのですが、朝は奥様が自宅でつくってきた朝ごはんをご馳走してくださって……。甘エビでお出汁をとったお味噌汁、美味しかったな~。今でも朝の心地良い空気感とともに、あの味を思い出します。あぁ、また伺いたい。
ここに滞在したことで、気が付いたことがあります。このゲストハウスは、単なる宿泊施設ではなく、濃密なコミュニケーションを生み出す場として機能しているということ。
単にオフィスを訪ねるよりも親密になれるし、とはいえ自宅でおもてなしを受けるほど距離が近過ぎないので、訪ねた側も恐縮せずにリラックスできる。お互いが適度にオフィシャルな状態でゆっくりできるこの絶妙な距離感が、単なる親睦ではない濃密なコミュニケーションを生んでいるのだ。そう感じました。
めがねのブランドが社屋にゲストハウスを併設する。最初は「?」だったけど、今ではその意義が少し理解できたような気がしています。
聞けばここには取扱店や代理店のほか、クリエイターやミュージシャンなど多くの方が宿泊しているとのこと。きっとブロスジャパンの皆さんとここを訪れた人たちとの濃密なコミュニケーションが、何かを生み出すきっかけとなっていることでしょう。そして私は、このゲストハウスから生まれる新しい動きに、期待せずにはいられないのです。