【鯖江のアイデアマン KISSO代表・吉川精一さんインタビュー】「めがねで夢を描け!」ものづくりの未来ここにあり

鯖江ならではのアクセサリーを展開している「KISSO(キッソオ)」というブランドがあります。なぜ“鯖江ならでは”かというと、めがねフレームの素材のひとつ「アセテート」を使っているからです。
カラフルでツヤのある素材の特徴を活かしたアクセサリーは、イベントや展示会などではいつも大人気。KISSOのブースは常に沢山の人で賑わっています。

そのアクセサリーを生み出したKISSO代表の吉川精一さんは、鯖江を代表する若手経営者の一人。近年盛り上がりをみせている“めがねフェス”など鯖江の地域活性化を担うイベントの立ち上げにも携わり、福井県だけでなく他の地域からも注目を浴びる存在です。

地元の未来を考え、常に新しい事に取り組み続けている吉川さんに、KISSOの誕生と、地域のものづくりのこれからについてじっくりとお話を伺ってきました!

アクセサリーブランドとしての成り立ち

今回改めてKISSOのアクセサリーを拝見し、色づかいもデザインも温かい独特の世界観をつくりだしていると思いました。2018年12月に行われたTOKYO MEGANE FESTIVALでは、RAW TOKYOとコラボをしてピアスを製作されてましたよね。このピアスも、アセテートで出来ているんですか?

吉川はい。これもアセテートという素材です。RAW TOKYOはヴィンテージセレクトショップが集まったマーケットということなので、その雰囲気に合うよう、あえて磨いていない素材をそのまま削ったものを、メタルパーツと組み合わせて作りました。


アセテートはザラザラとしたマットな質感も出せるんですね! インパクトのある形ですが少しくすんだ色の組み合わせで上品に見えて、すごく面白いデザインだと思いました。色の組み合わせや形などのデザインはどうやって決めているんですか?

吉川2018年から女性のデザイナーに入ってもらって、デザイン全般をお願いしていますが、それまでの10年近くはずっと自分達だけでやっていました。
もともとうちの会社はめがね用の材料を扱う商社だったので、それまでめがねの素材で作ってはいましたが、アクセサリーは作ったことがないおっさん達ばかりが働いていました。そのおっさん達で、ああでもないこうでもないと意見を出して、色の組み合わせを考えたり、色んな形に削ってみたりして(笑)。でも地味な色の展開しかなくて、あまり売れなかったんです。

そこで、明るい綺麗な色のアセテートも扱っていたので、「こっちの方でアクセサリーを作れば可愛いものができるんじゃないか?」と思ったのがKISSOの始まりです。

それが今のKISSOカラフルなアクセサリーの特徴になっていったんですね。

吉川実際に明るい色で指輪を作ってみたらすごく評判が良くて、それからブレスレットやピアスなどのバリエーションを増やしていきました。

僕たちが最初から目指していたのは、自分たちで作って、自分たちで売るということなんです。百貨店でポップアップショップを出させてもらった時も、自分たちがその場に立って直接お客さんの声を聞いたり反応を見て、次にそれを反映したもの作って売っていました。初めは、作って並べてみて、売れないものを見極めてまた試すの繰り返しでしたね。


なるほど、作る側がお客さんの反応を体感して、それをアクセサリーに活かしていくことを繰り返したんですね。

吉川それで、よりKISSOのアクセサリーをお客様に喜んでもらうものにするため、新たに女性のデザイナーに入ってもらうことになりました。ユーザーの多くは女性の方なので、そこに近い感性を入れる必要を感じたんです 。

お客さんに喜んでもらえる商品を作るために、どんどん新しいことを取り入れていったんですね。ちなみにアクセサリーだけでなく、耳かきなどの雑貨も製作されていますよね。

吉川最初は何がお客様に喜んでもらえる商品になるのかわからなかったため、アクセサリー以外にも色んなものを作って試行錯誤していました。耳かきや靴べらなどの雑貨を色々作っていましたね。

ただ、雑貨は良いデザイナーと鯖江の技術があれば作れてしまうので、真似されたら生き残れないと思ったんです。だから、ひとつの商品に絞り、クオリティの高いものにできるよう磨いていくことにしました。それが当社のアセテートの貼り合わせ技術から作られたアクセサリーだったのです。

アクセサリーに絞った理由は何だったのでしょうか?

吉川耳かきなども作っている頃に、「大日本市越前市」という、中川政七商店(※1)が主催している日本各地の工芸メーカーが集まる“ものづくりの合同展示会”の新宿伊勢丹の催事に参加させてもらった事がありました。その時に中川政七商店の社長とお話しする機会があったんです。

そこで色々相談にのってもらったところ、「日本一の女性向けのアクセサリーブランドになるといい。」とアドバイスをもらったんです。その時に大日本市催事のプロデューサーをしていた山田遊さん(※2)からも、「KISSOのアクセサリーはすごく売れていた。まだまだのびしろがあるから、もっと色んな種類を作るといいのでは?」とおっしゃって頂いて。

お二方から同じアドバイスをいただいて、「日本一のアクセサリーブランドになろう」と背中を押してもらえたんですね。

吉川そこから方向性を絞り、商品開発を進めたところ、徐々に色々なお店がおいてくれるようになっていきました。いつか中川政七商店の社長に「すげーな、KISSOは」と一目置いてもらえるようなブランドになりたいですね。


最初から今の形だった訳では無く、色んな人との出会いがあって、今の形に磨かれていったことがわかりました。

吉川まぁ、今でもおっさん達で作っているんですけどね(笑)。本当はイケメンの若い子達がやっていたらもっとかっこいいんですけど。だから工場見学とかあるんだけど、実はあんまり見せたくないなという(笑)。

そうなんですか(笑)! ぜひ見学に行ってみたいです!!

理想を現実化して、結果に繋げるために

吉川さんは、鯖江の地域活性化にも積極的に関わっていますよね。例えば、鯖江駅から眼鏡会館までの道中に様々なめがねのモニュメントが飾られている「メガネストリート」も、キッソオの社員である義弟さんのアイデアだと伺いました。

吉川ちょうど10年前から「鯖江ギフト組」という、めがねの材料や技術で新しいもの作りを始めようというプロジェクトが立ち上がり、当社も参加して今のアクセサリーが出来上がりました。
この鯖江ギフト組の勉強会の中で、今から3年くらい前にコンサルタントとして入ってもらった方から、「まずは“夢を描いて、夢を絵にしましょう”」というお話を伺いました。その時に僕とキッソオの社員(義弟)が描いた夢が、「めがねのテーマパーク」を作るという、偶然にも全く同じ絵を描いていたんです。

「めがねのテーマパーク」! しかもお二人とも同じ事を考えていたなんて、なんだか運命を感じますね。その時のアイデアはどういったものだったのでしょう!?

吉川簡単にいうと、「鯖江に来れば色んな楽しい体験ができるよ」ということです。鯖江市は毎年「鯖江市地域活性化プランコンテスト」を開催しています。それは、全国の大学生と地元の高校生に鯖江市の行政プランを提案してもらうというコンテストです。その大人版も開催されることになり、そこに参加した義弟のチームで出した案が「めがねのテーマパーク“メガネーランド”を作りたい」というものでした。

メガネーランドの第一歩として、「鯖江駅から眼鏡会館まで何も無いよね」という意見を元に作られたのが「メガネストリート」だったんです。駅から眼鏡会館までの道のりにめがねを散りばめて、視覚で楽しめるようなストリートというコンセプトです。



なるほど、「メガネストリート」は、これから出来るであろう「めがねのテーマパーク」の予告のようなものなのですね…! ところで、鯖江市には高校生や大学生などの若い人たちの意見を取り入れるという「仕組み」があるんですか。

吉川やっぱり若い人がいないと、新しいものが生まれてこないと思うんです。8年ぐらい前に、めがねに関わる企業の若手経営者の勉強会「SBW」(Sabae Brand Working Group)を、ボストンクラブの小松原一身さん(現眼鏡協会副協会長、現眼鏡工業組合理事長)が立ち上げました。
若手を中心に、マーケターやクリエイターの方を呼んで、「めがねのまちさばえ」のブランディングやそのためのPR、マーケティングをそこで学んでいます。

それがきっかけとなり、めがねフェスの開催や“TOKYO MEGANE FESTIVAL”への参加が始まりました。


TOKYO MEGANE FESTIVALでは、ブレスレット作りのワークショップを開催。

若い人が、鯖江のこれからのものづくりを考えて出たアイデアだったんですね。

吉川若い人が運営をして、若い人の感性でやると、若い人が来てくれて盛り上がるんですよね。めがねだらけのお祭りとか、他にはないことをするとメディアから注目されるようになりますし。

年々、めがねフェスの来場者も増えています。認知度も上がってきているという実感もあるのではないでしょうか?

吉川以前「鯖江ギフト組」で作った雑貨を販売したいけれど、どこで売ろうとなった時に、当時の鯖江眼鏡協会・会長の黒田一郎さん(現鯖江商工会議所会頭)が、「めがねミュージアムに売り場を作ってみてはどうだろう。」と言ってくださったんです。伝統的なものを守りながら新しいものを取り入れるという、今までに無い取り組みをしていると評価してくださって。「高級なめがねを売るための場所なのだから、そこに雑貨を置くのはどうなのか」という反対意見もあったんですが、黒田さんの一声で販売できることになりました。

僕らの取り組みが、めがね業界の人にも理解してもらえたんだと嬉しかったです。そして実際、販売したところ一番売れたのがチタンの耳かきの雑貨だったという事実も、より浸透していくきっかけにもなりました。また、この実績をもとに当社のアセテートを使った耳かきの開発につながっています。
そういった地元やめがねの産地の人への信頼を得ることが、何よりも大切と感じています。


若いエネルギーで盛り上げるイベント作り

福井は現在、めがねフェスだけでなく、産業観光イベント「RENEW(リニュー)」にも参加していますね。「RENEW」は、福井のものづくりの工房の見学やワークショップなどを体験しながら、商品を購入することができます。地域の伝統や文化を新しいスタイルで発信していますよね。

吉川「RENEW」は鯖江市河田地区の若いグループ「TSUGI」の代表・新山さんと、その当時河田区長をされていた、SBWのメンバーの谷口眼鏡の谷口社長(現協会副協会長)が立ち上げたプロジェクトです。
彼らは、2004年の福井豪雨で水害に遭った鯖江の河和田地区に災害支援活動で、“アートで街を復興させる”というコンセプトから始まった「アートキャンプ」に来た大学生たちのメンバーでした。

その学生たちの一部が鯖江に移住して、市役所やめがねや漆器の企業に就職したという事もあり、本格的に河田地区や鯖江を盛り上げようと「RENEW」を立ち上げ、さらにリニューアルしていき、現在の形になっています。


現在RENEWでは、福井の中で参加する地域がどんどん広がり、そこで体験できる伝統工芸の種類が増えています。更にその地元の飲食店なども参加して、規模も広がっていますね。

吉川福井の丹南地区の伝統工芸は、越前漆器・若狭塗和紙・越前打刃物・越前箪笥(たんす)・越前焼の5つに、眼鏡・繊維の産地を加えて7つのモノづくりの産地があるんですよ。こんなに歴史あるものづくりのバリエーションに富んだ地域は他に無いですからね。

2017年には、「大日本市」とコラボし、「RENEW×大日本市鯖江博覧会」として開催をしました。こうして全国で知られるようになり規模が大きくなる事によって、県内外のボランティアスタッフが沢山入り、鯖江に移住する若い人も増えてきているんですよ。

地域に受け継がれている伝統文化の魅力が、若い世代に伝わっているということですね。

吉川しかもRENEWはスタッフがほとんどが学生なんです。そうすると、学生が自分たちの友達を呼んだりSNSで情報を拡散するので、さらに若い子が参加し盛り上がって活気が出るという良い循環ができていると思います。

しかも、ほとんど行政から金銭的な援助を受けていません。スタッフは全員ボランティアでやってもらっていますし、なるべくコストをかけずに、どうやってイベントをPRするかという事やマーケティングの勉強会も続けています。イベントをするからにはこういった部分もしっかり固めて、毎年継続したものにしていくというのが大事ですからね。


地域活性化のために、若い人たちの考えを取り入れて今までに無い新しいものを生み出すという鯖江みんなの行動が、今まさに形になってきているところなんですね。最後に、吉川さんが今後実現したいと考えていることを教えてください。

吉川KISSOのアクセサリーが、めがね屋さんとお客様をつなぐ橋渡しのような商品になればと思っています。めがねフレームと同じ素材でできているので、アクセサリーをめがね屋さんで磨いてもらうことができるんですよ。磨けば艶が出るんですよね。だから、定期的にアクセサリーも磨きに来てくださいと言えば、めがね屋に行くきっかけにもなりますし。それに、めがね屋にめがねじゃないものがあってもいいじゃないですか!

そうやって、めがねもアクセサリーももっと多くの人に楽しんでもらえればいいなと思っています。

アクセサリーがめがね屋さんに行くきっかけになるというのも新しい発想ですね! これからも吉川さんから、どんな新しいアイデアが生まれてくるのか楽しみです。ありがとうございました!


※1 中川政七商店 :
減少の一途を辿っている日本の工芸を元気にするというビジョンのもと、生活雑貨や工芸品の製造販売を行なっている。近年では工芸の産地へのコンサルティングや地域活性事業なども行う。

※2 山田遊:
南青山のIDEE SHOPのバイヤーを経て、method(メソッド)を設立し、フリーランスのバイヤーとして独立。ショッププロデュースやインベントのプランニングなどでも活躍中で、目利きとして知られる。

KISSO(キッソオ)

株式会社キッソオ
住所:〒916-0019 福井県鯖江市丸山町4-305-2
電話:0778-54-0355

オフィシャルサイト:
http://kisso.co.jp

Instagram:
https://www.instagram.com/kisso_official