【伊藤美玲のめがねコラム】第77回「有名人のめがね」
第92回アカデミー賞授賞式が行なわれていた先日のこと。結果を伝えるニュースで、ポン・ジュノ監督が映し出された際、真っ先にめがねに目がいきました。「かけているのは、スタルク・アイズかな?」と。
そう、これはもう職業病に近い習慣。めがねをかけている人がテレビに出ていると、それがどこのブランドであるかをチェックしてしまうのです。芸能人だけでなく、政治家やニュースのコメンテーター、などなど
「あぁ、このカシメ飾りの形は〇〇〇〇〇のめがねかな…」
「この特徴的なテンプルデザインは、間違いなく△△△△だ」
ときにはテレビの目の前まで行って、凝視してしまうことも。家族にはヘンな目で見られますが…(笑)。
また職業柄、「この人のめがねが、どこのブランドのものか教えてほしい」と頼まれることも少なくありません。パっと見てわからなくても、パーツからヒントを探り、ネット検索など駆使しながら答えを見つけ出す過程は、まるでゲームのようにワクワクします。
まぁ、そこまでする人は珍しいにせよ、有名人がかけているめがね・サングラスを紹介する企画は、ファッション誌やめがね雑誌でも人気があります。それはなぜか。
ひとつには、やはりめがねが「その人の雰囲気を纏う小道具」として、効果的であるという点があげられるでしょう。めがねは、顔の中心に位置するものゆえに、かける人の印象に大きな影響を与えるもの。だからこそ、同じめがねをかけるだけで、よい意味でも悪い意味でもその人っぽくなれるわけですね。たとえば同じ時計をしたり、靴を履いたりしても、人にはなかなか気が付いてもらえないでしょう。
そして、もうひとつの理由は、めがねやサングラスは、憧れのセレブと同じものでも手が届きやすいということ。セレブ愛用の時計や車となると、高額でなかなか難しいですが、めがねとなると話は別です。じつはハリウッドセレブや世界的なミュージシャンでも、レイバンだったりオリバー・ピープルズだったりと、めがね好きにはおなじみのブランドをかけていたりする。すぐに真似できちゃうわけです。
とはいえ、ブランドの背景やデザインの良し悪しをすっ飛ばして、「〇〇さんがかけていたから」というだけで話題になることに賛否があるのも事実です。
というのも、「〇〇さんが素敵にかけていためがね」が、誰にでも似合うというわけではありません。それに、度数や使用するシチュエーションを考えたら、デザイン的に適していないかもしれない。たしかに私も、かつてはそういう理由で否定的でした。
でもね。理由はどうあれ、めがねに興味をもってくれたのなら、それは喜ばしいことだなと今では思います。そのめがねをきっかけに、めがねのブランドを知るかもしれない。これまでは足を運ばなかったお店に行ってみようと思うかもしれない。そのお店で、ほかのめがねと運命的な出会いを果たすかもしれない。そして、これまで以上に見えやすいめがねを作ってもらえるかもしれない…。
一般的に、めがね屋さんには「めがねを作る」という目的がないと立ち寄らないものだし、めがねブランドを知る機会もなかなか得られないもの。だからこそ、きっかけはミーハーな理由でも全然アリだと思います。
ちなみに、今回トップ画像に写っている私のめがねですが、先日とあるお笑い芸人さんがかけているのをテレビでお見かけしました。偶然にも同じものを選んだというだけで、なんだか親近感が湧くものですね(笑)。
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。