【伊藤美玲のめがねコラム】第73回「親の背を見て子は育つ」
「今日の服には、こっちのめがねがいいかな?」
私はもちろん、夫も数本めがねを所有する我が家では、出かける前にこうした会話があたりまえのように繰り広げられます。めがねを数本並べては、鏡の前でいろいろかけてみる。日差しの強い日にはサングラスも候補に入れながら。
夫が洋服関連の仕事をしているということもあり、めがねのみならず、コーディネートの相談をすることも日常茶飯事です。そんな様子を普段から見ているからでしょうか。先日家族3人で出かける前のこと。娘は自分が持っているサングラスと伊達めがねを並べて、鏡の前で「今日はどっちがいいかなぁ」なんて悩み始めたんです。
「今日は眩しくないからサングラスはかけなくていいよ」、と私が言うと……。
「じゃあ、めがねにする。だって、めがねをかけたほうが可愛くなるんでしょう?」と。
いやはや。子どもって、思った以上に両親のことを見ているし、会話も聞いているんですね。いくら私がめがね好きだからって、「めがねをかけたほうが可愛くなる」と日々呪文のように唱えているわけではないですよ。ただ、私たちがあたりまえのように鏡の前でめがねを選んでいる様子を見て、自然と自分もそうしたいと思ったのでしょう。
以前、子ども専門のめがね屋さんに取材した際、「親がめがねをかけていると、子どもも抵抗なく受け入れることが多い」と聞いたことがあったんですが、まさにこういうことだったわけですね。
そんな娘の様子をほほえましいと思うと同時に、親が子どもに与える影響力の強さを改めて思い知らされました。怖いぐらいに……。
そう。それぐらい子どもは、親の話を聞いているし、表情や態度を見ています。だからきっと、子どもにめがねが必要になったとき、それを素直に受け入れてくれるかどうかは、親にかかっているんです。
もし、親がめがねに対して露骨に嫌がるような態度を取っていたら。「めがねなんてかわいそう」と口にしていたら……。子どもは「パパとママが嫌がるものを、私は着けなくてはいけなくなったんだな」「私は何か悪いことをしてしまったのかな」と思ってしまうんじゃないかしら。
憧れの存在であるプリキュアがめがねをかけていたとしても、プリンセスがかけていたとしても、親の影響力はそれをしのいでしまうのではないかと思います。
しかも、「いやいやかけさせる」ならまだしも、「かけさせない」という選択肢を取る親御さんもいるんだとか……。いくらめがねが嫌いでも、めがねが必要だと診断されたのなら、これは子どもの目の発育、見え方に関わること。好き嫌いでは決められない話なのです。
百歩譲って、たとえ嫌いであっても、せめて子どもの前ではめがねを受け入れてほしい。「めがね、素敵だね」って言ってあげてほしいんです。私はめがね嫌いの両親に育てられたからこそ、なおさらそう思います。
今年は「女性のめがね禁止」が話題になったりして、改めてめがねへの偏見も健在化したりしたけれど、少しでも意識を変えられたら……。眼鏡ライターとして、そして子をもつひとりの親として。来年は子どものめがねについて、もっと本腰を入れて取材・発信をしていきたいと思います。
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。