【伊藤美玲のめがねコラム】第76回「もっとレンズの情報を」

先日、めがね屋さんに行ったときのこと。とあるレンズを紹介してもらいました。

パっと見は、特に色が着いているわけでもないクリアのレンズ。でも、目もとにあてると、まるで少し度数が入っているかのように、遠くの文字の輪郭がパキっと見えたんです。

聞けばこれは伊藤光学のESシリーズというもので、世界初の「被写界深度設計」によるレンズとのこと。その原理をここで説明すると長くなってしまうので割愛しますが、私個人はその効果を実感することができました(※個人差があるそうです)。

いやはや、こんなレンズがあったとは。とはいえこちらのレンズ、そこまで新しいものではなく2016年にリリースされていたそう。お恥ずかしながら、全然知りませんでした。近々、是非このレンズでめがねを作ってみたいと思っています。

眼鏡ライターという仕事をしている私ですが、実のところレンズの情報というのは、レンズメーカーさんから教わるというより、一人のユーザーとして、めがねをつくる際に、めがね屋さんで教えていただくことのほうが多いです。(最近は、こちらから積極的にメーカーさんにアプローチするよう心掛けているけれど)。

フレームについては、春・秋の展示会ではもちろん、ブランドやお店のSNSでの発信が盛んになっていることもあり、以前と比べると一般ユーザーでも日常的に情報が得やすくなりました。

でもレンズは、メーカーからお店に対してのセミナーはあっても、レンズメーカーからのユーザーに向けての発信はまだまだ少ないような気がして。それって、ちょっともったいないんじゃないかと思うんです。

…いや、もったいないと思っていながら、一方でそれが難しいのもわからなくもありません。雑誌でも、レンズの企画は難しいんです。レンズの紹介といえば、カラーサンプルやレンズの有り・無しによる視界の比較、また何かしらのグラフなどで構成され、さらにしっかり説明しようとすると文字数が多くなり、誌面としては決して華やかとはいえない。だから、専門誌でない限り敬遠してしまいがちです。

それに、ファッション誌となれば、やっぱりめがねのファッションとしての側面を伝えたいわけですから、企画の打ち合わせで「調光レンズ(※1)という便利なものがあって…」と話しをしても、「それってレンズの話ですよね」と一蹴されてしまうことも。男性向けのモノ雑誌ではアリだとしても、女性誌ではなかなか難しいでしょう。

「一般のユーザーはレンズに興味がない」、「話が専門的すぎる」。発信側はこれまでそう判断してきたのだろうけど、でも、JINSのブルーライトカットめがねやハズキルーペがヒットしたことを考えれば、人は「より快適に見える」ことに対して興味はあるはずですよね?

一方で、めがね業界以外の友人と話せば、調光レンズや偏光レンズ(※2)の存在を知らない人が大多数だし、ときには「UVカットされているめがねは、どこのお店で買えるの?」という質問を受けたりもする。レンズはどんどん進化しているのに、その情報がなかなか届いていないことに、もどかしさを感じてならないのです。

もちろんレンズには、実際に作ってみないとその良さがわからないものもあるし、きちんと検査をしないと、その人にとってなにが相応しいかわからないから、一概に「あれがいい、これがいい」と簡単に言えない側面もあると思います。そして私たち発信する側も、これまで以上に勉強が必要です。

でも、まずは機能レンズなどから「快適に見える」ことの魅力や喜びを、わかりやすく、カジュアルに伝えられたら。そうして、少しでもレンズに興味を持ってもらえたら…。

真摯にお仕事をされているめがね屋さんには、「レンズはカジュアルに伝えられるもんじゃない!」とお叱りを受けるかもしれません。でも、まずはレンズのことに興味を持ってもらえるきっかけを作りたい。そんな発信をできるよう、もっとレンズメーカーさんやお店さんと一緒になって何かできたらと思っています。レンズメーカーさん、ぜひよろしくお願いします!

※1 調光レンズ:
紫外線を浴びることでレンズの色が濃くなるレンズのこと。日差しの強い屋外ではサングラスのように濃い色のレンズとなり、紫外線の届かない室内などでは通常のめがね同様クリアなレンズとなる。

※2 偏光レンズ:
「偏光膜」という特殊なフィルムが入っているレンズで、光を一定方向にのみ通過させるような加工がされているため、自然光を通し反射光のみをカットするという効果がある。