【わたしはめがねのここが好き!】第8回 映画監督・俳優 太田信吾さんの場合

めがねが大好き!
でも、なかなかそんなことを話せる場所もなければ、相手もいない…。
ならば、「めがね新聞」で思う存分語っていただきましょー!! という企画、題して「わたしはめがねのここが好き!」。

第8回は、「このめがねに出会ってから、すっかりめがねの虜です」と語る映画監督・太田信吾さんにインタビューしてきました!

太田監督は、映画監督としてだけでなく、ドキュメンタリー映画やMVなどを手がけながら、自らも俳優として舞台やテレビドラマにも出演されています。

そんな太田監督が主演・監督を務めた映画『解放区』が公開されました。今作は、完成してから約5年の歳月を経て、やっと一般劇場公開が決まったそうです。それは、助成対象となった本作が完成後、助成金担当機関より求めたれた修正を、太田監督が拒否し双方の意見が折り合わず、最終的に太田監督は助成金を返還するという経緯があったからです。それから納得のいく形での上映を目指し、今回ようやく公開が決まったのです

映画『解放区』の主人公はめがねをかけています。それは、「めがねをかけている」という見た目だけでなく、ある内面を表現したかったからだそう。監督・俳優ならではのめがね活用法や、今回の映画で監督が描きたかった事など、たっぷりと伺ってきました!

運命の一本に出会ってから、ずっとめがねをかけています

太田監督が今かけている丸めがねは、レトロでシンプルなデザインがすごく素敵ですね。

太田これは5年前ぐらいに、当時住んでいたところの近所にあっためがね屋さんで買ったもので、レトロなデザインとチタン製でとにかく軽いのが気に入ってます。その時はコンタクトをしていたので、お店に「ちょっと見てみようかな」ぐらいの気持ちでフラッと入ってみたんですが、店員の方と話したことで「買っちゃおうかな」と。

お店の方とはどんなお話をされたんですか?

太田僕に似合うめがねを店内くまなく探してくれたんですよ。そこで、それぞれのめがねの説明もしてくださって。僕が今かけているめがねは、大阪にあるアイトピアというめがね屋さんの方がデザインをして、鯖江の工場で作っているんです。めがねを買ったお店も、その大阪のめがね屋さんも「丸メガネ研究会」(※)というグループの会員で、その繋がりもあって仕入れていためがねだそうです。その時、僕はちょうど大阪で映画のロケが終わったタイミングだったので、大阪という土地に縁を感じたのと、日本を代表するめがねの産地である鯖江で作られているというところにも惹かれて、このめがねの購入を決めました。

デザインだけではなく、そのめがねにまつわるストーリーを教えてもらった事で、より魅力を感じたんですね。コンタクトをしていたということは、それまでめがねをかけていなかったんですか?

太田はい。中学生の時から視力は悪かったんですけど、めがねは授業中とか必要な時だけかけている感じで。当時かけていためがねはフレームが結構大きくて重かったので、あんまり好きではなかったんです。そういうこともあって、大学の時からはコンタクトにしていたんですが、映像の編集作業や脚本の執筆をするようになってからパソコンを使う事が増えてきて、コンタクトでの長時間の作業は目に負担がかかる事が気になってました。そう思っていたタイミングでこのめがねと出会えたというのもあり、それからめがね派になってましたね。

めがねを用いた、自分の内面からの役作り

太田監督は、過去に制作・出演された映画や舞台作品などでもめがねをかけていらっしゃいますよね。違うタイプのめがねをかけ分けているように感じたのですが、めがねは何本お持ちなんですか?

太田僕が今持っているめがねは、この3つと、今日はこれから北海道に取材に行くためちょっと荷物が多くて持ってこれなかったんですけど、家にはあとメタルフレームのウェリントン型と、プラスチックフレームのスクエア型のめがねがあります。

5本もめがねをお持ちなんですね!

太田でも、今日かけているめがねと比べるとどれも重くて…。自然とこのめがねをかけてしまいますね。

よほど今のめがねのかけ心地が良いんですね。丸めがね以外ではどうでしょう。気になるタイプのめがねってありますか?

太田いくつか欲しいタイプがありまして…今かけているタイプと同じような、「軽さとシンプルさ」を追求したものと、あと、趣味で釣りに行くので、偏光レンズのタイプが欲しいと思っています。

偏光レンズは水面や路面の光の照り返しを防ぐので、釣りや運転をする時に最適なレンズです。ファッション性の高い偏光レンズのサングラスも増えてきていますね。

太田現在、制作中の映画はダイビングをテーマにしているので、海に取材に行くことが増えているというのもあって。海の底まで見える、度入りの偏光レンズのサングラスが欲しいんですよね。

確かに、海での撮影にはもってこいのアイテムです。

太田あとは、映像が撮れるレコーダー付きのスマートグラスも試してみたいと思っています。カメラを構えて撮るスタイルではなく、自分の目線で撮る映像ってどうなるんだろう? って気になっていて。めがねって、見る事を補完する要素と、ファッションの要素と、最近はテクノロジー的な要素も加わってきていて面白い分野になってきていますよね。

めがねに対する、映画監督ならではの視点ですね! めがね新聞でもオーディオAR機能が内蔵されていたり情報がレンズ越しに表示されるスマートグラスなど、最先端のテクノロジーを搭載しためがねを紹介しています。近い未来、めがねで映画を撮っているかもしれませんね。ちなみに、こちらの黒縁のめがねは、かなり傷が入っていて使い込まれているように見えますが…。

太田これは2014年に初めて出演した演劇『スーパープレミアムソフトWバニラリッチソリッド』と、今度公開する映画『解放区』でかけた衣装用のめがねなんです。サウナに行って、80〜90度の熱でフレームの表面をわざと溶かして、レンズに傷をつけました。レンズはかけるとモヤっと見えるようにするためです。映画『解放区』は「fragile」(意味:脆い(もろい)・弱い・壊れ物 等)という英題を付けているので、主人公がいつも身に付けているめがねをあえてボロボロにしようと考えたんです。

©2019「解放区」上映委員会

それは、なぜでしょうか?

太田以前も、役作りのひとつとして「めがねをかけて欲しい」と演出家の方に言われた事があったんですが、単に外見上の演出だけでなく、もっと内側からの役作りに役立てるためにはどうしたら良いかなと考えました。それでやってみた事の一つが、「あえてめがねを傷つけて見えにくくする」ということでした。見えにくいと自然と目を細めるし、ストレスも溜まってきます。そうなると性格は徐々にネガティブになって、それが表情にも出てきたりするので、それも演技として取り込んでいきたいと思ったんです。だから、映画の撮影期間は普段の生活の中でも、ずっとこのめがねをかけていました。

このボロボロで見にくいめがねをずっとかけていたら、前向きな気持ちにはなれないですよね…。実際にかけ続けて、どう変化しましたか?

太田めがねから役の内面を作っていく作業は、少しずつ味が浸透して出来上がる漬物のようでしたね。性格が徐々に内向的に、ネガティブに変化していくのがわかりました。今回の役作りをするうえでは最適な方法でしたが、やはりめがねは見やすいものでないとダメだということがよくわかりました(笑)。

映像としてどうしても残しておきたかった、西成という街の記憶

このあえてボロボロにしためがねをかけている主人公をとおして、西成の街を描いた今回の映画『解放区』ですが、西成を舞台にした映画を撮ろうと思ったのは何かきっかけがあったんですか?

太田2010年に、大学の卒業制作で作った自主映画を全国のコミュニティースペースで上映をする「コミュニティー映像祭」に参加しました。その会場のひとつに西成もあり、それで初めて訪れたんです。西成は、大阪の中心部や観光名所からそう離れてはいない場所なのに、その辺りの印象とは全く違っていました。沢山の路上生活者や日雇いの仕事を求めて毎日生きるのに必死な人達の姿を目の当たりにし、日本にはいまだにこういう場所があるのかとすごく衝撃を受けたんです。その僕が受けた感覚を描きたい、映像として残しておきたいと思いました。

©2019「解放区」上映委員会

その映像祭以降も、実際に映画を撮るまで何度か西成に足を運ばれたんですか?

太田半年に一回ぐらい行っていましたね。また、月に1回、都内各地で街に出て「ワンシーンワンカットで撮影し1日で映画を完成させる」というプロジェクトを行なっていました。それを一度西成でもやろうということになったんです。

映画『解放区』の中で、主人公がかつて西成で取材をしたという少年の映像が出てくるのですが、あの映像はそのプロジェクトの時に撮ったものです。

その少年は、主人公が再び西成へ向かうきっかけとなった人物ですね。実在の人だったとは!

太田実は、彼らとは今連絡が取れないんですよね…。撮った映像を映画にするとは伝えていたので、問題は無いと思うのですが。だから、彼を探しに行くロードムービーという構成だったら、西成の街の景色や、現地の人と関わる瞬間なども撮れると思って、映画の構想を固めていったんです。

太田監督は今までドキュメンタリー作品を多く撮られていましたが、映画『解放区』は一般劇場公開される太田監督の映画としては、初となるフィクションの作品だそうですね。

太田この映画はフィクションでありつつ、街の記録としての要素も併せ持つ作品でもあります。映画が完成してから公開されるまでの5年間に、「あいりん労働福祉センター」の取り壊しなどと街は大きく変化しました。

映画には、今はもう無いものもたくさん映っているので、そういった点でも特にそこに住んでいる人達にとっても特別な映画になったと思います。

太田映画の撮影にあたっては地元の住民の方々に協力をいただき、その方達がいなくては撮れなかった場面も沢山ありました。そういったところにも是非注目して観ていただきたいです。

ドキュメンタリーと間違えられるほどの演出や、一般劇場公開までに5年の月日が経っているという時間がもたらした重みなど様々な要素が詰まっていて、映画の描き方の新しい可能性を感じました。

太田僕は、映画の撮影をとおして、自分の価値観が揺さぶられたり、自分の想像を超えていく瞬間に遭遇したい、そして、そこにこそ映画を撮る意味があると感じています。また、社会に顕在化していないことを、映画で世に問いかけていきたいという思いもあります。

この5年という月日が、この映画には必要だったということが良くわかりました。最後に、太田監督が次に準備している作品について伺えますでしょうか?

太田ドキュメンタリーに関しては、 Yahoo!ニュースで10分の短編映像を公開しています。WEBは観た人がすぐに行動に繋げていけるスピードがあるので、社会を変えていく上でのドキュメンタリーの力をすごく感じていて、こちらも同時進行で力を入れて行きたいと思っています。また、ほかでもフィクションの作品は、先述したダイビングをテーマにしたものを含めて2本企画が進んでいます。

先ほどお話しした、スマートグラスでの撮影も早く試してみたいですね。でもその前に、この丸めがねのフレームが曲がってきてしまっているので、こっちの方を先に買わなければと思っています。

そうなんですね! めがねを新調する際、よろしければ太田監督のめがね選びに是非「めがね新聞」も同行させてください!! 今日は、ありがとうございました。

【写真】田島雄一

※丸メガネ研究会:
オリジナルの丸めがねフレームを開発や、調整技術を磨くなどして丸めがねの魅力を伝えているめがね屋さんの有志のグループ。

太田信吾(おおた しんご)

<プロフィール>
1985年生まれ。映画監督・俳優・映像ディレクターとして活動。長野県出身。大学では哲学・物語論を専攻。初の長編ドキュメンタリー映画『わたしたちに許された特別な時間の終わり』が山形国際ドキュメンタリー映画祭2013で公開後、世界12カ国で公開。俳優として演劇作品のほか、TVドラマ等に出演。2017年には初の映像インスタレーション作品を韓国のソウル市立美術館で発表した。テレビ番組「旅旅しつれいします。」(NHK総合)、「情熱大陸」(TBS)やMV、舞台の演出も手がける。2018年〜ヤフーニュースでショートドキュメンタリーを連載中。子供の頃の夢は漁師。趣味は釣りとフットサル。

映画『解放区』

©2019「解放区」上映委員会

10/18(金)よりテアトル新宿にて上映!

エグゼクティブ・プロデューサー:カトリヒデトシ|プロデューサー:筒井龍平、伊達浩太朗
アソシエイトプロデューサー・ラインプロデューサー:川津彰信
監督・脚本・編集:太田信吾
撮影監督:岸健太朗|録音:落合諒磨|制作:金子祐史|音楽:abirdwhale|Kakinoki Masato
助監督:島田雄史|制作助手・小道具:坂田秋葉|録音助手:高橋壮太
制作応援:荒金蔵人|現地コーディネーター:鈴木日出海、朝倉太郎|撮影助手:鈴木宏侑
エンディングテーマ:ILL 西成 BLUES -GEEK REMIX- / SHINGO★西成
(作詞:SHINGO★西成 / 作曲:DJ TAIKI a.k.a. GEEK)©2007 by Sony Music Publishing(Japan)Inc.
出演:太田信吾、本山大、山口遥、琥珀うた、佐藤亮、岸健太朗、KURA、朝倉太郎、鈴木宏侑、籾山昌徳、本山純子、青山雅史、ダンシング義隆&THE ロックンロールフォーエバー、SHINGO★西成 ほか

製作:トリクスタ|制作プロダクション:トリクスタ、ハイドロブラスト 宣伝:contrail|デザイン:武田明徳(VOX)
『解放区』上映委員会(トリクスタ+キングレコード+スペースシャワーネットワーク)
2014年/日本/カラー/ビスタ/114分/DCP/英語字幕付き上映/R18+/英題:Fragile
配給:SPACE SHOWER FILMS|©2019「解放区」上映委員会

『解放区』公式サイト
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