【伊藤美玲のめがねコラム】第29回「レンズ選びの思い込み」
めがね好きの皆さんの中には、用途によってめがねを使い分けているという人も多いでしょう。
私もそうです。主に家の中でかける家用めがねと、近所の買物や子どもの送り迎えなどのときに使う“ワンマイルウェア”ならぬ“ワンマイルめがね”はすべて度付きで、主に8本を使い分けています。
それらはすべて同じ度数。でも、カラーを入れていたりサポートレンズだったりでひとつも同じものはなく、メーカーもいろいろです。「レンズの使用感を比較するため」という理由で同じ度数でつくり続けていたんですけど、そのため気が付けばもう5年ほど視力検査をしていなかったんですよね……。そろそろ40歳だし、もしかしたら老眼の兆候もあるかも!? なんて思い、久々にしっかり検査をしてもらうことにしたのです。
ちなみにその8本はすべて同じ度数なのに、ものによってはちょっと見え方に違和感があるものも。その理由も知りたかったので、一部持参することにしました。
伺ったのは、東京・丸の内にあるニコンメガネさん。
検査は同店の店長である佐藤勝彦さんにお願いしました。以前取材で伺ったとき、その丁寧な検査の様子を拝見して「私もぜひ一度検査してもらいたい!」とずっと思っていたんです。
このニコンメガネは、両眼視検査を行なっているお店です。
通常、視力検査というと片方の目を隠して片目ずつで行ないますよね。両眼視検査では、通常の片眼での視力検査のあとに両目での検査を行ないます。両目での検査がなぜ必要かというと、そもそも人は2つの目で見た映像を脳が処理してひとつにしているわけで。それゆえ左右それぞれの目の動きや調整力などを測定したうえで、両目の状態でより良く見えるようにしようというのが両眼視検査なんですね(かなり簡略的な説明ではありますが)。
片目ずつの検査が終わると、いよいよ両眼視の検査へ。いろいろな指標で検査をしていくと……。
佐藤さん「伊藤さんの場合、両目で見ていても実は左目で見ているようですね」
(えっ、それはどういうこと!?)
佐藤さん「優位眼というんですけど、伊藤さんは近視が弱い左目のほうで見ているから、左の度数がとても肝心です。もしかしたら右はあんまり強くすると、かえって疲れるかもしれないです」
優位眼とは、両目で見ているとき優位に使っている目のこと。この優位眼とは利き目とも違うそうで、自分が左目をメインに使っているということは初めて知りました。読書やパソコンでの執筆など集中して何かをしていると、左ばかりで見てしまうのでとても疲れやすいのだろうとのことでした。
また、斜位の検査ではさらなる見方のクセも発見されました。
佐藤さん「疲れてくると目が外側に向いてしまうんですけど、まばたきすると一瞬にしてギュっと正面に戻しているようです。加えて、その戻そうとする力がとても強いんですね。一般に近視の度数を上げると目は正面に向こうとするんですが、伊藤さんの場合それだと目が寄り過ぎてしまう可能性があるので、家で使うことを前提とするならあまり強くしないことをおすすめします」
そうなんです。斜位の検査をしているとき、まばたきするたびにおもしろいほど指標が水平方向に移動するんですよ。これは、外側へ向いてしまった目線を脳の指示と目の筋肉によって正面に戻しているからだそう。普段自覚はないけれど、こんなに目の筋肉は働いていたんですね……。
その後、手元を見る検査や仮枠を付けての装用検査などをして、すべて終了。気が付けば1時間以上が経過していました。1時間は長い? いえいえ、自分の目をこんなにじっくり検査してもらえるなんて、とっても嬉しくないですか? ここでの検査は“これは何を調べる検査なのか”“結果的に自分の目がどのような状態なのか”を丁寧に説明してくれるので、とても安心できたしわかりやすかったです。いやぁ、両眼視検査っておもしろいなぁ。
そしてもう一つ、今回の検査でわかったことが! 私は老眼の兆候どころか、サポートレンズすらも必要がなかったということ。これは意外でした。というのも、最近では「もう30代後半だし、サポートレンズのほうが見やすいはずだ!」と思い込み、必ずサポートレンズでつくるようにしていたんです。先述の通り同じ度数で使用感を比較しなければという考えから、検査することなく「この度数でサポートレンズにしてください」とお願いしていたんですね。
手持ちのめがねで見え方に少々違和感があったのも、実は0.75Dのサポートが入っていたものでした。かけ続ければ慣れるのかなとも思っていたのですが、私にはまだ少し早すぎたみたい。いやはや、完全に思い込みでした。レンズ選びはやっぱりプロの意見を聞かないといけないですね。使ってみたいレンズがあったとしても、それが本当に自分の目に、そして用途に合っているのかしっかり相談しないと……。
そんなこんなで、新しい家用めがねはこれまでの度数より近視を左右ともに-0.50ずつ下げ、乱視の度数はそのままでつくることにしました。既にできあがったものを数日かけているのですが、今のところ違和感はありません。
めがねをつくるとき、フレーム選びには時間をかけるのにレンズは最後のオマケみたいに決めるようなイメージ、まだまだあると思うんです。
少なくともライターになる前の私は、お店であまり丁寧な説明を受けたことがなく、レンズに選択肢がたくさんあることも知りませんでした。でも、度付きでつくるなら、キモはやっぱりレンズです。めがねをつくるときは、その重要性も意識してお店選びをしてもらえたらと思います。
ニコンメガネ
住所:東京都東京都千代田区丸の内2-5-2(三菱ビル1階)
営業時間:10:30〜19:00(日曜・祝日は休業)
TEL:03-3215-0725
http://www.nikon-lenswear.jp/shop/nikonmegane/index.htm
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。