【伊藤美玲のめがねコラム】第16回「会話不足が招く悲劇」

以前めがねを買ったとき、こんなことがありました。

フレームを選び終わり、レンズを決める段階でのこと。ブルーライトカット効果のあるレンズにしたいと告げると、某社のレンズをすすめられました。でも、その某社からは同じカテゴリーでさらに性能の高い最新モデルが発売されていたはず。そう気づいた私は「これって新しいものも出ていますよね?」と聞くと、「はい。でも最新のものだと高くなるので、あえておすすめしませんでした」とのこと。

一瞬「えぇっ!?」と思いましたが、これはスタッフさんなりの気づかいだったわけですよね。なるほどなぁ……。

私の場合、めがねは数年使うものだから少し割高になっても機能性の高いレンズがいいという考えですが、お客さんの中には、フレームが高くついてしまったからなるべくレンズは安く済ませたいという人もいるでしょう。なかには最新のレンズを紹介することで、「私は無駄に高いレンズをすすめられているのでは……!?」と思う人もいるかもしれません。そこの価値観は、ほんと人それぞれですよね。

こうしたコミュニケーションの齟齬は、往々にあることなのかもしれません。これはもう、会話をすることでしか解決できないのだと思います。

自分に合っためがねをつくるためには、お店の人とのコミュニケーションが本当に欠かせません。レンズは薄型か超薄型かといった選択肢だけでちゃちゃっと選ばせるようなお店もありますが、それだけでない選択肢だってあるし、コーティングの種類も様々。そもそもレンズってそんなに単純なものじゃないし、本来は自分で簡単に決められるものではないと思うんだけどな……。

レンズって、ほんといろんな種類があるんですよ。でも、レンズについては一般の雑誌に載ることは少ないし、CMがバンバン流れているわけではないから、ユーザーがレンズについて積極的に情報を得ようとしない限りは、めがね店からの情報が頼りです。

一方で「ユーザーの側も、もっと知識を持ってからお店に来るべし」みたいな論調も一部であったりするけれど、よほど興味がない限りそれは難しいんじゃないかなぁ。

もちろん下調べしてからお店に行くに越したことはないのだけど、それができない場合、私たちユーザーが最低限できることは、「見え方に対しての要望」「今の見え方への不満」など、自分のニーズをきちっと伝えることだと思うのです。

「夕飯何がいい?」って聞かれて「なんでもいい」って答えるとお母さんが困ってしまうように(笑)、「レンズは別に何でもいい」っていう態度だと、きっとお店の人も提案がしづらいはず。「夜になるとスマホの文字が見づらい」とか、「眩しさは抑えたいけどカラーは入れられない」とか、「目元が若く見えるレンズがいい」なんて要望だっていいんですよ(実際に“見た目年齢を下げる”とうたっているレンズもあるしね)。

ある程度価格が高くなっても、自分に必要ならば性能が高い方がいいと伝えるのもひとつだろうし、反対に金額面で不安があるのであれば、最初から「レンズの予算は〇万円です」と伝えたうえで、その中で最適な提案をしてもらっても良いでしょう。

そうした声に耳を傾け、できる限りしっかり応えようとしてくれるお店は良いお店だなと感じます。お店の人からは、こちらのニーズや、会話の中で感じたとった潜在的なニーズに合わせて多様な提案をしてもらえたら私は嬉しいです。

そうしてしっかりコミュニケーションを取るほど、自分にとってより良く使えるめがねが仕上がるんじゃないかな。もちろん、仕上がったあとのコミュニケーションも大切。見え方など不具合があるようなら、是非きちんと伝えた方がいいです。言いづらいかもしれないけれど、見え方や仕上がりに不満があるようでは、使う本人も、それをつくってくれたお店の人もどちらもハッピーではないですよね。めがねは、やっぱり使ってこそめがねですから。

そもそもめがね選びは難しいもの。レンズのこととか、わからなくて当然です。だからこそ会話が大事。要望や疑問は遠慮せずきちんと伝えて、納得のいく1本をつくってもらえたらと思います。