めがねは「似合う」から一旦離れて探すべし! 森一生さんインタビュー【グラスフィッター】

TVドラマや映画を見ていて、登場人物のかけているめがねが気になったことってありませんか? 芸能人にとってめがねは「自分の印象を強めるアイテム」であったり、役者にとってめがねは「役にはいるスイッチ」であったりと、めがねは様々な役割で使われています。イメージが大切な芸能界で、めがねはかける人の人物造形に一役買っているといっていいのではないでしょうか。

タレントやドラマの出演者などがかけるめがねを選んで、フィッティングする「グラスフィッター」という職業があります。芸能界における「めがねの仕掛け人」といってもいいでしょうか。そのグラスフィッターという仕事に就いている人は、日本で唯一「森一生さん」しかいません。森さんは、めがね芸能人「笑福亭鶴瓶さん」の新しいめがねもスタイリングされています。

今回は、グラスフィッターという仕事に携わっている森一生さんに、仕事の中で大切にされていることやめがね選びについてなど、いろいろお話しして頂きました! めがね選びについては、目から鱗のアドバイスがありますので、お見逃がしなく!!

仕事を通して「めがねを正しくかける」ということを伝えたい。


森さんは日本で唯一の「グラスフィッター」ということですが、なぜこのようなお仕事をしようと思われたのですか。

森一生僕は、「めがねを正しくかけてほしい」という強い思いがあって、この仕事をしています。まずは、そこを一番に伝えていきたいんです。

めがねのコーディネートではなく、めがねを正しくかけるという「フィッティング」を一番に伝えたいということですね。

森一生めがねを選ぶセンスというのは、人それぞれの価値観によります。けれど、その人にとって80点と感じるめがねでも、正しくかけていたら100点になる可能性もあるし、逆に100点と感じためがねでも、正しくかけられていなかったら70点にも60点にもなってしまいます。素敵なデザインでも、ズレたり曲がったりしていたら台無しです。そういう意味でも、めがねにとって「フィッティング(かけ具合)」はとても大切です。

なるほど。めがねはオブジェではなく、人にかけてもらって完成されるプロダクトなので、正しくかけられているかどうかというのが重要になってくるんですね。

森一生めがねのコーディネートも重要ですが、僕が一番伝えたいのはそこだと思います。だから「フィッター」という言葉を、職業名に入れています。

めがねを「正しくかける」ことを伝えるために、「グラスフィッター」と名乗られているんですね。

森一生テレビや映画などに出演している人が、正しくめがねをかけているところを見てもらって、真似してほしいと思っています。そういう思いもあって、テレビに出演されている方のめがねをスタイリングさせて頂いています。あとは、人と話すのが好きなので、コミュニケーションを通してめがねのおもしろさを伝えていけるところが、この仕事の一番楽しい部分だと思います。

めがねを調整する器具。現場でこれらを使って調整していく。

お仕事を通してめがねと関わる中で、めがねのどこがおもしろいと思われますか。

森一生まだまだ伸びしろというか、可能性が広がっているところです。僕も、めがねについてまだまだ気づいてないことが多いと感じます。仕事をしていても、「こんな事ができる!」「あんな事がやりたい!」という気づきがいろいろでてきます。

めがねは、まだまだ未開拓な領域があるということですね。

森一生そうですね。僕は自分が見立てしためがねで、かけた人の印象が変わる様を見るのが好きなんですが、めがねはそのように人の印象を変えたりつくったりすることができるアイテムです。そこに、まだまだ可能性を感じています。そして、それを任せてもらえるのは責任を感じると共に、やりがいを感じるところでもあります。

めがねは顔の上にのっているものなので、その人の印象に直結しますよね。

森一生そうなんです。めがねは名刺代わりになるようなものだと思います。僕はこの仕事に就く前、めがねのコンセプトショップに勤めていました。その店に、スタイリストさんや美術さんが、ドラマや映画などで使うためによく借りにいらっしゃってました。でも、その方達はめがねのプロではないので、フィッティングはできません。貸出しためがねが使われたドラマやポスターを見て、めがねがズレていたり大きかったりして、残念に思うことが多かったんです。僕がその間に入れたらなと、はがゆい思いをしていました。それが、この仕事をする最初の動機でした。

確かに、ドラマなどを見ていて、めがねをかけたキャラクターなのに、かけ慣れている感じがでていない人物って多いですよね。

森一生そうですね。ドラマなどは普段めがねをかけていない人が、かけるときが多いので。そういうことがないように、僕がきちんとフィッティングしたいなと思いました。

テレビドラマのグラスフィッティングだと、どういう流れでめがねを見立てするんですか。

森一生いろいろなパターンがありますが、まずは出演者と作品の内容を伝えてもらい、ある程度衣裳のイメージを教えてもらいます。それを踏まえて衣裳合わせなどで、めがねをかける出演者、プロデューサー、監督と一緒にめがねを選んでいきます。めがねが決まったら、かける人に合わせてフィッティングします。

そのような仕事の流れは、どうやって学ばれたんですか。

森一生師匠がいなかったので、そこは苦労しました。スタイリストやヘアメイクという職業だと、師匠がいて、その人のアシスタントとしてつくことで仕事の流れなどを学んでいきます。僕は誰もいなかったので、仲のいいスタイリストさんやヘアメイクさんに教えてもらい、業界のマナーやルールを学んでいきました。ゼロから一人で学んだので、その頃のことは強く印象に残っています。

「めがね難民」から脱するために、めがね経験値をあげよう!

三越や阪急などで、めがねのコーディネートイベントにも出演されていますが、どのようなことをされているんですか。

森一生グラスフィッターという仕事をしている森一生として、取材を受けたりテレビに出演したりと、メディアに出させて頂く機会があります。そのようなことを通して僕の存在を知り、僕にめがねをコーディネートしてほしいと希望された方がご来店されて、だいたい一人40分くらいかけてお見立てするというイベントです。

めがねをコーディネートしてもらう機会ってなかなかないですもんね。

森一生めがねは服や靴に対して、圧倒的にコーディネートする経験値が少ないアイテムなんです。だから成功体験が少ないので、めがね選びって難しく感じてしまうんです。めがね業界では、そういう人をよく「めがね難民」と称しています。

「めがね難民」!! 私も「めがね難民」の一人です…。

森一生僕は経歴上、人より経験があるのでアドバイスをさせて頂いていますが、それも100点のめがねを探すということではなくて、めがねといい出会いをするためのお手伝いをさせて頂いているという感じです。


森さんのブログでも、めがねは「似合う」ものを探すことから一旦離れて、「TPO」や「他人に与える印象」を重視する方法をとった方がいいと書かれていましたね。「似合う」から離れるということは、驚きでした。

森一生「似合う」は、=「見慣れている」になるんですよね。

その通りですね…。

森一生一回「似合う」を忘れて、「自分がどうなりたいか」というコンセプトを考えてから選ぶ方が選びやすいんです。

めがねは名刺代わりになるアイテムですもんね。自分をどう印象付けたいかをまずは考えると…。

森一生例えば、優しいイメージで見られたいのに、細くて四角いめがねを選ぶと逆方向のイメージになってしまいます。「どういう自分になりたいか」ということを考える。イベントでも、まずはそれを聞いています。めがねは自分を演出する道具でもあるんです。顔の上にのせるものなので、それによって変化が出るのは当然です。どう変化させたいかを考えてみてください。

めがねを見て「似合う」ものを選ぶのではなく、まずは自分のコンセプトを考えてからめがねを選ぶんですね。

森一生500円のめがねでもいいので、たくさんめがねをかけてみると、経験値があがって、どんなめがねを自分がかけたいかがわかってくると思います。

今は、アパレルショップでもめがねが販売されていますもんね。

森一生めがねは「目が悪い人が視力を矯正する」という機能をもった道具です。だから、最初は目が悪い人しかめがね屋さんに行きませんでした。ネカディブな気持ちで行くことが多かったので、「めがね屋さんがおもしろい!」というイメージがなかなかつきにくいんですね。今は、めがねがファッションの一部として定着してきているので、そういう部分もどんどん変わってきていると思います。

めがねが変革していく時代を、間近で見てきた。

先ほど、めがねのコンセプトショップに勤めていたとおっしゃっていましたが、どういうお店だったんですか。

森一生実家もめがね屋だったのですが、叔父がそれとは別にめがね屋を開いていました。若い人をターゲットにした、既存のめがね屋とはまったく違ったコンセプトの店を開きたいということで始めたお店でした。その当時、めがねはダサくてファッション誌に載るなんて考えられませんでした。だから、最初は「こんなめがねを誰がかけるんだ」と失笑してお客様が店を出ることもあったそうです。そこから少しずつめがねのイメージが変わっていった時代で、叔父は時代を動かした一人だと思います。イメージがやっと変わりだした頃、ちょうど20歳だった僕を、叔父が「一緒にやらないか」と誘ってくれました。そういうお店だったら、若い僕でも楽しめると思い、働くことにしました。

めがねのイメージが変革していく時代を経験されたんですね。

森一生叔父は、そういうところも含めて見て欲しいと言って、僕を口説きました。「どうせやるなら、若いうちからやってくれ!」と言われたんです。(笑)

叔父様が、森さんをめがねの道に誘ってくれたんですね。

森一生めがねの知識も教えてくれたので、僕にとっての師です。

そのお店でめがねに関する様々な知識や、お客様に対するホスピタリティなどを学ばれたのですか。

森一生はい。お店で働いている間に、プレス(ブランド広報やPR)業務や、各種媒体でのめがねの動向を感じて学ぶことができました。それが今の仕事のきっかけにもなり、活かされていると感じます。

お店で働かれているときは、直接お客様にめがねの良さを伝え、今はテレビや映画を通してめがねの可能性を発信しているということですね。
森さんはInstagramでめがねをかけた女性の写真をアップする【#グラ女】の活動もされていますよね。他にも、雑誌の連載など多彩に活動されていますが、今後「こんなことをやってみたい」ということはありますか。

森一生【#グラ女】は、自分の感覚を常に磨いておきたいと思って、取り組んでいます。

素敵な写真がたくさんありますが、森さんご自身で撮影されているんですか。

森一生そうなんです。めがねをもっと発信するためにも、こういう活動や雑誌の取材など、自分をもっと前に出していかなければと思っているのですが…。実は、苦手なんです。(笑)

そうなんですか!?

森一生取材を受けるのも、人前で話すのも、すごく緊張しますし…。コーディネートのイベントをしたときなどに「森さんのファンです」と言って頂くことがあるのですが、仕事でいつも大スターの方と接しているので、僕なんかにファンなんて…おこがましくて…。

いえいえ、ファンがいらっしゃるということは、森さんの伝えたいことがきちんと届いているということだと思います。是非「めがね業界」を盛り上げるためにも、「めがね業界の顔」になってください!

森一生裏方の仕事なので人前に出るのは恥ずかしいのですが、めがねをもっと多くの人に楽しんでもらうためにも、自分を通して発信していければいいなと思っています。


めがねを選ぶとき「似合う」から一旦離れてみてください、というアドバイスは、グラスフィッターというお仕事をされている森さんならではの提案だと思いました。
めがねは、顔にかけるものです。顔にのっているので、人の印象を大きく左右します。せっかくめがねをかけるのならば、自分をそのめがねで「どう見せたいか」を考えてみてもいいのではないでしょうか。かけるだけで、自分の印象を変化させることができるなんて、めがねはなんてお手軽で楽しいアイテムなんでしょうか!!

「めがね新聞」では、森さんの【#グラ女】撮影現場も取材してきましたので、そちらも後日アップします! お楽しみに!!

森一正

京都府出身。日本で唯一のグラスフィッター。映画、TVドラマなどで使われるめがねのスタイリングを手がけるほか、めがねのコーディネートイベント出演や、雑誌での連載など幅広く活動。

Instagram『グラ女』アメブロ『動くメガネ屋、グラスフィッターの活動記』