めがねのメンテナンスしてる?
突然ですが、めがねのメンテナンスってしていますか?
めがねって、毎日身につけるものだから、できれば清潔に保っておきたい。しかも目という重要な感覚器をおおうものだから、こまめに調整した方がいい。でも、「面倒くさいから放置!」…していませんか!? 買ったばかりのときは拭いて磨いていても、時がたつと忘れてしまうものですよね。とってもよくわかります。だったら、めがね屋さんに行ってプロにメンテナンスしてもらいましょう!!
「…でも、それだけのためにはいりにくい」……それも大変よくわかります…。
実はめがね屋さんも定期的にお店に来て、調整してもらいたいと思っているんです。
…う〜ん、なんだかうまくいっていないですよね…。
めがね屋さんとめがねを使う側がもっと上手にお付き合いができれば、めがねとの付き合いもよりいいものになるのではないのでしょうか!? ということで、「めがね新聞」では、めがねと人をつなぐ「めがね屋さん」について、考えてみることにしました。
第一弾は『眼鏡橋華子の見立て』作者・松本救助さんと、日本で唯一のグラスフィッターである森一生さんに、めがねやめがね屋さんについてお話しして頂きました。めがねに見識の深いお二人は、どんなめがね屋さんがあったらいいと思っているのでしょうか。
お二人はこの対談が初対面ということで、まずはめがねへの熱い想いから話は始まりました。
めがねは「世界の見え方」を変える力をもっている
森一生(以下、森)
『眼鏡橋華子の見立て』を読んで感服しました。松本さんは、めがね屋の店員をしていた経験があるんですか?
松本救助(以下、松本)
いや、まったくありません(笑)。
森
めがねの仕事に携わってなかったのに、こんなセリフを書けちゃうんですか!?
松本
そうですねー(笑)。客の立場から「めがねってこんなにおもしろいんだー」って思っていました。
森
「第5話 変身のメガネ」のレスザンヒューマンを取り上げた話に
「メガネを選ぶという行為は『なりたい自分を選ぶ』ということです」
というセリフがありますが、あれは僕が常々言っていることです! まさかマンガでこのセリフを聞くことができるとは!? しかも、めがねについてこんなに詳しく細かい情報まで載っているので、めがねの仕事に就いていたのかなーと思っていました。
森
以前
「めがね新聞」のインタビューでも言ったのですが、めがねを探すときは「似合うめがね」を探すのではなく、「自分がどう見られたいか」をまずは考えてくださいと提言しているんです。「似合う」で選ぶと、結局「見慣れたもの」を選んでしまうんですよね。自分をめがねでどう見せたいのかを考えてもらうのが、その人が求めているめがねに出会える一番の近道だと思います。
松本
ファッションの考え方に似ているのかもしれませんね。ファッション好きな人って、自分の弱点を理解したうえで研究して、明確に「見せたい自分」がある人が多いと感じます。
森
第1話にもありましたが、自分に自信がついてから見える世界は、それ以前と比べると大きく違いますからね。
松本
世界の見え方が変化するタイミングって、人生の中で何回か訪れると思うんですね。ファッションというのは、そういうタイミングのきっかけのひとつとして考えられます。めがねも、「身近」でかつ顔と「共存しているもの」なので、少し変えるだけで変化が大きく出るんです。視力矯正器具とファッションという両面をもつめがねだからこそ「世界の見え方を変化させる」ことができると思います。「めがねでこんなに変わるんだ!」という瞬間を皆さんに体験してほしいです。
森
僕がめがねのセレクトショップで働いていたときは、それを「布教活動」って呼んでいました。めがねの楽しさを教えて広めてくれる華子さんは、僕の代弁者のようです(笑)。めがね屋のスタッフが皆、華子さんのようだったらいいのに。
めがねが「ズレてるのダラしない」!?
松本
森さんはどのくらい前にお店で働いていたんですか。
松本
最近のお金持ちの「こだわりポイント」って、「腕時計」「靴」などと一緒に「めがね」も挙げられますが、当時はどうでしたか。
森
めがねをそう捉えている人はほとんどいませんでした。今でも「めがねにデザイナーっているの?」と聞かれることがあるくらいです。めがねに携わる仕事をしていて思うのは、「めがねについての知識がない人がこんなに多いんだ」ということです。
松本
めがねをズレてかけていることは、どう思います?
森
僕のInstagramの投稿には「#ズレてるのダラしない」と毎回入れています!
松本
私も個人的には許せないです! あるめがねをかけて「顔が小さく見えるフレーム!」と言っている人たまに見ますけど、それは顔より大きいフレームをかけているからそう見えるのだと指摘したい。
森
めがねは「フィッティングできる」ということを知らない人が多いです。調整できるということを知らないから、ズレてきてもあきらめてそのまま使っていたり、試着してみて窮屈だと「自分には似合わないめがね」と思い込んでしまったり。それは、めがね屋さんがきちんと伝えなかったところに原因があると思います。だから、フィッティングの大切さを少しでも伝えられればと、「フィッター」と名乗ったり、インスタで「#ズレてるのダラしない」と入れたりしているんです。
松本
私もマンガの中で、実はフィッター的なことやっているんです! アシスタントさんにお願いした作業の中で、レンズの真ん中に目が描けていなかったら「めがねを描くときは、レンズをチェックして真ん中をとってから描くんだよ!」って言っています(笑)。森さんは、現場ではフィッティングするための調整器具を持ち歩いているんですか。
森
そうですね。テレビの現場だと、小道具さんが出演者のめがねを用意することが多いのですが、用意するだけなので、出演者がかけたときにズレていたり曲がっていたりすることが多いんですね。めがねはフィッティングできるんだということを伝えたいので、僕がスタイリングするときには現場でしっかり調整します。
松本
フィッティングがだんだん広まってきていると感じますか。
森
なかなか難しいですね。少しずつ広めていってはいるのですが…。
松本
フィッティングの重要性って、かけている人じゃないとわからないところがありますもんね。
森
「めがねがズレているのはカッコ悪いんだ!」ということがもっと常識になれば、ドラマやCMでめがねが使われるときも、気にしてもらえると思うんですが…。
松本
あえて「めがね初心者」目線で言うとしたら、フィッティングをしてもらうのって、すごく恥ずかしいんです。目を真正面から見られるのに堪えられません…。あれって、フィッティングしている人は決して私自身を見ているわけではないから、かえって恥ずかしんですよね。
森
鼻パッドがきちんとあたっているのかを確認するとき、すごく近くで見ますからね。「鼻パッドを」ですが(笑)。
松本
丁寧にフィッティングをしてくれるお店に初めて行ったとき、時間をじっくりかけて調整することに驚きました。
めがね屋さんと「付き合いたい」のだ!
森
めがね屋さんなどに取材しに行くこともあるのですか。
松本
マンガのためだけではなく、自分の趣味としても行きます。先日、オーバーホールの体験ができるイベントにも行ってきました。
松本
鯖江にも取材に行きました。フレームにしていくための「削り」を体験したのですが、磨きあげる工程を知って、身の回りにあるものも思っている以上にくすんでいることに気づきました。めがねのクリーニングにも行きたいなとも。
森
めがね屋さんに持っていけば、そのお店で購入したものでなくても調整したり、クリーニングしたりしてくれることを知らない人多いですよね。
松本
でも、土日にいくと混んでいるので、なかなかクリーニングを頼みにだけは、はいりづらいですよね。最近、知ってはいたけれどはいったことのなかった「めがねセレクトショップ」に行ってみたんです。そしたら、来ているお客さんが「お茶しに来たよ」みたいな感じでいらっしゃって(笑)。日常的にめがね屋に行って、調節するなりクリーニングするなり、そういう風に気負わずメンテナンスできる環境があればいいですね。
森
買わないで、調整だけしてお店を出ると、後ろめたい気持ちになりますもんね。お茶を飲みに行く感覚で「入店できる気軽さ」が、メンテナンスが必要なめがねを売るお店には必要ですね。僕が店員をしているときも、一ヶ月に1回でいいからメンテナンスに来てくださいって伝えていました。店頭にある超音波の洗浄機をかけるだけで、めがねは長持ちしますから。
松本
めがねのメンテナンスは、自転車のそれと近いものがあると思います。私はロードバイクに乗るのですが、ロードバイクは乗っていなくてもメンテナンスするんですね。自転車はメンテナンスしていないと事故になる危険性があるので、使っている方も気をつけています。めがねも事故まではいきませんが、フィッティングが合っていないとかけている人の負担になるという面があります。日常的につけているものだからこそ、もっと気をつけるべきだし、めがねの不調に自分ではなかなか気づけないので、定期的にメンテナンスするべきなんですよね。
森
あと、顔の上にのっているものなので、めがねが汚いと単純に不快ですしね。鼻パッドのところが緑になっている人たくさんいますから。
松本
あれ、カビだと思っていて、恥ずかしくてめがね屋に持っていけなかったんです!
森
「こんな汚いめがねしていたのか、この人は…」と思われたくない?(笑)
森
「めがね調整屋」みないなのが、渋谷のど真ん中にあったら、意外と流行りますよ。
松本
お金を払った方が気が楽ですしね。「めがね直し屋さん」ですね。
講談社松本救助さん担当編集者
私は6年くらい前に、あるめがね屋に出会ったことで、めがねの捉え方が変わりました。『眼鏡橋華子の見立て』を松本さんと一緒にやることになったきっかけのお店なんです。そのお店では「めがねの調子が悪くなったらお店に来てください」って言ってくださるので、半年に一度のペースで調整しに行くようになりました。そのペースで調整していたら、6年くらいずっとそのフレームを使うことができているんですね。それまでは、めがねがそんなに長く使えるものという考えがなかったです。
講談社松本救助さん担当編集者
まだまだ使えますよって言われました(笑)。
森
値段が高いめがねだったとしても、その期間使えたら、日割りにすると安いですよね(笑)。僕も接客しているときにそんなこと言っていました。
講談社松本救助さん担当編集者
それまでは、安いめがねしか買ったことがなかったので、めがねは使い捨てるものだと思っていました。
森
アンティークのめがね屋さんがあるぐらいですから。フレームは長くもちます。でも、そんなことを考えたら、めがねは今や安く手軽に買えるものからオーダーメイドのものまで幅広い種類があって、ユーザーも多くなっている現在は、「めがねのチャンス」かもしれないですね。
松本
私はスリープライスのめがねも買ってみたいんですよね。
森
今、めがねがファッションとして広く認知されているのも、めがねがより身近になったのも、安価なめがねのおかげです。多種多様なめがねがあることがいいと思います。
「どんな悩みをもった人がかけるめがねなのか?」を思い描く
森
『眼鏡橋華子の見立て』を描くとき、「このブランドのフレームをとりあげたい!」とめがね先行で考えるんですか。
松本
ケースバイケースですね。「第3話 健気なメガネ」の「ic! berlin(アイシー! ベルリン)」はめがねからでした。「第5話 変身のメガネ」では、めがねを購入する人物のキャラクターが途中で変わりました。それは「レスザンヒューマン」のめがねの話で、購入する人は最初ナヨナヨした設定だったんですが、レスザンヒューマンのめがねをいいと感じる人はもともと自分の中に「かっこいい自分像」がある人なんじゃないかと思い直したんです。
松本
ありがとうございます。いつも「こういう悩みをもった人がかけるめがねは、どういうものなんだろう」と想像して描いています。
森
なるほど、悩みからめがねを選ばれるときもあるんですね。松本先生は、『眼鏡橋華子の見立て』以外の作品を描くときも、めがねを必ず大事に描かれていますよね。
松本
そうですね(笑)。他の作品でもヒロインがめがねをかけている設定のものがあるのですが、ふと気づいたら『眼鏡橋華子の見立て』じゃないのに、めがねにこだわって描いている自分がいます(笑)。
森
松本先生の作品がドラマになったら、『眼鏡橋華子の見立て』ではなくても、めがねを丁寧に描いてもらっているので、そのめがねを選ぶのは楽だろうな。『眼鏡橋華子の見立て』のドラマ化を熱望します! 眼鏡橋華子の役を演じたい女優さんはたくさんいると思いますよー。めがねが好きな女優さんもたくさんいますし。誰に演じてほしいとかありますか?
松本
視力がよくない人がいいな(笑)。ドラマではレンズを外してもいいので、実際は「めがねっ娘」の人がいいですね。
森
是非ドラマ化させて、めがねのおもしろさを広めてください!
松本
ありがとうございます。そのときは、森さんにグラスフィッターさんで出演お願いします!
対談を終えて
「お茶しにきましたー!」という感覚で「気負わずに通えるめがね屋」があったら、確かにいいですよねー。喫茶店に近いめがね屋だったらはいりやすい。
「めがねはメンテナンスするもの」という認識をお持ちのお二人だからこその提案です!
「めがね屋=めがねを買うところ」からまずは変えていくのがいいのかもしれません。だって、「めがね屋」はめがねを買うだけじゃないんです! 「では、他には何をやっているの?」を、めがね新聞としてもどんどんアピールしていきたいです!
そして、「めがね」が「視力矯正器具」という意味以外の側面を大きく持ち始めた今、めがね屋さんももっと色んなことをしてもいいのかもしれませんね…。
ということで、色んなことをしすぎている「あるめがね屋さん」に、取材に行ってきたのでした!
【めがね屋再考②】につづく。