めがねでもっと感動できる!〜「北村Domont」北村拓也さんが考えるめがねの可能性〜
今夏、東京・白金のOFS galleryでオーダーメイドめがねブランド「北村Domont(キタムラ ドモン)」と、写真作家・高倉大輔さんがコラボしたアート展『眼鏡 catch up アート??』展が開催されました。
「めがね×現代アート」という異色のコラボは、どんな新しい視点でめがねを見せてくれるのでしょうか。
展示会の主催者でもあり、「北村Domont」を手がける北村拓也さんは、フランス在住のめがね職人です。1950年設立の歴史あるフランスのめがね工房「Dorillat(ドリラ)」でめがねをつくりながら、自身のブランド「北村Domont」としても精力的に活動されています。
『眼鏡 catch up アート??』というタイトルからもわかるように、今回の展示会で北村さんが目指したのは「めがねがアートに追いつく」こと。つまり、「めがねをアートに近づける」ということです。その北村さんの想いを知り、「アート」側から作品制作に協力したのが、写真作家の高倉大輔さん。一人の被写体の様々な姿勢や表情を合成技術で1枚の写真におさめた『monodramatic』シリーズで、世界的に注目されている人物です。
展示を見ながらも気になるのは、この展示が目指した「めがねをアートに近づける」ということ。めがね職人である北村さんがアーティストの手を借りても表現したかった「めがねをアートに近づける」ということについて、北村さんにお話を伺いました。
めがねをアートの指標で見るという道をつくる
『眼鏡 catch up アート??』というタイトルからもわかるように、北村さんは今回のアート展を「めがねをアートに近づける」ために開催されたと伺いました。「めがねがアートに近づく」とは、どういうことなのでしょうか。
北村ぼくは職人による仕事が、感動や驚きといったアートの指標でみつめられるようになってもいいと思っています。例えば「あの人がつくったものだから、これが欲しい」というように。もちろん既にそうなっているジャンルはありますけど、めがねはまだそういう思いで購入している人は少ないと思うので。
「北村さんの新作だから買わなきゃ!」と、めがね職人にももっと作家性を持たせてもいいのではないかという提案ですね。
北村そうですね。それとアートに近づけることで、めがねの価格を決める方法も変えられるんじゃないかなと。アート作品であれば、材料費や人件費から逆算されて値段が決まるのではなく、評価によって値段が決まります。めがね職人という仕事をこれからも残していくには、めがねもそういう方向性を新たにつくりだす必要があるんじゃないかと思うんです。ひとつのきっかけになればと思い、高倉さんのお力添えを頂き、展示会を開催しました。
今回展示されている作品は、具体的にどのような過程を踏んでつくられたのですか。
北村今ぼくはフランスにいるので、モデルの顔の測定は知り合いのめがね屋さんにお願いしました。めがねづくりのサイズにおいて基本となるのは、黒目と黒目の距離です。それを基準に、顔写真を見ながらレンズの中心をどこに置くべきかを考えていくんです。
そのようにして、オーダーメイドのめがねをつくっていくんですね。
北村きちんと測定してあれば、そのようにしてサイズがピッタリのめがねをつくることができます。最後に、もう一度めがね屋さんでフィッティングの際に微調整してもらい、撮影は高倉さんにお任せしました。
北村さんは、鯖江でめがね職人をされていたんですよね。フランスに行かれる前には中国やヨーロッパのめがねづくりを見て周ったともお伺いしました。どのような経緯があって、フランスでめがね職人として活動されるようになったのでしょうか。
北村鯖江を出て中国に渡った理由は、中国製めがねの存在にあります。めがねづくりに自分が携わる前は、中国製のめがねは質が悪いという固定観念があったんです。でも、自分でめがねをつくるようになってから、改めて中国製のめがねに触れると、製品として決して悪いものじゃないという印象を受けました。時を経るごとにクオリティもどんどんあがってきているのに、価格は変わらず3,000円くらい。そういう状況を受けて「日本のめがね職人は、今の仕組みのままで生き残っていけるんだろうか?」と不安を覚えるようになりました。それで、どうすればいいかわからないけれど、とりえず中国に行くことにしたんです。
中国のモノづくりの現場を、まずは自分の目で見てみようと。
北村でも行ってみると、中国のめがねづくりの仕組みは日本とあまり変わりませんでした。どうしたらいいか余計わからなくなってしまったので、もともと自分が好きだったヨーロッパのめがねをこの目で見てみようと思い、渡欧することにしたんです。ヨーロッパのいろいろな国でめがね工房やめがね屋さんを見て回りました。そのときにお会いした「MICHEL HENAU(ミシェルエノウ)」(1965年に設立されたベルギーのアイウェアブランド)のデザイナーに、「Dorillat(ドリラ)」を紹介してもらい、そこで働くことになりました。
そこから、なぜご自身のブランドを立ち上げることになったのでしょう。
北村ぼくが働き始めた2014年は、ちょうど「Dorillat」が新しいことをやっていこうというタイミングでした。その一環として、「北村Domont」という自分のめがねを発表させて頂けることになったんです。
そういう経緯があったんですね。「北村Domont」の「Domont」はフランスの街の名前ですよね。その地名を選んだのには何か理由があったんでしょうか。
北村今住んでいる街なので。
え! それだけですか? もっと深い意味があるのかと勝手に思っていました(笑)。
北村特に深い意味はないんです(笑)。かっこつけるのが苦手なので、凝った名前をつけたくなくて。「今住んでるから、ドモンでいいか」みたいな。これはもう性格ですね。
でも北村さんのそういう「かっこつけなさ」、言い換えれば「ありのままでいる」という姿勢はめがねにもすごく表れている気がします。今日展示されているめがねで、これは自分でもお気に入りというものはありますか?
北村個人的に好きなのはこれですね。
北村これはレンズを比較的小ぶりにつくってあるんです。大きいレンズのめがねって、多少サイズがずれていても「合っている」ように感じてしまうものなんです。でも、小さいレンズだとごまかしがきかない。ごまかしのきかないものをオーダーメイドでその人にピタっと合うように調整するのが、ぼくのやりたいことなんです。そういう意味でこのめがねは、ぼくの考えがわかりやすく形になっていると思いますね。
なるほど。このめがねは、北村さんがめがねで表現したいことであり、職人としての新たなあり方のひとつでもあるということですね。
北村「オーダーメイドでめがねをつくる」ということが、「職人による仕事が、感動や驚きといったアートの指標でみつめられるようになる」、つまり「めがねがアートに近づく」のひとつの答えだと思っています。
着用はしつつもめがねへの興味が薄かった人、めがねを常用している人、めがねが大好きな人…めがねに触れている全ての人が楽しめるメディアを目指します。