【伊藤美玲のめがねコラム】第72回「めがねのマナー」

今回のコラムは第72回。
1か月に2回書いているわけなので、もう3年書き続けているということになります。いやはや。

いつも読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます。私のコラムは業界の裏側や時事問題に痛快に切り込んでいるわけではないし、詩的に美しいわけでもない。結論のないモヤっとした読後感のものも少なくありません。とくに、回を重ねるほどに……。

なぜならそれは、最近私自身がめがねについて考えると、モヤモヤしてしまうことが多いから。めがねって、考えれば考えるほど、「これだ!」っていう正解がないことが多いような気がしています。

最近そう思ったひとつが、めがねの“かけこなしのマナー”についてです。

例えば、ビジネスシーンにおいて、スーツにはある程度明確な着こなしのマナーが存在します。ビジネスシーンに黒のスーツは避けたほうがいいとか、お堅い職場ならネイビー、もしくはグレーが無難といったスーツの色選びについて。また、シャツなら色であったり、襟の形であったり。靴なら、黒の内羽式ストレートチップがいいとか……。

職場がそれを認めるか云々という以前に、「この場には、これがふさわしい」というルールのようなものが存在しているわけです。選びのルールだけでなく、着こなしのセオリーも。皆にその前提がある程度共有されているから、それをあえてお洒落に外すことが“粋”と取られたり、反対に「それは場違いでは…」と思われたりもするわけです。

いちいち細かいことが決められていると面倒……? でもその一方で、ルールは「それに従っておけばとりあえず大丈夫」という安心材料にもなるんですよね。

「その場において、間違いのないめがねをかけていきたいんです」

先日、そうした相談を受けたとき、ハっとしました。たしかに、めがねにはスーツや靴のように明確なルールが存在していません。ビジネスシーンには清潔感のあるものを……、といわれて一定のデザインが頭に浮かぶのは、きっとめがねに詳しい人。なかなか具体的なイメージを抱けない人が多いでしょう。

メタル素材なら、丸めがねもOK? シートメタルは? 形はどこまでがアリ? リム(※1)の太さは? 天地幅(※2)は……?

「自分をどう見せたいかが大事」とは言っているけれど、どういうめがねをかけたら、どう見えるのかってことを即イメージできる人は、そもそもめがね選びに迷わないのかもしれません。では、迷っている人のためにも、やはりルールは必要……? あぁ、またモヤモヤしてきた……。

女性の着こなしには、男性の着こなしほど明確なルールはありませんが、
「このめがねで、保護者会は派手かしら?」
「冠婚葬祭でのめがねにNGはあるのかしら?」
など、いろいろ疑問に思うことは多いんだと思います。「どんなものをかけていいかわからないから、コンタクトにする」という選択をしている人だっているのかもしれません。

やっぱり、めがねはまだ“どうかけるか”の提案が足りてないのでしょう。もちろんそうした提案をしているメディアもあるし、ショップのブログやSNSでの素敵な提案も増えてきているけど、まだまだ届いていない。どうしてなのだろう……?

めがねを楽しんでいる人が増えてきている今こそ、“似合うかどうか”から1歩進んだ、“どうかけるか”の提案をメディアを通してしていきたい。マナーの話からは少しそれてしまったけど……、それが4年目に突入するこのコラムの抱負でもあります。是非皆さんと一緒に、考えていけたらうれしいです。

※1 リム:レンズのまわりを囲む縁の部分の事。
※2 天地幅:めがねのレンズの縦幅のこと。