【対談】松本救助×伊藤美玲「だからめがねに萌えている!」

めがね好きをはじめ、めがね業界関係者の間で話題になっていたマンガ『眼鏡橋華子の見立て』(講談社モーニング連載作)。このたび待望の単行本1巻が発売されました。その発売を記念して、めがねライターの伊藤美玲が、作者の松本救助先生に直撃取材を敢行! 作品についての裏話や、松本先生ご自身のめがね観などについて、お話を伺いました。

友人の買い物に付き合ったのがきっかけで……

伊藤美玲
『眼鏡橋華子の見立て』のことを知ったきっかけは、たしかツイッターでした。知り合いのめがね関係者や雑誌の編集者が絶賛していたので、ぜひ読んでみようと。めがねのマンガってことで、“めがねをかけている主人公に萌える”みたいなものを想像していたんですけど……。
松本救助
あぁ、めがね女子とか、めがね男子とかですよね。
伊藤美玲
そうそう。でも、このマンガは“めがね自体に萌えている!”というのが第一印象でした。そもそもこのマンガが生まれた背景は?
松本救助
めがね好きな友人の買い物に付き合ったことがきっかけでした。実は私、もともと“めがねは何でもいい派”だったんです。でもその友人と一緒に金子眼鏡店へ行ったとき、エッジがものすごくきいた職人シリーズの佐々木與市のフレームが目に入ったんです。それを友人に試しにかけてもらったら、一瞬で変身したように見違えて。「めがねでこんなに変わるんだ!」って感動したんです。それが4、5年前のことでした。
伊藤美玲
そこで運命的な出会いがあったんですね。で、それをマンガにしようと思ったのは?
松本救助
私はあまり覚えていないんですけど、友人いわく、その直後に喫茶店に入ってネームを切ってたとか(笑)。
伊藤美玲
おぉ~、それはすごい(笑)。この作品は1話ごとに1本のフレームがメインで紹介されていますけど、その選定はどうしているのかが気になりました。
松本救助
1巻の最初の3話は、かつて私がそうだったように、めがねがまったくわからない、めがねに期待していない層にも届くような選定にしようと思いました。第1話の泰八郎謹製は、王様のめがねっていうキャッチフレーズがいいなと思って。王道だけどしっかり魅力がある。第2話はかけ心地という点で、フォーナインズ。そしてネジを使っていないというギミックのおもしろさという点で、第3話はアイシー! ベルリンかなって。読者の方から「買いたい!」って感想をもらったり、知り合いからも「買っちゃいました」って連絡をもらったり。作品で取り上げたフレームに興味をもってもらえたのは嬉しかったですね。
伊藤美玲
そうしたわかりやすさは大事ですよね。私もライターを10年近くやっていると、どんどんマニアックな方向にいってしまって、一般のユーザーに届くような情報を伝えられていないんじゃないかって思うことがあって。そういう人たちには、もう私があれこれ言葉で伝えるよりも、「このマンガを読んで」って言いたいぐらい(笑)。
松本救助
ありがとうございます。めがね好きだと、どんどん奇抜なデザインを好きになっていく傾向にありますよね。私も最近は奇抜なデザインが好きなんですけど、作品を描くときは「悩みを明確にすること」を大事にしてめがねを選んでいます。

 

伊藤美玲
「悩み」というと?
松本救助
例えば、セルフレームをかけたときにテンプルの芯が透けて見えるのが個人的にイヤなんですよ。せっかくきれいな柄なのに、芯で邪魔されているような気がして。この芯がないものがあるのかなって調べて行きついたのが、1話で描いた泰八郎謹製でした。

 

伊藤美玲
なるほど、悩みを明確にするっておもしろいですね。その悩みを毎回きちんと解決してあげるから、華子の提案には優しさが感じられるんですね。でも、芯が気になるって悩みはなかなか聞いたことがないけど(笑)。
松本救助
先ほどの友人は、ブリッジの盛り上がりがイヤって言っていました。それが思春期の悩みだったそうで、お前の思春期超薄いなって(笑)。

 

伊藤美玲
その人すごい(笑)。ちなみに、作品に登場するめがねについては、すべて改めて取材はされているんですか?
松本救助
なるべくするようにしています。かけ心地とか含め、現物を見て、かけてみないとわからないことも多いので。とくにレスザンヒューマンは、こんなデザインでかけづらくないのかなって一瞬思うけれど、驚くほど軽くてかけ心地もいいので、「すごーいっ!」ってなりましたし。

 

伊藤美玲
ちなみに、めがねを絵に描くというのは難しい作業なんですか?
松本救助
二次元の顔に対してめがねをリアルに描くのは、なかなか難しいなぁと思っています。顔に貼り付いたようになってしまうんです。リアルな顔のバランスになるべく近づけて、かつ可愛らしく見えるように、めがねを書いた後、さらに顔のパーツをいじることもあります。

 

伊藤美玲
すごく細かく描かれていますもんね。
松本救助
例えば横を向いたとき、レンズが度なしなら鼻パッドまで見えるけど、度が入っていると鼻パッドは見えなかったり、実際より小さく見えたりするんです。そんな話まで、作画を手伝ってもらうアシスタントさんにはしています。

 

伊藤美玲
へ~っ、そこまで考えて描かれているんですね。きっとそういった部分のこだわりからも、めがね愛が伝わってくるんだと思います。もう一度そのあたりをチェックしながら読み返してみようっと。

めがねはやっぱり、かけてこそめがね!

伊藤美玲
それにしても、めがねとの運命的な出会いを果たしてから、かなり濃いめがねライフを送っていますね。
松本救助
そうですね。昨年は、IOFT(めがねの国際展示会)にも取材を兼ねて行かせてもらって、とても楽しかったです。視力測定に使う道具とか、担当さんに「経費で買って!」って頼んだんですけど、業者の方には「医療品なので売れません」 って言われました(笑)。

 

伊藤美玲
展示会って、そういっためがね以外のものが見られるのも楽しいんですよね。
松本救助
それに、めがねをつくっているメーカーさんの熱い話が直接聞けるのは、嬉しいですね。
伊藤美玲
ちなみに、6話に出てくる「めがね供養会」も行かれました?
松本救助
行きました。もう少し悲しそうな雰囲気なのかと思っていたら、意外と明るくて。今生の別れ、みたいな感じじゃないんだなって(笑)。

 

伊藤美玲
あはは(笑)。こうした業界の人しか知らなかったようなイベントを、読者の方に知ってもらえるのはいいですね。
松本救助
めがねの処分に困っていた人から、「これでなんとかできる」っていう感想ももらいました。この供養会の回を描くときに昔のめがねを発見したんですけど、ところどころ錆びていたんです。そのとき道具って使わないと錆びちゃうんだなっていうのを実感して、やっぱりめがねは道具だからかけてなんぼなんだって思いましたね。

 

伊藤美玲
そう、使ってあげないとね。なので私は、どんなに気に入っためがねでも似合わないものは買わないんです。1巻の番外編で華子が、デザインが気に入っているめがねを手にしながらも「でも つけないめがねを買うなんて… 道具は使ってこその道具!」って言っているところ、めちゃくちゃ共感しましたもん(笑)。
松本救助
そうですね。やっぱりかけてこそめがねなので。だから、私はそんなに持っていないのですが、デザイナーさんとかにお会いして50本とか100本とか持っているって言われると、そんなに持っていていいのかって、価値観が崩壊しつつありますね。

  

伊藤美玲
あぁ、そういう私もとっくに価値観が崩壊していて、すでに90本ぐらい持っています(笑)。

 

めがねライターに逆取材!?

松本救助
実は今日、せっかくなので伊藤さんのお仕事についても聞いてみようと思っていたんです。めがねライターって、どんな形でお仕事の依頼がくるんですか?

 

伊藤美玲
わぁ、逆取材は照れますね(笑)。媒体によっていろいろなのですが、例えばファッション誌とかでめがねの企画があるときは、その雑誌の読者の好みや企画のテーマに合わせためがね選びから携わることもあります。
松本救助
書くことだけではないんですね。

 

伊藤美玲
そうなんです。なので、各雑誌のテイストに合っためがねを提案できるよう、展示会で新作をチェックしておくのも仕事です。めがねを紹介する文字数が100文字ぐらいしかないときは、限られた文字数の中でいかにそのめがねの魅力が伝えられるか、その雑誌の読者に響くポイントはどこなのかを考えながら書いていますね。
松本救助
なるほど。その説明文とかにぐっとくることありますもんね。

 

伊藤美玲
『モード・オプティーク』や『眼鏡Begin』といっためがね専門誌だと、展示会の最新情報とか、めがね業界の人向けのマニアックなことを書くこともあります。
松本救助
あ、両方とも読んでます。特に『モード・オプティーク』は、めがねのグラビアって感じですよね(笑)。

 

伊藤美玲
あはは、そうですね(笑)。フレームごとに、どうやって撮ったら一番魅力が伝わるかって考えていますからね。
松本救助
ちなみに最先端の情報は、どこで集めるんですか?

 

伊藤美玲
やはり、春と秋の展示会がメインですね。東京での展示会はもちろん、ミラノやパリで行われる国際的な展示会まで取材に行くこともあります。世界中から様々なめがねブランドが集まるので、既存のブランドの新作をチェックしたり、新しいブランドを見つけたら、どんなブランドなのか話を聞いたり、展示会期間中は朝から晩までずーっと取材していますよ。

 

松本救助
担当さん、パリ行きましょう!

 

伊藤美玲
ぜひパリでご一緒しましょう!(笑)

作品の今後の展開は?

伊藤美玲
ところで、松本さんは好きなめがねブランドってあるんですか?

 

松本救助
最近はJ.F.ReyとBOZがすごく好きで。フランスのめがねのデザインはおもしろいですよね。

 

伊藤美玲
あ、私もめがねにハマりだしたきっかけはBOZなんです。リムに薔薇がかたどられているモデル。

 

松本救助
あぁ、あれ素敵ですね。作品にもJ.F.Reyを登場させたいんですけど、好きすぎて何を登場させていいかわからない(笑)。

 

伊藤美玲
それはどのモデルが登場するか楽しみですね。今後の展開とかは、もう考えているんですか?

 

松本救助
今、日本の温故知新なめがねと、最先端のめがねのふたつを描きたくて、めがね選びに悩んでいます。ひと言で最先端といっても、技術なのか、それともデザインなのか……。

 

伊藤美玲
確かに、何をもって最先端とするのかは難しいですね。

 

松本救助
例えばFACTORY900みたいに、福井の工場から生まれたオリジナルブランドっていうのは、地方の活性化という点でもある意味最先端だしなって思います。デザインだと、MASAHIRO MARUYAMAもおもしろいんですよね。

 

伊藤美玲
あぁ、おもしろいですよね。手描きのラフスケッチをそのまま生かしてデザインにした、カクカクしたラインが個性的で。

 

松本救助
パっと見るだけではわからないけれど、よく見ると左右非対称という。わかりやすく個性的でないという部分に、日本人的なデザインの最先端を感じるんです。

 

伊藤美玲
なるほど。最終的にどのめがねをピックアップするのか楽しみです。

 

松本救助
あと、1巻ではめがねに興味を持ってもらえるようにフレームを中心に紹介しているんですけど、今後はレンズとかめがね周りのものをもっと紹介できたらとも思っています。たとえば、鼻パッドに付く汚れのこととか。あれ、最初付いたとき「私はめがねさえカビらせる女なのか……!」って思ったりしたので(笑)。

  

伊藤美玲
今後といえば、華子と川原くんの関係がどうなっていくのかも気になります。

 

松本救助
今まで私が描いてきたマンガは、恋愛要素を出そうとするとことごとくダメ出しされてきたので、あの2人はどうなるかな(笑)。もしかしたら、初めての恋愛ものになるのかも……?

   

伊藤美玲
華子の生い立ちとかも気になりますね。今後明かされていくんですか?

 

松本救助
それがですね、今まで考えたものは、担当さんにすべて却下されているんですよ(笑)。「セルロイド工場で大火事を起こして行方不明になった父を探すために、めがね屋を始めたとかどうですか?」って言ったら、担当さんが悲しすぎるからダメって。

   

伊藤美玲
あはは(笑)。

 

松本救助
以前描いていた『メガネ画報』という作品でも、爆発ネタは却下されていたんですけど……。でも、もう最後にどうにもならなかったら、大爆発落ちで終わらせることにしましょう(笑)。

原画と一緒に写真撮影!

取材当日、松本先生は『眼鏡橋華子の見立て』の主人公・眼鏡橋華子を思わせる着物姿でいらしてくださいました! 最後は、貴重な原画と一緒にパチリ。


限定1名様に、松本先生サイン入り『眼鏡橋華子の見立て』を読者プレゼント!

読者プレゼント

松本救助先生のサインが入った『眼鏡橋華子の見立て』1巻を、1名様にプレゼント!
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  • ※応募締め切り:2017年4月30日迄
  • ※当選者のみメールをお送りします。
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